1990年代後半から2010年代前半に生まれたZ世代。これからの消費者として注目の世代です。生まれたときからインターネットがある世界に育ち、10代~20代をスマホ片手に過ごすZ世代は、どういう意識を持っていて、どのような行動をしているのでしょう?
大広の若者研究所D‘Zlabは、表面的な行動データやカスタマージャーニーではわからないZ世代の生活行動意識をとらえるために、彼らと何度も対面し、声を聞き、行動をパターンとしてとらえ、背景意識を探索し、仮説をZ世代への再三にわたるインタビューにより精緻化。Z世代の行動を理解しコンテンツ設計のヒントになる「ドーナツパズルモデル」を開発しました。
Z世代とのコミュニケーションは、デジタルデバイスでの体験の質を高めることが大切
Z世代は、スマホネイティブ世代です。常にスマホを肌身離さず持っていて、コミュニケーション、娯楽、情報収集など日常生活のほとんどをスマホで完結しています。さらに、膨大な情報アクセス+人とのつながりが24時間絶えない環境で生活する事が当たり前で、2つ以上の行動・作業を同時進行させる「ながら行動」が当たり前になっています。スマホで大体のことが疑似的に体験できる時代だからこそ、体験の質をより重視しています。
そんなZ世代に特徴的な「ながら行動」の実態から、感覚や価値観を可視化し、行動様式を体系化、Z世代とのコミュニケーション促進を図る体験設計のモデルをつくることができないか。そうして生まれたのがドーナツパズルモデルです。
Z世代の「ながら行動」には、今を「こんなシーンにしたい」という目的があった
Z世代のデジタル体験の質を向上させる体験設計モデルをつくるためには、彼らのコンテンツ選択の決定要因を探らなければなりません。Z世代の声を多数収集し考察を重ねました。彼らは「ながら行動」の理由について、あまりにも自然に行っていて言語化しきれない様子でしたが、様々なシーン、メディア、コンテンツから「ながら行動」を紐解くと、「ながら行動」には今の状況を「こんなシーンにしたい」という明確な目的があり、同じ移動をしながら音楽を聴く「ながら行動」でも人によってさまざまな目的がありました。
さらに詳細に探っていくと、食事中の「ながら行動」は音楽を聴くより動画を見る人が多く、動画を見るという「ながら行動」で、お風呂に入りながら動画を見る人もいれば、全く見ない人もいました。このような違いが起こるのは何故か。Z世代は、どのように「ながら行動」を使い分けコンテンツを選択しているのか。決定要因をシーン毎に考察していくと、そのシーンで「空いている身体/感覚」とそのシーンの「長さ」が「ながら行動」のコンテンツ選択に関わっているようでした。
さらに、インタビューを繰り返し精緻化していくと、Z世代の「ながら行動」のコンテンツ選択には3つの決定要因があることがわかりました。
Z世代が「ながら行動」のコンテンツを選択する3つの決定要因
「ながら行動」のコンテンツ選択の決定要因、その一つ目は空いている身体・感覚です。たとえば、家で食事中の「ながら行動」の場合、手は埋まっているが目と耳は空いている。その時Z世代は「目と耳で出来ることがあるよな~」と無意識に感じています。スマホで動画を見ることで、空いている身体・感覚が埋まるわけです。
決定要因の二つ目は、そのシーンにかける「時間の長さ」です。同様に家で食事中の場合、比較的ゆっくりと長い時間を確保できるので、YouTube、Netflix、Tverなどで中・長尺の動画を見ています。外食の場合は、長時間居座れません。確保できる時間が短くコントロールもできないので、短時間で楽しめるSNSを眺めます。
決定要因の三つ目は、「時間と場所」の認識・評価です。先に「ながら行動」には明確な目的があるという話をしました。その目的はどのように設定されているのか。インタビューと考察を重ねていくと、自分にとって「どんな時間と場所」であるかという認識・評価が関わっていました。たとえば、勉強中の場合、集中しなければならない時間と認識し、楽しくないからやる気がでない作業だと評価し、やる気スイッチを入れたいという目的でテンションの上がる音楽を聴く「ながら行動」をしています。洗い物など家事作業の場合、やらなければならないけれど面倒くさい作業だと認識、評価し、嫌な気分を紛らわすという目的でお気に入りの面白い動画を見る「ながら行動」をしているのです。
ピースをはめ込んで、Z世代が欲しいコンテンツを設計する「ドーナツパズルモデル」
これまで見てきたようにZ世代の「ながら行動」のコンテンツ選択は、生活のあるシーンで、①「シーン」が自分にとってどんな時間かという評価/認識があり、②その評価/認識を改善したい、変化させたいという「目的」が設定され、③その目的にあう「コンテンツ」が、シーンの長さと使う感覚が合うように選択されています。
つまり、意識してはいないけれど「シーン」「目的」「コンテンツ」の3つがぴったりはまるように「ながら行動」は決定されているのです。これを、コミュニケーションの設計がしやすいように構造化したものが「ドーナツパズルモデル」です。Z世代にどのようなコンテンツを届ければいいか。シーン、目的、コンテンツ、それぞれのピースをはめ込むことで設計できます。
上図の例のように、洗いものをしている時にYouTubeで動画を見る「ながら行動」をしているZ世代の場合、10分程度の面白いと評判になっている動画を用意すればいいのです。既存のオモシロ動画である必要はありません。面白いと評判の作家に制作依頼する、PR施策と組み合わせて評判をつくる、そういう動画を開発すればいいのです。
このドーナツパズルモデルですが、ピースをはめ込むためにはZ世代の「ながら行動」について「シーン」「目的」「コンテンツ」を探索しなければなりません。でも、毎回探索するのは大変です。そこで、このドーナツパズルモデル開発のために分析したいくつかの「ながら行動」をカード化しています。
Z世代の「ながら行動」には、どのような「シーン」があって、どのような「目的」で、どのような「コンテンツ」が選択されているのか?カードを見ながら「どのようなコンテンツを開発するか」を議論~開発するためのものです。
この記事の著者
D'Zlabながら行動モデル開発チーム
(株)大広 第3ビジネスデザイン局 成瀬 翔太
(株)大広 第3ビジネスデザイン局 井口 桃花
(株)大広 第1マーケティングデザイン局 奥田 早咲
大広Z世代研究所D‘Z labメンバーで構成されたプロジェクトチーム。Z世代のデジタルデバイスを介した体験の質を向上させるために、スマホと共存するZ世代の「ながら行動」に着目。その行動様式・インサイトを体系化し、体験設計の土台となるマーケティングモデルを開発した。
※所属は2024年6月現在