急速に進化・発展している生成AIを、企業と顧客との接点で活用する事例も増えてきました。この度『顧客価値を劇的に高める生成AIマーケティング』を上梓した大広WEDOテクノロジーチームは、大広独自の生成AI「Brand Dialogue AI」の開発と実装をとおして、その可能性を追求してきました。著書の中では、生成AIによる顧客対応にどのようなメリットがあり、どうすればうまく活用できるのかを詳しく解説しています。今回は、「人間が対応しなくて大丈夫?」という疑問にも答えつつ、従来のマーケティング手法を劇的に変える生成AIマーケティングの可能性についてご紹介します。
【インタビュイー】
大広WEDOテクノロジーチーム
大地 伸和 大広WEDO 代表取締役社長
鷲北 雄介 大広WEDO 東京プロモーション局 部長
原田 信宏 大広WEDO 東京プロモーション局 プロジェクトマネージャー
岡本 祐希 大広WEDO 東京プロモーション局
「AIになら、話せる・聞ける」というイマドキの顧客心理
――新しく出版された『顧客価値を劇的に高める生成AIマーケティング(以下、『生成AIマーケティング』)』には、生成AIの活用は人口減少社会に大きなメリットがある、とありました。前提となる部分ですので、そのポイントを教えていただけますか。
顧客の全体数が減っていく中では、ひとりの顧客に何度も商品・サービスを購入してもらう、つまりリピートしてもらうことがより重要になります。リピートしていただくためには、顧客が本当に求めているもの、つまり「本音」を把握し、満足度を高め、長期的な関係を構築することが大事になりますが、これは容易なことではありません。「このお客様が〇〇を買った」という購買行動からだけでは、なぜそれを買ったのか、その理由まではわからないからです。その商品が好きだから、なのかもしれないし、他に選択肢がなくて仕方なく、なのかもしれない。
――顧客の本音を知るために、企業はこれまでにも様々な努力をしていますよね。
そうですね。しかし、企業と顧客の間にはプラットフォーマーや流通などが介在していて、顧客と直接コミュニケートできているとは言い難い。コンタクトセンターを持つ企業もありますが、そこでは深い会話ができにくいし、また、顧客の要望に対して専門性を持って答えられない場合には、「わかる人間につなぐ」となりがちで、時間も手間もかかってしまいます。それに、実際に企業に対して声を上げたりコンタクトしてくる顧客は一部の少数派です。大多数の顧客は、特に不満がなければ企業との接点を持たない傾向があります。
――アンケートやインタビュー調査はどうでしょう。
決められた選択肢から回答を選ぶという従来のアンケートでは表層的な答えになりやすいし、企業側が選択肢を提示するわけですから、顧客の回答から新たな気づきを得ることも難しい。また、インタビュー調査を膨大な人数にするのは現実的ではありませんから、サンプル数の少なさから統計的に有効なものになりにくい側面があります。
――では、生成AIによる顧客対応にはどのような利点があるのでしょうか。著書では、「AIの方が話がしやすい」と感じる人も多いとありましたが…。
人間が対応すると、「嫌な客だと思われたくない」「ネガティブな意見を言いにくい」といったように、どうしても相手の反応を気にしてしまいがちです。AIが相手なら、聞きたいことだけを聞き、言いたいことだけを言って話を終わらせることにも心理的な負担がない。相手主導で思いがけない質問をされることもない。だからこそ率直に話ができる可能性が出てくるのです。365日24時間対応ができますから、顧客の都合でコンタクトできるという部分も大きいと思います。
『生成AIマーケティング』の中では、生成AIによる顧客対応の実際の会話を例に挙げながら解説しています。AIとの間でどのような会話が生まれたのか、それを繰り返すことで、顧客の思いを引き出している様子がよく理解していただけると思います。
効率化にとどまらない生成AI対応のメリットとは
――本音を引き出しやすいことに加えて、生成AIによる対応にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
まず、対応の安定性があります。人間は、人によって知識の質や量、対応のスキルなどが異なりますが、生成AIにはそれがありません。膨大な知識データをベースに対話をはじめ、さらに対話しながら学習をしていく為、一人ひとりの顧客に合わせた対応も可能です。人的リソースを割く必要がなくコスト効率を高められることも、経営にとっては重要なファクターです。さらに、生成AIが集めた顧客の声は、すべてデータとして蓄積し、マーケティングのソースとして活かせることも、企業戦略を立てる上での大きなメリットです。
――企業はこれまでにも顧客の声を集めていると思いますが、違いはどこにあるのでしょうか。
たとえば、コンタクトセンターの通話内容や企業に来たメール・電話の内容などを活かすためには、改めて音声を聞いたりテキストを読んだりして、そこから抽出する必要があります。それには膨大な手間と時間がかかりますよね。しかし生成AIでは、対話履歴がすでにデータ化されており、そこに蓄積され続けるため抽出作業が大幅に削減されます。さらにそれをベクトル化して分析することで、それまで見えなかった顧客の隠れたニーズや不満、共通する関心事などを容易に可視化できるようになります。
また、アンケート結果の集計・分析などでは、どうしても大きな声やクレームに引っ張られたり、ひとつの回答が”刺さって”、解釈が偏ったりする可能性が出てきます。導き出したい結論に向けて「予定調和」の分析をしてしまったりすることも少なくありません。AIであれば、実際の発言内容や対話に出てくる単語の傾向といったものすべてを数学的に処理できるので、アウトプットがロジカルに出てくる。これは大きな違いだと言えると思います。
――事実に基づいた偏りのない分析ができるということですね。
そうですね。生成AIを活用することで、「膨大な情報量を得る」ことと「事実に即した深い分析をする」ことを両立させられる。これは、現状を大きく改善できる部分だと考えています。あとは、感情に任せたようなクレームに人が対応しなくていいし、それに左右されなくて済む、という側面もありますね。
――一方で、デジタルな操作についていけない顧客もいるのではないか、というのは少し心配ですが…。
確かに、デジタルデバイスに弱い人はまだまだいますが、そこに配慮するあまりAIを取り入れない、ということにはデメリットしかないと思います。中国が驚くようなスピードで進化したのは、「スマホを使う」という前提で環境整備をしたからです。もちろん、セーフティネットは必要だと思いますが、これからの時代に長期優良顧客を獲得しようと考えるなら、できるだけ早く始めたほうがいいと思います。
単なるチャットボットにあらず。大広が開発した「人格を備えたAI」とは?
――このチームは、株式会社Laboro.AIと共同で、独自の生成AIエンジン「Brand Dialogue AI(以下、BDAI)」を開発されました。どのような優位点があるのでしょうか。
ひとつはAIにその企業の主義とか価値観、どういうふるまいをするかといった「精神」を情報としてインプットできるということです。我々が「ブランド人格」と呼ぶ要素で、その企業ならではの個性とお考えいただければよいです。生成AIを顧客対応に用いる場合は、製品情報や企業情報などの「知識」をすべてインプットするわけですが、BDAIには、その企業の主義とか価値観、どういうふるまいをするかといった「精神」もブランド人格にまつわる情報としてインプットできます。この「知識」と「精神」を合わせたブランド人格を付与することで、その企業らしいブランドイメージに合致した対話ができるようになります。
――紋切り型ではない対応ができるということですね。
そうですね。もうひとつは、顧客との過去のやりとりを踏まえて、顧客の状況に合わせた対応ができるということです。これによって1to1のパーソナライズされた質の高い対応が可能です。たとえば、ある顧客が「ニキビに悩んでいて、それに合った洗顔料を探している」という対話をすると、次回は、それを踏まえた上で応対します。顧客ごとの状況に合わせて、顧客に寄り添った対応が可能になります。
――顧客は、自分のことを理解してくれていると思いますね。
そうですね。さらに、顧客に聞き返したり質問したりできることも特長です。従来のチャットボットでは人間が質問してAIが答えるというのが一般的だと思いますが、BDAIは「それはこういうことでしょうか?」と聞き返すことができる。それによって顧客の言いたいことをより深く理解できるし、本音を引き出すことにもつながると思います。
BDAIについては、こちらの記事もご参照ください
生成AIで実現する、 One to Oneの「対話」が広げるビジネスの可能性とは?|COCAMP
「結果論」から「原因の探究・改善」へ。マーケティング手法を根本から転換する
――こうした生成AIによる顧客対応、BDAIの導入は、マーケティング全体にも大きな変化をもたらすということですが…
今までのマーケティングというのは、購買行動=結果を分析して、次はこうではないだろうか…と予測していました。でも、冒頭でも言ったように、購買行動はいわば「結果論」であって、「買いたかったのか、仕方なく買ったのか」といった顧客の本音はわからないわけです。一方、生成AIマーケティングでは、「なぜ購入したのか/しなかったのか」という、「理由」や「原因」を、直接聞き出す、もしくは対話の中から見つけ出すことが可能になると考えています。その「理由」や「原因」は、商品開発・改善やセールスプロモーションの重要なシーズになります。
さらには、膨大な対話データを分析することで、顧客一人ひとりの個性をつかむと同時に、同じ価値観を持った集団=トライブを、容易に、しかも精度高くつくれるようになります。すると、トライブごとに最適な製品やプロモーションを作成できるわけです。しかも、マーケティングの方向性も、プロモーションプランも、それに合わせた広告表現案も、AIがつくってくれます。もちろん「たたき台」ではありますが、たくさんのバリエーションをごく短時間でつくることが可能になる。つまり、人的な限界でできなかったことが解消され、より満足度の高い顧客サービスを提供できるわけです。顧客との接点に生成AIを活用することで、従来のマーケティング手法は根本から大きく変わる可能性がある、ということです。
――生成AIマーケティングのたくさんの可能性が見えてきました。とはいえ、導入を迷っていたり、どのようにすればよいのかがわからない企業やご担当者も多いのではないかと思います。
生成AIマーケティングは、もう遠い未来の技術ではありません。人口減少時代に顧客との関係性を深めて持続的な成長を実現するための強力なパートナーである、と申し上げたいですね。「まだまだ間違いが多いんじゃないか」「AIに人の気持ちがわかるのか」といった意見があることも承知していますが、生成AIはどんどん進化を遂げていますし、BDAIのような技術を加えることで、企業のブランド価値を高める働きができると考えています。
また、技術面に加えて、コスト面でも大きなメリットがあります。従来、あたりまえのように見込んでいた多くの広告費、コールセンターの運営維持費、コンサルティング費用などを大幅に抑えることが可能になり、その分を新規事業開発や企業成長につながるアクションのために費やすことができる。これは、経営的にはすごく大きなインパクトになると思います。
日本の企業の成長を阻害してきたのは、新しいことにチャレンジできなかったこと。生成AIマーケティングの導入は、その壁を打破するでしょう。「新しい技術を導入するのは不安だ」「まだ早い」と言っている場合ではなく、まさに今とりかかった方がいい、始めない手はない、と申し上げたいですね。
大広は「顧客価値向上」を掲げていますが、生成AIのような新しい手法においても、顧客の声を聞き、それを活かすということを変わらずやっていこうとしています。BDAIの開発もその考えに基づいたものだし、生成AIマーケティングも根底にあるのは同じ考えです。それが大広の強みであり、クライアント企業に提供できる価値だと考えています。大広がこれまで多くの企業に伴走してきたのと同様、生成AIマーケティングにおいても、企業が生成AIを使って顧客の声を蓄積し、それを活かしてアウトプットしていくための環境整備や顧客とのコミュニケーションをお手伝いする、ということです。
生成AIマーケティングは、顧客によりよい価値をもたらすと同時に、優秀な社員の知識やノウハウを全社的な財産として共有することを可能にします。それは、他の社員の成長にもつながるでしょう。ここでお話したことはごく概要ですが、詳しい仕組みや具体例などは『顧客価値を劇的に高める生成AIマーケティング』に掲載しています。手に取っていただき、我々にご相談いただければと思います。
顧客価値を劇的に高める生成AIマーケティング(日本能率協会マネジメントセンター)
まとめ
●人口減少社会に不可欠な「顧客の本音を集める」ことにおいて、生成AIが大きな力を発揮する。
●生成AIによる顧客対応で、膨大なデータを収集でき、事実に基づいた深い分析が可能になる。
●コストや人的リソースを効率化しながら、顧客の声に基づく製品開発・改善、トライブごとに最適なプロモーション立案などが可能に。生成AIによってマーケティング手法は大きく変わる。
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