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2023.05.31

D2Cビジネスを読み解く!〈後編〉ダイレクトマーケティングの可能性

注目されるD2Cビジネスを読み解くシリーズ。前篇では、日本のダイレクトマーケティングの歴史を振り返りつつ、考え方や手法がどのように変わっていったのかをお話ししました。この後篇では、ビジネスの仕組みとしての「D2C」を理解し、これからの可能性を探っていきます。

前回の記事はこちら
D2Cビジネスを読み解く!〈前編〉ダイレクトマーケティングの歴史

顧客を獲得してから育成する従来型、共感が購買行動を生み出すD2C型

ダイレクトマーケティングに新たな変革を起こしたD2Cですが、製造者がダイレクトに消費者と取引するという意味ではメーカー通販事業と変わりません。

では何が違うかというと、デジタルを基点とすること(D2CのDをデジタルと読み替える考え方もある)、プロダクトではなくブランドの世界観に提供価値を置くことがポイントです。明確な世界観があり、そこに共感する人と価値共創しながら自社で企画・製造したものを直接販売していくというフレームワークになります。

「北欧、暮らしの道具店」や「スノーピーク」などが代表的な例です。スノーピークはもともとキャンプ用品の会社ですが、ブランドに共感している人は同ブランドのアパレルも購入するし、直営しているホテルにも泊まりたいと考えます。

D2Cはあらゆる接点が顧客起点で設計されるファンマーケティングのような考え方なので、リアル店舗・インターネットに関わらず顧客の嗜好やニーズに沿った商品や体験を提供していけるのです。ですから自社で企画・製造した商品を自社チャネルで直接販売するという定義だけではD2Cの本質的な価値は見えてきません。そこで従来モデルとの違いを正しく理解し、事業成長に必要な課題を解決するヒントを探っていきましょう。

従来のダイレクトマーケティングと、D2C型ダイレクトマーケティングの違いを示すのが下図です。これは(株)大広が開発したデータプラットフォームで、縦軸にお客様の購買行動(アクションロイヤリティ)、横軸にお客様の心理変容(マインドロイヤリティ)を示しています。2軸で見ることによって、ユーザーの状態をより可視化していこうというものです。

■従来のダイレクトマーケティング

スライド1

「従来のダイレクトマーケティング」は、とにかく一度使ってください、繰り返し買ってください」と、まず購買行動を作っていきます。その後顧客が離れていかないように企業やブランドのコミュニケーションを強化していくので、最初に購買行動を喚起し、お買い物を続けてくださる方の中からファンを育成していくという考え方です。

対して、下図のD2C型では商品を購入した方が顧客になるのではなく、ブランドへの共感が購買行動を起こしていく構造です。右の最上位のところが愛用者であり推奨者で、顧客自身が呼び水となって購買行動が生まれていくので、まず横の動きがあって縦の動きに移行する左回りの流れとなります。

■これからの(D2C型)ダイレクトマーケティング

スライド2

従来型のダイレクトマーケティングが機能しないワケ

約半世紀のダイレクトマーケティングを振り返ってきましたが、時代が変わればテクノロジーも進化し、消費者を取り巻く環境も変わってきます。例えばデジタルの進化によって、顧客データの取得や顧客の行動解析などが容易になりました。

D2Cは、共感者を増やしながらその共感者とビジネスをしていくので、彼ら/彼女らのことをより深く知ることが必要です。顧客と直接対話し、顧客が求めていることは何か、受け入れてくれるものは何か、彼ら彼女らはどんな人なのかといった情報を引き出して商品の開発や改良に生かしていくことが求められます。顧客との対話が増えるほど有益な情報が得られ、長期的な視座で顧客との関係を維持していけるのです。

一方従来型は「無料お試しセット」でアプローチして顧客データを収集し、購入のプロモーションをかけて定期購入顧客を増やすというスタイルです。長年通販ビジネスを続けていると、顧客獲得のために「無償お試し」に囚われがちですが、これは必ずしも共感者を囲い込む手段にはなりません。

再春館製薬がかつて「私たちは初めてのお客様に商品をお売りしません」というメッセージで無料お試しセットのプロモーションを行いました。このように企業の姿勢や考え方を伝えるために無償お試しをアピールする考え方はあるでしょうが、単に購買行動を促す目的だけでは顧客の信頼や愛着は育まれません。

ここ数十年でメディア環境も大きく変化しています。単一メディアの力が低下し、テレビも昔ほどは効かなくなったので、マスメディアを使った広告というのは年々減少しています。ではインターネットが有効かというと、ネット上のコンテンツ量は10〜20年前と比べると膨大に増加しており、獲得効率はますます悪化。CPO(新規顧客1件当たりの獲得単価)は20年前と比べると3〜4倍になっています。

また日本は人口が減少しているのでターゲットも増えないという状況です。従来型のダイレクトマーケティングが機能しづらい状態になっているのです。ですから多くの人にリーチさせて、住所やアドレスを手に入れるといった従来のコミュニケーション手法ではなかなか効果が得られません。

共感者を増やし、顧客視点で共にブランドを創っていく

D2Cの場合、最初からブランディングを行うというよりは、顧客からのフィードバックループによってファンと一緒にブランドを作り上げていくというイメージです。

商品開発、広告プロモーション、商品改良といったあらゆる工程で顧客の声を重視。世界観や価値観に共感する人をどうやって増やしていくかというコミュニケーション設計になります。SNSをはじめとしたあらゆる接点を通してブランドの世界観を発信し、思わず誰かに薦めたくなるような顧客体験づくりを提供していきます。

購入後もクロスセルやアップセルを促すだけのCRMだけではなく、顧客との良好な関係を育むコミュニケーションが大切になってきます。メディアを使ったプロモーションのように一挙にリーチするわけではないので、拡大しづらい点はあります。しかし顧客が顧客を連れて来てくれるので、従来型ほど顧客獲得に力を入れる必要はありません。

D2Cビジネスを成長させるためには顧客の声を聞いて商品開発を行い、カテゴリー別の商品を揃えていくことです。そして事業のタッチポイント全ては同じ世界観で統一され、顧客と対話することによって顧客に寄り添った商品や体験を提供し続けることができます。その価値観の中で生まれてくる商品が増えていくと、一人の顧客が複数の商品を購入することになり、結果的にLTVが高まってそのブランドは増強されていきます。

こうしたD2Cの本質的な価値を理解すると、さまざまなビジネスチャンスが広がっていきます。例えばものづくりを行なっている地方の企業や小さな事業者様などは、独自性のある商品やサービスを開発すれば直接顧客に提供していくことができます。海外にも市場を拡大していくことができるので、地方創生のフックとなる可能性もあります。

変わりゆくDM_後篇_02

ダイレクトマーケティングとして無限の可能性を秘めているD2Cですが、私たちはD2Cを「Direct to consumer」ではなく、「Direct to Customer」と定義しています。不特定多数の消費者にリーチさせるというconsumerではなく、「顧客価値」としてのcustomerを重視。企業の先にある顧客の心理や感情を掘り下げ、社会課題も含めた真の価値を見極める「顧客価値」を根幹に据えることでD2Cビジネスの新たな可能性が広がっていくと考えています。

この記事の著者

COCAMPダイレクトマーケティング部

(株)大広が培ってきたダイレクト・マーケティングの知見やノウハウを発信するチーム。 通販の初期から今に至るまで、変化する時代と顧客を見続けてきた第一線のプロデューサーやスタッフをメンバーに、ダイレクトビジネスの問題や課題を、顧客価値の視点から解いていきます。