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2024.03.01

従業員の「働きがい」をつくらなければ、顧客価値は生まれない ~CVサークル活動

少子高齢化が進むなか、日本の労働市場では人手、労働力不足が深刻化しています。人手不足が続くと、従業員の意欲の低下が起こり企業の生産性に大きな影響を与えてしまいます。一方、サービスや商品を見つめる生活者の視線は以前に増して厳しくなり、とりわけ接客サービスを提供する旅館やホテル、飲食を経営する業界においてはサービスの品質が大きな経営課題になってきています。では、労働力を維持し提供するサービス品質を向上させ続けるためには、どんな「打ち手」が考えられるのでしょうか?
ふたつの課題を解決するための実証実験に取り組まれている株式会社トータル・エンゲージメント・グループ代表取締役 池田順一さん、株式会社大広の増田浩一さんにお話を伺ってみました。

増田浩一×池田順一

インタビュイー (左から)
増田 浩一
株式会社大広 顧客価値開発本部 顧客発掘局 増田チーム チームリーダー

池田 順一
株式会社トータル・エンゲージメント・グループ代表取締役

 

――日本においてこれからの経営課題を考える時、どんな社会変化を見つめていますか?

大きく言いますと、人口減少社会と生活者主導の情報化社会に注目しています。リクルートワークス研究所の報告によると、2030年に日本総体として341.5万人の労働力が不足するとの予測があり、さらに2040年に至っては1000万人超の労働供給が不足すると言われています。少子高齢化に伴う人口減少社会が進む中で、経営者はいかに労働力を確保するかという課題が挙げられると思います。

ふたつめは、すでに生活者主導の情報化社会であるということでしょうか。私たちは普段、商品やサービスの購入を検討するとき、オンラインのレビューを参考に検討しますよね。同じような価値や価格のサービスであってもレビューの評価を参考に選択しますし、購入した商品やサービスを自ら評価することは当たり前の行動になっています。生活者の選択眼がシビアになってきているということは、経営者は常に高い接客品質を提供し続けなければ生き残れないという課題感を抱いていると思います。

 

――たしかにクチコミや店舗情報などを事前に調べるようになりました。ところで労働力不足は、どんな業種に顕著なのでしょう?

正社員の人手不足が顕著になってきている業種を見てみると、サービス業や情報サービス業、あるいは建設業が多いことがわかります。人手不足を解消するためAIの活用とかそういう論議もあるのですが、この業種においてはまだまだ人が担わなければいけない仕事が多く、とくに中小規模の企業が多いこの業種において即戦力となる労働力の確保は待ったなしの問題です。

 

――これからますます、「採用の課題」が大きな経営課題になることは想像がつきます。

人口減少社会において労働力を確保し続ける「採用の課題」は大きな経営課題ですが、社会の構造上の問題なので解決策を見出しにくい。しかし解決の道筋が見えず労働力が足りなくなると従業員は心身ともに疲弊していきますし、「働きがい」や「生きがい」を感じにくくなりますよね。さらに、働き方改革やワーク・ライフ・バランスなど従業員の新しい人生観も芽生えてきています。そんな中で、従業員の「働きがい」や「生きがい」がどんな価値でできているのか。そこを理解した上で従業員のモチベーションを作り続けることが、じつは労働力の確保につながると感じています。

 

―― 一方で企業にとっては顧客のロイヤリティをいかに生み出すかも課題ですよね?

生活者の選択眼がシビアになる中で、経営者は顧客満足度を上げるために従業員の教育などさまざまな努力をしています。ただ、中小規模の企業などは教育に経営リソースを十分に振り分けられません。人手不足が顕著なホテルや旅館などのサービス業では、使い続けてくれるお客さまをつくるためのサービスの品質を維持し、向上させるための「接客課題」があるのですが、従業員教育による成果や接客品質などは目に見えにくいものです。しかしサービス改善につながる「接客課題」をいかに捉えるかは、顧客のロイヤリティを生むためには重要な活動になります。サービス業を例に挙げましたが、「採用の課題」と「接客の課題」は、どちらも労働力、つまり人的リソースに紐づく課題で、一方だけではなく、どちらも解決していく視点が必要だと思います。

これからの時代の経営課題

――たとえばホテルを利用する際に、「顧客満足度」アンケートが用意されていることがありますね。アンケート結果はロイヤリティ向上に活用しやすいものでしょうか?

ホテルや旅館などのサービス業を想定して話を進めたいのですが、経営者は「採用の課題」につながる従業員の働きがいと「接客の課題」につながるサービスの品質、どちらも解決したいんですね。そこで実施される施策が「顧客満足度調査」アンケートです。しかしながら、このアンケート調査では「満足度」はわかるものの、改善のための行動につながるヒントはわかりません。

例えば、満足度が低かった項目で、お客さまはどんなことが不満なのか?ということまでは分からなかったりします。従業員にしてみれば、それで私たちはどうすればよかったのかな、と改善すべきことについての「問い」が生まれてきにくい。このことは満足度が高い項目を検証する場合でも同じことが言えます。結局、この状況では従業員の方がずっと困っている状態が生まれているわけですね。従来の「顧客満足度調査」では改善のヒントを見出しにくいので、「改善活動を立案・実行」できるような本質的なボトムアップ、何か現場を変革していくような力にはなりづらいんじゃないでしょうか。

「顧客満足度」ではなく「推奨意向度」を指標にすると、改善が生まれやすい。

――そうすると、「改善活動を立案・実行」しサービス向上につなげ、もっと言えば従業員の「働きがい」を生む新たな指標が必要、ということですか。

改善につなげるために、まずは指標を「満足度」から「推奨意向を図るNPS®」にしていきましょうと。「満足度」っていうのは過去行われたものに対する評価ですけど、 NPS®というのは、どれだけお客さんが戻ってきてくれるか、 あるいは他のお客さんを連れてきてくれるかという未来の指標になります。売上や利益に還元されていく指標としても使えるものになっているというところが経営者としてもわかりやすい。

NPS®(Net Promoter Score®)はご存知の通り「顧客が抱く他者への推奨意向を判別する」手法です。「商品やサービスを知人や同僚にどれくらい勧めたいですか?」という質問について顧客に聴取し、0 6 点を「批判者」、7 8 点を「中立者」、9 10 点を「推奨者」と定義し、「推奨者の割合(%)」-「批判者の割合(%)」を計算し、スコアを算出するものです。あわせて顧客体験の内容を聴取して、NPS®との相関分析により、具体的に「どのような接客を強化、あるいは是正すれば、将来的に収益性が担保されるのか」を把握することができます。

02NPSとは!?

満足度だけ取るのではなくどんな顧客体験がどれだけの推奨意向につながっているか、紐付けをしやすくするようなパッケージシステムを開発しています。その結果、単純に聴取するだけのアンケートだけではなくて、現場がそのアンケート結果を見て考えて、次の活動にフィードバックできるようになってきました。

03

NPS®と顧客体験を指標に「顧客」と「従業員」のロイヤリティを向上させるソリューション、CVサークル活動。

――指標をNPS®にすることで、改善活動を立案し実行する仕組みも変わってくると。

「採用の課題」につながる従業員の働きがいと「接客の課題」につながるサービスの品質、どちらも解決していく視点を持った仕組みづくり。これを、私たちは「CVサークル活動」と名付けました。製造業を中心に、品質の改善活動を現場からボトムアップさせていくQCQuarity Control)サークル活動は日本のお家芸のようなものですが、サービス業界ではカスタマー・バリューが改善の着眼点になるのではないかと。改善活動は、経営者がやれというからやるんではなくて、現場からボトムアップして「顧客視点のカルチャーを作るような活動体」としてあるべきではないのかなと。

 

――池田さんに伺いますが、CX(顧客体験)とEX(従業員体験)にはどんな相関関係があるのでしょう?

04CXとEXの関係

上図を見ていただきたいのですが、右のループがEXemployee experience:従業員体験)で、左のループがCXcustomer experience:顧客体験)になっています。当初、「良い顧客体験」は顧客の再訪につながったり、レビューや口コミとなって未来の顧客を連れてきてくれる収益面の成長につながる指標というように考えていました。ところがそれだけではないんですね。NPS®で推奨意向を図ると同時に顧客体験の内容を見てみますと、「接客サービスすごく良かった。○○さんのサービス神技でした」 みたいなことが書かれていたりするんです。そうすると、じゃあもっと褒めてもらうにはどうしたらいいのかということを従業員は自分たち自身で考える。現場での創意工夫が生まれて、右のループが回り始めるんです。
そうすると今度は左のループにも良い影響が生まれ始める。CX、それとEXの調査データをみますと、良い顧客体験は左右のループをリニアに動かすことがわかっています。

従業員の満足度であるEXが下がっていってCXが上がるってことはほぼないです。なんとなくわかりますよね、当たり前と言えば当たり前ですよね。従業員の満足度は上がってるんだけど、 顧客満足度が上がっていかないことはあります。これは実際タイムラグがあったり、あとは 打ち手が違ってたりしてることに起因しているんですよね。

ある英国の通信会社の事例ですけれども、5年間でEX19ポイント上げたことによってCX28ポイント上がり、売上が上がったことによって株価が10倍になった事例もあります。

05顧客体験とは!?

 

――顧客体験と従業員体験を同時に向上させるにあたって、なにか障壁になっていることはありますか? 

特にサービス業のような仕事ではフロントに立つ人たちを「作業要員」として見ているところが非常に強くて。手が余ってるときは現場を非正規社員にしていくとか、マニュアル化してしまうことによって、サービスそのものが品質とはかけ離れた作業にどんどん落ちていくわけです。

サービスを改善するためにアンケートをお願いしようと言ってもなかなかアンケートに回答いただけません。単純にレシートにアンケート貼ってあってもなかなか戻ってきません。そこで従業員の皆さんに「お客様にお声掛けをしてください」とお伝えするんですが、接客マニュアルにはアンケートを依頼する声掛けの前に何個も言わなければいけないトークスクリプトがあったりするんですね。例えばハウスカードポイントを持ちですか?とか、ハウスカード登録してくださいとか、 LINE会員になってくださいなど。
それを言ってからアンケートお願いしますみたいになると、言われるお客さまも嫌ですし、話す従業員の方も嫌ですよね?相手が嫌がっているのにずっと聞くっていう。現場のスタッフの方たちが、過剰労働に近いぐらいのギリギリの仕事をやっていて、さらにその中には無駄な仕事が非常に多いというのが現状です。

また、看護など医療関係の労働環境についていろいろメディアに出てますけど、過重労働で深夜まで残業するなどが当たり前のような形になっている。医療業界だとPXpatient experienceと言うんですが、医療業界の方々は、看護師 看護、医療の仕事に入ってきた時に「患者のためになりたい」と思って入ってきてるので、そこを落とさないように皆さん現場で踏ん張るわけです。理想や使命感は高止まりできるのですけれども、どんどんサービスが作業になっていくので、モチベーションが保たない状態です。

 

――顧客体験と従業員体験は、現場の使命感だけで上向くものではなさそうです。さてCVサークル活動は、具体的にどんな手順で、どんな作業が行われるのでしょう?

CV サークル活動」は、次の4つの手順を繰り返し現場で行っていく作業になります。実施を容易にするため、ステップごとに活用ツールを用意しています。

06CVサークル のステップ

まずはアンケートの依頼から始めます(ステップ①)。アンケート聴取は、株式会社トータル・エンゲージメント・グループが提供するアンケートシステム「Your Voice」を活用することで、従業員がリアルタイムにスマートフォン等で回答を確認できます。アンケート項目は、主に1)NPS®・その理由(自由回答)、2)顧客体験の満足度(5段階評価)になります。顧客はQRコード経由で、スマホ等で簡単に回答できるようになっています。

07アンケートフロー

アンケート結果をもとに、強みと課題の把握(ステップ②)を行います。NPS®と顧客体験の満足度を分析し、それぞれの高低により結果を4象限で「見える化」しました。NPS®の向上に役立つ顧客体験を「縦軸」に、現状の顧客体験の満足度を「横軸」に設定し、とくに「NPS®との相関が高いが、顧客が満足していない体験」を「優先課題」としています。こうすることで従業員が優先順位を見極めやすくしています。この結果を従業員同士で見ながら、当社(当店)の強み・弱み及び課題点確認のため、「現状把握シート」を記入します。

09現状把握シート

強みと課題の把握ができたら、改善活動と目標の検討(ステップ③)に移ります。強み・弱み及び課題点を振り返りながら、今後の接客活動について、どの顧客体験を向上させるか、その顧客体験の満足度目標、NPS®の目標を決めて、従業員同士、日常業務内で振り返りやすいよう「改善活動シート」に記入し、バックヤード等に掲出を行います。

10改善活動シート

改善活動と目標の検討で設定した活動を実行するフェーズがステップ④になります。

その活動と同時に、アンケートの回収も続けていきます。ステップは、業種にもよりますがアンケート回収数等を考慮し、2週間~1ヵ月に1回程度実施することが望ましいかと考えています。

11CVサークル活動

 

――CVサークル運動はすでに実証試験を行ったと伺いました。

私たちが取り組ませていただいたのは、ホテル運営会社M社の事例になります。

M 社は平成11年に創立された会社ですが、従業員の離職率上昇と設備の老朽化という問題を長年抱えていました。コロナ禍で売上高と客単価が極端に低下する中、早急な経営改革を行う必要があったが、抜本的な解決策を見出せないままでいました。また、M社はファミリー向けリゾートホテル(ホテルC)、ビジネス向けホテル(ホテルMV)を展開しており、顧客層が異なるため、画一的な施策は検討しにくかったんですね。

客室に「満足度アンケート」を備えてはいたものの、具体的な接客改善活動には繋がっておらず、形骸化していました。そこで、M社の現状を見える化し、具体的な改善活動を検討するため、「CV サークル活動」の実証試験を行ったわけです。

 

――池田さん、具体的にはどんな活動を進めていかれたのですか?

今回のCVサークル活動では、「ファクトベースのワークショップ」というサービスを活用しました。これは2回の調査と3回のワークショップをセットにしたサービスになります。

まず1回目の調査ですが、ホテル Mさんは156の施設を持っておられるのですが、そのうちまずは 4施設でやりましょうということになりました。4つの施設の支配人などにオンラインで「なぜいま顧客体験が大事なのか」「この先どんな状況が起こり得るのか」ということをお話させていただいて、早速宿泊客の方たちに調査を行いました。チェックアウトの時に今回のご宿泊についてアンケートをお願いします、と。QRコードから入って回答くださいという案内を出していただきます。 その回答を「 Your voice 」というアンケートリアルタイム分析するツールで分析していきます。

ホテル Mさんの場合は3週間ぶん集めていただきました。お客様のお声データをもとに分析を進めると自分の施設の強みや課題が見えるようになります。それに基づいて強みを伸ばすか、あるいは弱みというか課題を改善するか、実際どんな取り組みするのか施設の支配人さんたちに決めてもらうんです。その上で「お声掛けをもっとこんな風にしよう」とか「お食事どころではこんなことをやっていこう」という改善活動を始めます。

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その活動を実行しながら2回目の調査に入ります。 3回のワークショップでは1回目と2回目の調査で出た数字の結果、やってみてどうだったのかということを振り返り全スタッフと共有してもらいます。最終的には、経営者への報告会を行いました。

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上図は顧客満足度とNPS®の相関を表した4象限ですが、縦軸は NPS®の相関が高いか低いかです。上に行けば NPS®を押し上げる要因になります。横軸は顧客の満足度になります。たとえばお部屋のお風呂やシャワーはどうでしたか、とかはアメニティどうでしたかとか、スタッフの挨拶対応はどうでしたかなどを聞いていくのですがそれの満足度が高い要因であれば右側に寄ります。

この右上の事象に入ってくるものは NPS®をすごく進める要因であって、満足度も高いことになるので「強み」になるわけです。

NPS®への影響は高いにも関わらず、満足度が低いもの。これはそのホテルの「課題」になります。結果を見ながら、強みを伸ばすことに注力する店舗もあれば、弱みの改善に取り組もうという店舗も出てきます。活動の優先順位も出てきますが、今のクオリティは維持した方がいいけれどNPS®に影響はそんなにないから優先順位を下げてもいい、そんな感じで改善活動をやってもらいます。

お部屋のシャワーやお風呂って「課題」に入るわけですけど、シャワーお風呂って現場ではなかなか改善できないわけです。狭いとか古いとか言われても、従業員レベルでは掃除をもっと頑張ろうとか、それぐらいしかできないわけですね。しかし今回のCVサークル活動の結果を見たホテルMの経営者は、お部屋の浴室改修に5000万の投資を決定しました。今までも、施設側からは「お風呂の回収をお願いします」という現場の声を上げ続けてきたわけですが、経営者は従業員の声ではなかなか大きな投資って踏み切れなかったりするんですね。ただ、今回のようにリアルな顧客の声で後押しされたことによって大きな投資の決断をした。従業員が言っていたことって本当なんだよなぁ、と。いまこのホテルMNPS® が非常に高くなっています。現在も自分たちで、改善活動をぐるぐる回してるっていう状況が続いていますね。

 

――実証試験の結果はどうだったのでしょう?

ホテルMさんの場合、リゾートホテルとビジネスホテルの業態があるんですが、リゾートホテルの場合はNPS®11.914.2に。ビジネスホテルでは、-42.7-25になった。これはNPS®が改善している結果と言えると思っています。

14定量的成果15定性的成果

今回の実証試験では、このCVサークル活動は従業員の意識改革としても、経営判断の検討材料としても寄与したことがわかりました。

NPS®では推奨意向を聞いた後その理由も聞くんです。例えば「10」というスコアをつけているお客さまには「10」の理由を教えてくださいとなるわけですが、短いセンテンスで「価格が安い」とか「 駅から近い」とか、ワンショットのセンテンスで書かれる方もいれば、しっかりと書いてくれる方もいらっしゃいます。ある程度文章量があるとこれ僕たちエピソードって呼んでいるのですけれど、文章になったお客様の「うれしい体験」を、施設で働いている人みんなで共有しあう。そうするととにかく嬉しいし、やりがいや働きがいを感じるわけです。そういうEX、従業員体験って、それを今度はサービスとして提供していくっていう「再現性」が高めるものになります。大事なのは、調査で見つけた課題をしっかり自分ごと化できるか。従業員の方たちが自分たちの体験を、つぎはCXにグリップさせていくかなんです。

 

――お客様の声で喜ばれている声とか褒められるようなワードがたくさん出てくると、すごくやりがいを感じるでしょうね。

サポートしている私たちが見ていても嬉しいわけです。極端な話、社長から褒められるよりも場合によって嬉しかったり、この仕事やっててよかったなって感じてくれたりもする。それはすごく大事だと思うんですね。この活動は、宿泊業界ではOTA(ネットの宿泊先予約サイト)のレビュー数にも繋がります。よい顧客体験をしたお客さまは、宿泊先を予約したサイトのレビューでも「おすすめします」って書いてくれますから。

 

――広告会社が企業の「人的課題」に対してソリューションを提供することについて、可能性を感じました。

大広は顧客価値を標榜して、マーケティングコミュニケーション領域やインナーブランディングの支援をさせていただいていますが、さらにそれを発展的に「顧客の活動づくり」「顧客に対する従業員の活動づくり」として支援していければと考えています。

すでに大阪では写真スタジオや回転寿司チェーンへの提案機会が見えています。写真スタジオって顧客接点が非常に大切な業種でありながら スマホの登場によって市場としては 結構シビアな環境です。回転寿司もすごく効率的で生産性が高いように見えてサービス業、接客業です。「良い顧客体験」を創出する接客品質は、経営課題になっています。

いずれにしても今回の事例でもわかったことですが、従業員体験と顧客体験、言い換えれば「採用や離職につながる従業員の働きがい・生きがいの問題」と、「顧客への提供価値の問題」は切り離して考えるのではなく、同時に捉え解決する視点が欠かせないと思っています。そのために、CVサークル活動を広げていければと考えています。

 

junichi_ikeda池田 順一 
(株)トータル・エンゲージメント・グループ代表取締役

インターネット黎明期からIT × マーケティング領域において、デジタルマーケティングの先駆けとして立上げた事業をセプテーニ社に事業売却。また、モバイル端末向けに事業会社を2000年にYahooJAPANへ事業売却。2005年、新たに株式会社シンクーを設立。2010年に事業ピポッドを行い、企業のプロモーション活動を根底から見直す「エンゲージメント」をテーマに活動を行い、現在エンゲージメント・テクノロジー・カンパニーとしてNPS調査からソリューションまでを提供。201410月に社名を現在のトータル・エンゲージメント・グループに変更。多岐にわたる業種のクライアント企業に対し、NPS®調査を活用した顧客ロイヤルティ戦略のコンサルティングを幅広く手掛けている。執筆、講演多数。著書 『お客を増やす努力をやめなさい!』日経BP

masuda増田 浩一 
(株)大広 顧客価値開発本部 顧客発掘局 チームリーダー
ミラスト主宰 経済産業大臣登録中小企業診断士

早稲田大学理工学術院建築学研究科を修了の後、株式会社大広入社。一貫して、ストラテジックプランナーとして事業会社の広告戦略、商品戦略立案を支援。2020年からは、経済産業大臣登録中小企業診断士として中小企業の経営戦略を中心としたコンサルティング活動を継続。 主な顧客は、食品製造業、機械製造業、飲料メーカー、学校法人ほか、ゴーストレストランといった次代のユニコーン企業までと、幅広い。東京都中小企業診断士協会会長賞ほか表彰歴・セミナー等対外活動実績多数。

※所属等は20242月現在

まとめ

・人手不足が深刻化。サービス業では即戦力となる労働力の確保は待ったなしの問題。

・労働力維持とサービス品質向上のために「CVサークル活動」を提案。

・「CVサークル活動」は、従業員のモチベーションを生み出し、同時に顧客体験の向上を目指す。顧客体験(CX)と従業員体験(EX)は、同時に捉え解決する視点が大切。

・推奨意向を図るNPS®(Net Promoter Score®)を指標に取り入れることで、顧客にとって価値のある改善点を把握することができる。

この記事の著者

COCAMP編集室

「ビジネスは、顧客価値でおもしろくなる」をコンセプトに、ビジネスにおける旬のキーワードや課題をテーマに情報発信しています。企業の大切な資産である「顧客」にとっての価値を起点に、社会への視点もとり入れた、事業やブランド活動の研究とコンテンツの開発に努めています。