どんな商品やサービスにも、いつかは衰退期が訪れます。ビジネス環境の変化が激しい近年は、尚更そのリスクがあるでしょう。そのため、多くの企業が新たな収益源を確保しよう、社会変化に対応しようと新規事業の創出を考えますが、成功例はわずか数パーセントと言われています。そこで大広では、新規事業家の守屋実氏をフェロースタッフに迎え、企業の新規事業開発を支援するプログラム「まるっと請け負う事業開発」をスタートさせました。30年で55事業の立ち上げに参画、リアルな勝負どころを知り尽くしている守屋氏。新規事業開発の成功ポイントや、広告代理店が新規事業開発支援を行うメリットなどを、COCAMP編集室が取材しました。
【インタビュイー】
守屋 実
新規事業家。ミスミを経てラクスルなどの創業に参画。博報堂、JAXAなどのフェロー、東京科学大学客員教授、内閣府有識者委員を歴任。2018年2ヶ月連続上場。近著に『新規事業を必ず生み出す経営』『起業は意志が10割』など。
なぜ、新規事業を社内でやるとうまくいかないのか
―守屋さんはよく「新規事業は十中八九うまくいかない」とおっしゃっていますよね。
我が国のベンチャーキャピタルは、だいたい年間1,500〜1,600社に投資しています。でも、その中で上場を果たすのは70〜80社しかない。毎年100社ぐらい上場しますけど、うち20社ぐらいは長年じわじわ業績を伸ばして上場する中堅企業が混じっています。
いわゆるスタートアップとしては、1,600社に投資して80社しか上場しないんですから、成功率はわずか20分の1。「十中八九」は決して大げさではありません。これは、すでに本業のある企業が社内で新規事業にチャレンジするとしても同じことです。むしろ、スタートアップよりも根深い問題が成功を邪魔するでしょう。
―根深い問題…。それは何ですか。
「本業の汚染」です。僕はそう呼んでいます。新規事業のつもりでやっていても、どうしても本業の劣化版になってしまうんです。すでに何かしらの事業が成功したことで存続してきた企業は、頭の先から足の先まで「本業最適」になっているんですよね。だからこそ、これまでは勝ててきた。でも、新規事業ではそれが仇になる。本業での当たり前を、新規事業にも押し付けてしまうんです。
わかりやすい例を言うと単年度会計です。上場企業は4月-3月で会計が回っているので、1年で結果を求めようとしたり、新規事業で予算を調整したりするんですよ。ベンチャーキャピタルでは、10年単位で投資を考えるのが普通なのに!
―でも、守屋さんは「大企業は必ず新規事業を生み出せる」とも言っておられます。
僕はいまJR東日本スタートアップのフェローも務めているんですが、JR東日本スタートアップでは、JRグループという巨大なインフラリソースと、そのリソースの課題を解決できるスタートアップとのオープンイノベーションで、5年で1,077の案件を検討し、108案件の実証実験をおこない、その結果として51の事業を生み出しました。本気で生み出すことに舵を切った大企業は強いです。そういった新たな事業を引っ張る人材の側面でも、出現確率が低い起業家人材であっても、そもそも従業員の母数が多いので、社内のどこかに起業家人材が埋もれているだけで必ず存在するんです。本当に大企業には可能性がある、と思っています。
ただやっぱり、その良さを凌駕して新規事業を根絶やしにしてしまう「本業の汚染」があるので、立ち上げる前に除染をする必要がある。だから「3つの切り離し」をしていただきたい。このことは強く言っておきたいです。
新規事業開発を成功させるための3つのポイント
―「3つの切り離し」とはどういうことですか。
1つめは「単年度会計」の切り離し。先ほどの話ですよね。経営陣は、決算や株主総会をどう乗り越えるか、気にせずにはいられない重要事項ですが、顧客からすると4月-3月で会計が回ってるかどうかは関係のない話だし事業の成功という点からすると、もっと長いスパンで結果を見るべきです。僕が以前、副社長を務めていたラクスルはスタートアップとしては順調な成長過程を辿っていますが、それでも上場まで8年かかりました。単年度会計で「創業」を考えるなど、まったくもって相性の悪い話しなのです。
2つめは「会議体」の切り離し。大企業の会議体ってミルフィーユのような構造になっていますよね。その格が上がるほど、事前に関係部署への根回しや書類の添削が必要になったり…。でも、勝ち方はおろか、商売の形さえも決まっていない新規事業の報告を、念には念を入れた書類づくりをして、階層別の会議体をすべてクリアするために時間をかけるなど、無駄でしかない行為だと思います。そんなことをしている暇があったら、現場に出て、どうしたら新た価値を生めるのか、感じてもらえるのか、お金を払ってもらえるのか、夢中で顧客に向き合うべきだと思います。
3つめは「評価」の切り離し。新規事業は十中八九うまくいかないものなのだとしたら、9回転んでも想定内のはずで、だとしたら「能動的な撤退」が、当然にして行われているべきです。だから、本来、新規事業を起案する人間は、起案権と併せ持って、撤退権も持っているべきなのです。ただ現実は、なかなか「撤退します」って言えないんですよね。失敗を悪だと思っているし、マイナス評価を恐れているから、上司が「もうここまでだ」って言うまで延々と待ち続けることになる。そんな状態で9回も転んだら、起案者自身も大変だし、会社も大変なことになってしまいます。
―とてもよくわかります。この3つを、社内ではなかなか切り離しづらいということも…。だからこそ、新規事業開発は社外でやるのがいいんですね。
そう、そのために「まるっと請け負う事業開発」があるんです。もともと、私が博報堂とフェロー契約したことで大広ともつながりができたのですが、業態を知れば知るほど「広告代理店って、事業開発代理というビジネスに向いているなぁ」と思い始めて。それをみんなに伝えたことから、このプログラムが生まれました。
「まるっと請け負う事業開発」とは
「まるっと請け負う事業開発」は、その名の通り、企業の新規事業開発のアウトソースを担う「事業開発代理業」をコンセプトとしたサービスです。
企業の新規事業の出島となるイメージで、大広が企業の新規事業起案者を出向という形で受け入れ、創業の思考と行動力を鍛えつつ、事業開発・事業育成へと導く環境を提供します。このサービスは、新規事業開発のいかなる段階からでもご利用いただけます。
(図)新規事業育成プログラム
―「あらためて守屋さんからご覧になって、「まるっと請け負う事業開発」は企業にどのようなメリットがありますか。
さっきの「3つの切り離し」をやりやすくなるのが一番ですが、それだけではありません。まず、本業のなかに新規事業があると、どうしても「コンプライアンスやガバナンスはどうなるんだ」という話になってしまいます。でも本業のそういう部分を変えるわけにはいかないので、やっぱり新規事業は開発代理店に移してやるほうがいいんですよね。たとえば、医療・介護・ヘルスケアって、企業が新規事業で参入しようとするお決まりの分野なんですけど、そのうち「命に関わる分野はいかがなものか」という声が社内で上がるんですよ。そうした「何かあったらどうするんだ、責任は取れるのか」というような意見が幅を利かして、結局、間接的なシステムだけ提供するような話に縮小してしまったり…。本業を守ろうとするばっかりに、あれ?俺たち何を助けたかったんだっけ?ってことになってしまう。新規事業を外に出せば、本業にとらわれることなく思いっきり取り組めます。
それから「まるっと請け負う事業開発」では、僕を含め6人の起業のスペシャリストがフェロースタッフとして集結していることも大きいと思っています。チームとしての戦力バランスを考えて、僕から声をかけさせてもらいました。
―そうそうたる顔ぶれですね。
ここまでのメンバーが揃うのは、ちょっと他ではないでしょうね。
共通点は「新規事業に強い」なのですが、それを前提としたうえでの、僕が考えた6人のバランスはこんな感じです。古谷さんと矢澤さんは、ベンチャーキャピタルの代表としてスタートアップと向き合っている量が、我が国トップランカーだったりします。井川さんは国際派かつ大企業派で数々の経験のなかにはブルーボトルコーヒーの米国本社の役員の経験もあったりします。畠山さんは国内派かつスタートアップ派。起業家の育成にも注力をしています。中村さんは、大企業とスタートアップを結びつけるオープンイノベーションの立役者。現在も、そのトップランナーとして先頭を走り続けています。起業に関して量稽古で勘所をつかんでいるメンバーたちが、要所要所でメンタリングを行います。
伴走者の存在って、ものすごく大切なんですよ。僕自身これだけ語っておきながら、かつて新規事業で三連敗したときにはメンタルがやられました。金曜日の夕方は休み前なので心底ホッとして、月曜日の朝になると吐いてしまう。髪も薄くなっちゃって。そのとき思ったんです、さんざん人に「新規事業は十中八九うまくいかない。だとしら、つまりそれは、十中一二はうまくいくということ。だからどうやって八や九を乗り越え、一や二に至るかなんだ」なんて言っておいて、自分は何やってんだと。失敗して当たり前だと、頭ではわかっていても心が砕け散ってしまう。孤軍奮闘は辛すぎるから仲間が必要なんです。
「まるっと請け負う事業開発」では、百戦錬磨のメンターがいて、より身近な伴走者として大広のスタッフも付いている。こんなに心強いことはないと思います。
―企業から出向してきた起案者が、安心して新規事業開発の実践経験を積めるわけですね。
新規事業開発って、全部をいっぺんに考えて当たり前なんですよ。人事部にいると人事のこと、経理部にいるとお金のことを中心に考えると思うんですけど、それじゃダメなんです。「創業」なので、全部をいっぺんに考えるのが、基本の基なのです。加えて、新規事業開発では今日のことと5年後のことを同時に考えないといけません。もちろん5年後の解像度は粗いかもですが、それでも、「創りたい未来は何なのか、そのために必要なヒトやカネがどれくらいなのか」などを、見通していく必要があるのです。
でも現実問題、そういうことは実務を通さないとわからないじゃないですか。あぁ、だからBS(バランスシート)が大事なのか! CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)はこういうことか! って。実際にそれを経験できる機会っていうのはものすごく貴重です。
しかもベンチャーと違って、外に出て新規事業に取り組んでいるといっても起案者は大企業に勤めている身なので、給料は保証されている。いかに恵まれているかって話ですよね。
広告代理店だからこそうまくいく「事業開発代理業」
―大広という広告代理店が事業開発代理を行う意義については、どのようにお感じになりますか。
広告代理店って、もともと自分たちでは何も持っていないですよね。持っているのは人だけ。人が中心となって、クライアントにとって最も適切であろうことを考え抜いて提案する。たとえば車をつくる会社は、そこに最適化されすぎているけど、広告代理店は言ってみれば、なんにでもなれる。僕は、そういう会社こそが事業開発代理に最適だと思っているんです。顧客のことを思って、個別にゼロスクラッチから考えてPDCAを回すから、本業の汚染が汚染にならない。
あと、大広はとにかく顧客価値を大事にしているのがいいと思います。大企業に勤めていると、入社から退職まで顧客との接点のない人も多い。販売部門にいても、顧客対応を販売代理店に丸投げすると代理店のコントロールだけで終わりますから。それでどうなっちゃうかというと、仕事の目的が顧客の満足ではなくなってしまう。自社や自部署、そして自分のノルマの達成になってしまうことも少なくないんです。
ところが大広に出向すると、マーケティングプランナーが伴走してくれるんですよね。起案者の中でも明確になっていない新規事業のブランド人格を言語化してくれるうえに、徹底して顧客価値指標の観点を叩き込んでくれますから、劇的に視点が変わるんじゃないかと。―「まるっと請け負う事業開発」には、人材育成という側面もあるということですね。今後の展開が楽しみです。
大企業に勤めている人は1,500万人ほどいるという話しを聞きました。そのうちの0.1%だけでも1万5千人。その人たちが本気で起業すれば、我が国は変わりますよ。失われた30年なんて、すぐに取り戻せる。それくらい大企業の力は強い。そこをあきらめたくないし、応援したいと僕は思っています。
「まるっと請け負う事業開発」でカタチになった「worternity(ワータニティ)」のECサイト。某企業が社内で開催したビジネスプランコンテストの優勝チームによる新規事業で、働く女性をターゲットとしたマタニティウェアのレンタルサブスクリプションサービスです。
大広はデザイナーやライターといったクリエイターも擁しているため、事業開発のフェーズでアウトプットが必要になったときも、タイムラグなしに即カタチにすることができます。
https://worternity.jp/
まとめ
企業が継続して成長していくためには、新規事業の起ち上げが必要です。大広がスタートさせた「まるっと請け負う事業開発」は、新規事業開発の起案者を出向という形で受け入れ、6人のスペシャリストがメンタリングを行い、マーケティングプランナーが並走することで事業育成・顧客育成をサポートするプログラム。人材育成の面でも成長が期待できるので、新規事業をお考えなら検討されてみてはいかがでしょうか。
最後まで、お読みいただきありがとうございました。大広COCAMPでは、これからも事業支援・事業開発 に関するコラムを掲載してまいります。まだメルマガ未登録の方は、これを機会にぜひ、下記よりご登録ください。
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