定性調査やペルソナ分析のレポートを作成して、社内共有やプロモーションの素材として活用して終わり——そんなケースは少なくありません。せっかく優れたインサイトを掘り起こしたのだから、それを顧客の手に渡る「商品」や「サービス」として昇華して、生活者の心を動かしたい。 単なる分析結果で終わらせず、意味や理由を再編集し、自分たちの手で生活者に届くモノという形(プロダクト)にしたい。そんな思いから始まったのが、大広若者研究所(D’Z lab.、ディーズラボ)による実験的プロジェクトです。 彼らが挑んだのは、自社で調査したデータを起点に、生活者に新しい顧客体験を届けるための商品開発と、直販による検証でした。
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データ解釈と「新しい顧客体験」のコンセプト設計
取り組みの出発点となったのは、D’Z lab.が実施した「Z世代休日の過ごし方調査」です。この調査では、若者の休日の過ごし方が「#おこもり自堕落さん」「#ゆったりご自愛系」など8つのタイプに分類されました。

この調査の際に行った、Z世代へのインタビューをもとに、若者が休日に求めている「小さな幸せ」に着目。休日に感じる幸せのインサイトを4種類に分類して、それぞれの価値観キーワード(創作四字熟語)を設定しました。
微罪祝福(びざいしゅくふく):少しの背徳感に感じる幸せのさま
偶然好縁(ぐうぜんこうえん):思いがけない出会いが運んでくる幸せのさま
季節好日(きせつこうじつ):新しい季節の訪れを感じる幸せのさま
平凡祝祭(へいぼんしゅくさい):何気ない日常に幸せを感じるさま
そして、これらのキーワードをもとに、休日の具体的なワンシーンを描いた4つのショートエッセイを創作。 例えば「微罪祝福」から生まれたエッセイはこんな内容で休日特有の背徳感と解放感をリアルに描写しています。
「じんわり汗ばみ、目が覚める。夕陽がカーテンを橙色に染めていた。洗濯も、風呂掃除も、ゴミ出しも、今日はもう見なかったことにした。これで、いいんだ。これが、いいんだ。そうして私は、食べかけのカップアイスを取り出した。この甘ったるさが、今日の私を許してくれた気がする。だって今日は、何もしないを、する日だから。」
データを客観的なレポートではなく「感情を揺さぶる言葉」へと編集し直すことで、Z世代が自分自身の体験として深く共感できるストーリーを用意したのです。
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偶然好縁をキーワードとしたエッセイ 
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平凡祝祭をキーワードとしたエッセイ 
商品化への落とし込み
エッセイからどんなプロダクトや体験を創るか
完成した4つのエッセイは、単なる読み物ではありません。このプロジェクトの核心は、ストーリーを通して生活者の感情を動かし、日常の中に持ち帰れるプロダクトと新しい体験を提供することにあります。 生活者がその世界観に浸れるプロダクトとして選んだのは「お香」でした。「お香」を選んだ理由は若者の間でお香ブームが再燃しているという市場の兆しに加え、「煙をくゆらせ、香りが広がる時間」そのものが、「休日の小さな幸せ」を追体験するのに最も適した媒体だったからです。
体験の核心はスペックではなく「言葉」で選ぶ購買体験
ここで設計した新しい顧客体験のコアは「香りではなく『言葉』から商品を選ぶ」というアプローチ。 通常、お香やフレグランス商品を購入する際は、店頭でテスターの香りを試し、直感的な好き・嫌いで選ぶのが一般的です。しかしこの取り組みでは、あえて香りの説明やテスターを前面に出さず、店頭で4つのエッセイを読み、「自分自身の休日の情景に一番重なる物語」を選んで、その物語のお香を購入してもらう仕組みを構築しました。
「香りそのもの」を機能として売るのではなく、「自分の感情に寄り添う言葉」を選んでもらい、あとから香りが付いてくる——。既存の選び方を逆転させることで、商品を通じた新たな情緒的価値の創出を狙いました。
マルシェ出展~販売現場での検証
このお香は2026年10月2日〜3日にグラングリーン大阪で開催されたイベント「CULTURE SNACK '26」にて、1個1,200円で販売しました。店の名前は「香りではなく言葉で選ぶお香屋さん」。「香りを試さず、言葉への共感だけで購入する」という新しい購買スタイルは世代をこえて好評でした。
販売を通して、顧客と直接対話して生の声を聞くことができたのもプロジェクトメンバーにとっては貴重な体験でした。「香りではなく言葉で選ぶというコンセプトに惹かれて立ち寄りました。」「言葉だけで選んだので使ってみるのが楽しみです!」「言葉も香りも感情を刺激するという共通点を考えると、案外理にかなっているのかなと思いました」「またリピートしたいので、色々なお店で買えるようになると嬉しいです。」など、ターゲットとしていたZ世代だけでなく、幅広い年代層から共感の声をもらいました。また、プレゼントする相手の休日を想像しながら購入するというギフト需要も少なくなかったそうです。2日間で100個越えの販売を達成。「感情を刺激する言葉への共感」が付加価値として機能することが実証されました。プロジェクトを担当したD’Z lab.のメンバーは、このPoC(概念実証)を通じて大きな手応えと学びを得たと語ります。
「今回はマルシェ形式での出展ということもあり、手作業による温かみのある商品に仕上がりました。一方、今後も販売を続ける場合は、パッケージの完成度や情報の伝わりやすさを高め、接客がなくても商品の魅力が伝わる工夫が必要だと感じています。次回は、SNSなども使いながら商品やコンセプトや世界観を伝えることや、購入後もつながれる接点づくりまで含めて検討したいです。今回いただいた反応を商品改善に活かしながら、継続的に選んでいただける展開を目指したいと考えています。 」と。 D’Z lab.のメンバーの挑戦はまだまだ続きます。
D'Zlab. (大広若者研究所)は、Z世代の価値観や個性を研究するプロジェクトです。
独自のネットワークを活用し、エリアごとの違いにも着目しながら、若者の多様な価値観や個性を探求しています。Z世代の研究員を中心に、調査・分析や座談会、アイデアソンを通じて、商品・サービスの企画からコミュニケーション施策の立案までサポート。若者のリアルな声を起点に、課題の発見からアイデアづくりをご一緒します。
「若者の本音を知りたい」「自社ブランドと若者の接点をつくりたい」など、まだ具体的な企画になっていない段階でも、ぜひお気軽にご相談ください!
※D'Zlab. (大広若者研究所)のクレデンシャル資料はコチラからどうぞ。
まとめ
「データ×編集」で新しい「選ぶ体験」を創り出した『言葉で選ぶお香屋さん』。リサーチデータをデスク上の報告書で終わらせず、顧客体験へと変換させたい、というD’Z lab.のメンバーの思いから生まれた実践的なPoC(概念実証)の事例です。生活者の感情を紐解き、「意味」や「理由」を編集して新しい文脈を与えることで、機能やスペックとは違う価値を生み出しました。手元にある調査データやインサイトを、どんな「体験」へと編集し直せるか——ブランドマネージャーの皆様の次なる商品開発のヒントになれば幸いです。



