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2025.09.08

【生成AI時代のマーケティング戦略】「AIとの対話」から見つける Webサイトのデータ活用最適解

Webサイトのアクセス解析だけでは顧客の「本音」は掴めない。この課題に対し、大広は自社サイトに対話型AIを導入し、定量的な行動データとAIとの対話データを組み合わせる実証実験を実施しました。結果、他要因も合わせて、サイト回遊率や問い合わせが増加しただけでなく、対話分析からユーザーが企業の「強み」「人」「実績」に高い関心を持つことが判明。AIを通じて顧客インサイトを可視化し、マーケティング活動に活かす有効性を示しました。

自社サイトのメッセージは届いているのか

自社サイトで発信している企業メッセージ・伝えたい情報(サービス・商品)は、本当にユーザーに届いているのだろうか
「アクセス解析の数字は増減しているが、その先にいるお客様の『本音』を知りたい

これは、デジタル時代のマーケティングに携わるすべての人が抱える、根源的かつ切実な問いです。Cookie規制の強化により、従来のサード パーティ データに依存した広告戦略が転換期を迎え、企業が自ら収集・活用する「ゼロ パーティ データ」や「ファースト パーティ データ」の重要性は日に日に高まっています。
※ゼロパーティデータとは、顧客がアンケートや対話を通じて、能動的かつ意図的に企業へ提供してくれる本音や嗜好のデータです。

しかし、その取得は容易ではありません。顧客が心を開き、本音を語ってくれるには、信頼できる環境と適切な問いかけが不可欠です。この課題に対し、大広は、生成AIを用いて優良顧客の獲得・育成を目指す「生成AIマーケティング」という思想のもと、ある実証実験を行いました。これは、2025年4月に出版した書籍『生成AIマーケティング』で提唱する概念を、自ら実践する試みでもあります。

その舞台となったのは、大広の自社のコーポレートサイト。開発した対話型AI「Brand Dialogue AI(BDAI)」を設置し、ユーザーとの対話から得られる定性データ(対話データ)と、Google Analytics(GA)から得られる定量データ(行動データ)を組み合わせることで、サイト運営・構築の新たな道筋を照らし出したのです。本稿では、その取り組みから得られたインサイトと具体的な成果について解説します。

実証実験の概要:対話型AIは企業サイトの価値を高められるか

2024年11月7日、大広はリニューアルしたコーポレートサイトのトップページに、サイト内の情報を学習させた対話型AI(BDAI)を設置しました。

大広 Daiko Advertising Inc.

ECサイトのゴールが「購入」であるのに対し、コーポレートサイトのゴールは、ブランド理解の促進、信頼関係の構築、そして未来のパートナーや従業員との出会いなど、より多岐にわたります。本実験は、AIとの対話が、こうした複雑で測りにくい価値の向上にどう貢献できるかを探る試みです。

分析のアプローチは、単に行動データを見るだけではありません。これまで多くのWeb分析が、閲覧ページや滞在時間といった「行動」という<結果>のデータから、顧客のインサイトを“推察”するに留まっていました。今回の実験の核心は、そこへAIとの「対話」という<原因>と考えられるデータを掛け合わせることにあります。行動データが示す「何が起きたか」というサイレントな結果に対し、対話データは「なぜそう感じたか」というユーザーの感情や思考そのものを言語化します。この二つを掛け合わせることで、初めて顧客の全体像が立体的に浮かび上がってくるのです。

そのために、収集された対話テキストは「ベクトル化」というプロセスを経て、数値データに変換されます。これは、文章や単語の意味、文脈といった定性的な情報を、AIが処理できる多次元の数値(ベクトル)に置き換える技術です。これにより、AIは言葉のニュアンスや意味の近さを数学的に捉えることが可能となり、大量の対話ログを客観的にクラスタリング(グループ化)できるのです。この技術的基盤こそが、定性的な「声」を定量的に分析し、他のデータと統合分析するための鍵となります。

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定量的成果:サイト回遊率・問い合わせ向上にAIとの対話も一部貢献

定量的な成果として、いくつか良い傾向がみられました。対話型AI(BDAI)をWebサイトリニューアルと合わせて設置したためBDAIの貢献は一部であると考えられますが、サイト回遊率が前年同月比で向上しました。これは、AIとの対話がユーザーの興味を引き出し、適切な回答を提供したり、適切なページへ案内することで、これまで見過ごされていたかもしれないコンテンツへの橋渡し役を果たした結果ともいえます。

さらに、このエンゲージメントの深化は、最終的なコンバージョンにも、一部、良い影響を与えている可能性も見えました。問い合わせページのアクセス数も、サイトリニューアルによる導線改善や大広の情報発信量が増えた影響はありますが、BDAI設置後に前年同月を上回って増加していました。具体的な問い合わせ件数も増加傾向にあることが確認されており、BDAIの設置がユーザーの最終的なアクションを後押しした可能性があります。

定性的インサイト:対話データが明らかにした「3つのユーザーインサイト」

行動データが示す「結果」の裏側にある「原因」を探るため、次に対話データの分析を実施しました。分析の結果、直近3カ月で523名のユニークユーザーと交わされた4,510件の対話メッセージから、ユーザーの関心事が大きく分けて以下の3つのトピックに集約されることが分かりました。

インサイト①:「大広の強み」への強い関心

対話内容で特に目立ったのが、大広の「強み」に関する質問です。対話分析では、「大広の強みに関する話題」が全対話の8.4%を占め、マーケティングにおける強みや「顧客価値創造」についてAIが詳細に説明するやり取りが多く見られました。

これは、ユーザーが単なるサービス一覧ではなく、より本質的な「大広ならではの価値」を求めていることの表れと考えられます。特に、企業の競争が激化する中で、ユーザーは他社と比較検討する上で、その企業の思想や哲学までをも判断材料にしています。AIとの対話は、そうした深い情報ニーズを持つ、検討段階にいるユーザーに対して、企業の核となる価値を的確に伝える重要な接点となっているのです。

インサイト②:「人」と「カルチャー」への興味

次に注目すべきは、企業の「人」に対する強い関心です。クリエイティブの作品も気にしているが、大広のクリエイター・マーケター等の『人』に関する質問も多く、採用関連の話題も高い構成比(4月度で16.4%)を占めており、この傾向は明らかです。

ユーザー、特に採用候補者は、待遇や制度といった画一的な情報だけでなく、そこで働く人々の個性やチームの「リアルな雰囲気」を切実に知りたいと考えています。「Webサイトに掲載されている情報だけでは伝わりにくい」こうした働く人の生身の声に対するニーズが、AIへの質問という形で噴出しているのです。このインサイトは、Webサイトの改善内容に対して「作品だけではなく人にフォーカスしたページ」を設けるなど、社員のストーリーや働きがいを伝えるコンテンツを強化すべきだという明確な指針を与えてくれました。

インサイト③:具体的な「実績」への関心とAIによるコンテンツへの誘導効果

3つ目のインサイトは、具体的な「実績」への関心の高さと、それを引き出すAIの誘導効果です。BDAI設置後、閲覧されるコンテンツを前年同月で比較したところ「Works一覧」の閲覧が増加するという定量的な変化が見られました。これもサイトリニューアルをする事でのUX向上結果ともいえるため、BDAIの貢献は一部ではありますが、対話データの分析も合わせてみると「実績紹介を求める声」や「広告賞取得の実績を求める声」といった、具体的な制作事例や受賞歴を尋ねるクラスターが確認され為、対話が寄与していると推測できます。これは、ユーザーが企業の能力を測る上で、抽象的な「強み」の説明だけでなく、目に見える形での「証拠」を求めていることを示しています。

これらの定性・定量データから「ユーザーがAIに実績を尋ね、AIWorksページなどへ誘導し、結果として関連ページの閲覧が増加した」という好循環が推察できます。AIがユーザーの「実績を知りたい」という直接的なニーズを的確に捉え、サイト内の膨大な情報の中から最適なコンテンツへとナビゲートする役割を果たしたことで、エンゲージメント向上に繋がったと考えられます。

※分析の結果は、2025年度4月時点となります。


まとめ:対話データは、企業のマーケティング活動をどう変えるか

  • 強化すべきコンテンツの発見
    「強み」や「人」への関心の高さから、Webサイトで重点的に発信すべき情報が明確になった。
  • コンテンツへの誘導強化
    AIとの対話が、具体的な「実績」コンテンツへの効果的なナビゲーターとなり得ることが示された。
  • 顧客理解の深化
    行動データだけでは推測の域を出なかったユーザーの興味・関心の「原因」を、対話データによって特定できるようになった。

大広のWebサイトでは、月に100人程度のユーザーがAIとの対話を行っています。一つひとつの対話は、企業にとってまさに「宝の山」。本実証実験が示した最も重要なことは、「顧客との対話を活性化させ、その『声を活動』に還元する」という視点です。

生成AIの真価は、単に雄弁に語ることではなく、人間の何倍もの規模と速さで、顧客の声に耳を傾ける「傾聴力」にあります。そして、その声を行動に繋げることで、企業は真に顧客と向き合うことができるのです。まさに、「大切なことはすべて『お客様の声』に詰まっている」のです。


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この記事の著者

原田 信宏

新卒で博報堂DYグループのデジタルソリューション会社に入社後、DX業務を中心とし様々なクライアントを支援。大広に中途入社後は顧客データ分析を中心に、 クライアントに蓄積されたデータの利活用を軸としたデータマネジメント推進として活動。2024年4月より、大広WEDOに出向しAI開発・実装・運用を現職にて実施。