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2024.02.22

LTVの高い商業施設は何が違うのか?人流データ解析でわかること

ショッパーに対するコミュニケーション検討のために、人流データの活用が進化を続けています。GPSやビーコンなどを活用して取得できるデータの量と質が高まり、データ分析で得られる情報の価値が高まっているからです。
人流データ解析は、人の流れや動きを見るだけではなく分析を加えることで、これまでになかったコミュニケーションを実現し得るもの。人流データ解析によって来館頻度と滞在時間を上げる。つまり、商業施設のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を高めるコミュニケーションを設計することさえ可能です。
今回は、私が携わった事例から、独自の人流データ解析&来館促進プロモーション手法を3点紹介します。

 顧客ロイヤリティを高める「ロイヤルABC分析&プロモーション」

最初は、私が「ロイヤルABC分析&プロモーション」と名付けている分析です。これはカード会員分析を基に分析軸を人流データ向けに変えて編み出した手法で、“人流データから商業施設の顧客ロイヤリティを把握し、ロイヤリティアップを図る”ことがその狙いです。

具体的には、カード会員分析の際によく用いられるRFM分析の内2軸を使い、縦軸の購入頻度を来館頻度に、横軸の購入金額を滞在時間に変更したものです。来館頻度×滞在時間でロイヤリティを測る手法で、一定期間の来館頻度が高ければ高いほど縦軸ABCAに近い位置にターゲットをセグメントし、来館時の滞在時間が長ければ長いほど横軸abcaに近い位置にセグメントする分析となります。

表にすると、以下のようになります。

ロイヤルABC分析&プロモーションの概念図

ロイヤルABC分析&プロモーションの概念図

 上記表のように来館頻度×館滞在時間をクロスすることで、「Aa層は館ロイヤリティが高く、Cc層は低いのではないか」と推察することができます。各9象限のボリュームを把握できると共に、Ab層やBa層をセグメントした後、そこに位置する顧客の傾向を分析することで「どうすればAa層に移行させることができるか?」を見出し、打ち手を検討し実施することが可能です。これにより、Ab層・Ba層をAa層へ移行させるコミュニケーションを実施し、ロイヤリティの高い層へと育成することができました。

 ロイヤルABC分析は、来館頻度×館滞在時間のクロスで館ロイヤリティが高い層をセグメントしボリュームを把握するだけではなく、館によっては「Ac層が多い理由はスーパーマーケット利用者が多いからで、Ca層が多いのはシネコン利用者が多いから」だと仮説を構築することが可能です。その際、スーパーマーケットを利用する方には“ついで買い促進プロモーション”を、シネコンを利用する人には“シネマ後、飲食プロモーション”を提案し、それぞれロイヤリティが高い次の象限への移行を目指すことが可能です。分析対象となる商業施設の利用傾向によって、様々な打ち手を実施することが可能になります。

来館頻度を高める「利用サイクル・ハーフカット分析&プロモーション」

2点目は、「利用サイクル・ハーフカット分析&プロモーション」と名付けている分析です。これは人の習慣行動をベースにした分析で、“一度目の来館から二度目の来館までの期間を約半分にする”ものです。これにより、館来館頻度を向上させ売上向上に寄与させます。

具体的には、観測期間中の一度目の来館から二度目の来館までの期間をターゲットごとに個別分析し、一定のライフサイクルで商業施設に来ていることが見受けられるターゲットを選定。来館から来館までの期間中に対象商業施設の広告を投下することで二度目の来館までのサイクルを短縮させる分析・プロモーションになります。

イメージ図にすると、以下のようになります。

利用サイクル・ハーフカット分析&プロモーションの概念図利用サイクル・ハーフカット分析&プロモーションの概念図

ターゲットの利用サイクルを圧縮&頻繁化するために、来館のライフサイクルがあるターゲットへ“そろそろ商業施設に行ってもいいかなと思い始める時期”に広告を投下し、来館を促します。もちろん、ターゲットが興味を持ちそうなテナント情報やイベント情報を伝達していくのですが、人流データ解析の中でも非カード会員の来館促進により寄与できることから、ことの外、成功例がある分析&プロモーションとなっています。

特売狙いの顧客に狙いを定める「チェリーピッカー・ターゲティング」

最後の3点目は、「チェリーピッカー・ターゲティング」と名付けている分析です。チェリーピッカー(特売価格品のみ購入する顧客)は小売業の中では嫌われ者ですが、商業施設における“バーゲンを狙って来館する顧客”はウェルカムです。このチェリーピッカーを選定し、“バーゲンを忘れることなく来てもらう”ためのターゲティング分析&施策がチェリーピッカー・ターゲティングです。

商業施設のバーゲン期は、年始・バレンタイン・新生活・スプリング・サマー・ハロウィン・オータム・ブラックフライデー・ウィンター・クリスマス・年末となっています。この期間、バーゲン品を狙って来館するチェリーピッカーの方々は(館の感度によりますが)「この夏着るものは、サマーバーゲンで買う」「夏になる前に夏物を仕入れない」などの傾向があることが多いので、毎回毎年のスプリング&サマー&オータム&ウィンターバーゲンで今すぐ着るものを安くなった時期に一気に買うことが多くなります。

また、その中でも大きなバーゲン期であるサマー&ウィンターに行動することが多い。しかも、サマーバーゲンは来館したが、ウィンターバーゲンは来館しないといった「今年のバーゲンは買いに行かなくても、去年の服で何とかなるだろう」ということも発生しやすいのが、チェリーピッカーです。

この人たちに、毎回のバーゲンに(せめてサマーとウィンターだけでも)商業施設に来てもらうための施策が、チェリーピッカー・ターゲティングです。バーゲン期にだけ、狙った店舗にだけ来館し、滞在時間が短めの方を人流データ解析で抽出することが肝となります。

チェリーピッカー・ターゲティングの概念図チェリーピッカー・ターゲティングの概念図

人流データ解析でできることは“ただ人の流れや多い・少ないを見るものではない”ということがお判りいただけたかと思います。人の流れはデータ財産であり、これを取得し分析・活用することで、これまで説明したように、新たな打ち手を見出し、適切なプロモーションを展開することが可能となります。

商業施設の売上を上げるだけでなく、LTVを高めることで中長期的なビジネス成長を実現するために。人流データ解析を基にしたプロモーションをご検討されてみてはいかがでしょうか。

この記事の著者

清水 純

ストラテジックプランナー。定性・定量調査や生活者インサイト発掘・課題抽出・ブランディング・新規事業構築・ビッグデータ解析を手掛ける。人の価値観や買い物行動の機微を捉えた分析を基にした仮説構築を行い、小売・インフラ・流通・不動産・飲食・行政・観光業界などのクライアント先にコミュニケーション戦略を提案している。毎日広告デザイン賞、神戸新聞広告賞、日本マーケティング協会論文シルバー、日本ショッピングセンター協会論文ユニーク賞等受賞。多数の大学で買い物行動に関する講義実績がある。SC経営士。