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2023.05.24

変わりゆくダイレクトマーケティング――「いい商品」なのに、売れないのはなぜ?(その2) 事業環境 篇――他社はもう、変化を味方にしている?

進化を続けるダイレクトマーケティング業界。なかでも、デジタルテクノロジーの発展にともなう事業環境の変化はすさまじいスピードで進んでいます。激化する企業間競争を抜け出し、事業成長の壁を超えていくためのシリーズ2回目は、そうした環境の変化を味方につけ、チャンスに変換していくためのポイントについて解説します。

前回の記事はこちら
変わりゆくダイレクトマーケティング――「いい商品」なのに、売れないのはなぜ?(その1) 事業視点 篇――あなたの会社は、変われますか?

参入の壁はより低く、競争の壁はより高く。

ダイレクトマーケティング業界で競争が激化している背景には、参入障壁を下げるいくつもの環境の変化があります。整理しておきましょう。

まず、商品製造の分野では、OEM企業との関係が変わりました。以前に比べれば小ロットでも取引できるOEM企業が増えたことで、研究開発に多くのリソースを割ける大企業でなくても、アイデア次第で新たな「自社製品」をつくることが容易になりました。

次に、資金調達の面でも選択肢が増えました。銀行からの借り入れに頼れない場合でも、投資家から資金を募る、いわゆる直接金融の門戸が大きく開かれるようになりました。

さらに、販売の「場」づくりも大きく変化。大手のECモールの登場や、安価のECシステムの活用ができるようになった。従来型の広告を打たなくても、SNSなどでの告知や広告宣伝が効力を発揮するようになり、イニシャルコストが大幅に軽減しています。技術力や資金力などの障壁が次々に取り払われたことが、現在の群雄割拠の状況へとつながっているのです。

その顧客像は、「過去の姿」かもしれない。

ダイレクトマーケティングにとって、データマネジメントは事業の根幹といっていいほど重要です。詳細な顧客データを得られることはダイレクトマーケティングの強みであり、それを活かして成功してきたダイレクトマーケティング企業は、精緻なデータ分析のプロだと言えるでしょう。しかし、事業の成長に翳りが見えてきたとしたら、考え方を変えるチャンスかもしれません。

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これまでのデータ分析は、RFM分析(最新購買時期、購買頻度、購買金額の3つの属性で顧客を分類する方法)に代表されるように、多くが顧客の購買行動を次のマーケティング施策に活かすというものでした。今も多くの企業が行なっていると思います。

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しかし、効率を高めるために「過去の」購買行動で顧客を分類し、施策を集約していく手法には、限界が見えてきました。企業が本当に知りたいのは、顧客の「未来の」購買行動であるはずなのに、これから起こる(あるいはもう起きつつある)変化をとらえることが難しくなっているからです。企業が「知っている」と思っている顧客の姿は、すでに過去のものかもしれないのです。

これからのデータマネジメントのポイントは、「予測」だと考えています。データの取り方、分析のしかたも、「未来予測型」にシフトする。もちろん、使うのは過去のデータですが、AI技術を使えば、複層的な分析で行動を予測することは可能です。ネット上で個別最適化したリコメンドを行なうといったことは代表的な例ですが、事業の内容にあわせて最適な手法を見つけていく必要があると思います。

もうひとつ、これまでの購買行動の軸に加えて、その顧客が企業やブランドに対してどのような価値を見出しているのか、「ブランドロイヤリティ」という軸での分析も重要になると思います。「とても頻繁に購入しているがブランドロイヤリティの低い顧客」と、「ブランドロイヤリティは高いが購買の頻度はそれほど高くない顧客」とでは、アプローチの方法が異なるはずです。顧客の課題が見えてくれば、最適な施策を打つことが可能になります。

ブランドロイヤリティをはかるのは簡単なことではありませんが、たとえば、ウェブサイトの回遊の仕方、ページごとの滞在時間、どの情報に関心を持っているか、など、データの取り方を工夫することで分析することができます。また、アンケートなどによって顧客の意識を深く調査することからも、新たな発見があると思います。

デジタルデバイスが情報格差を解消。変化の芽を見逃さないこと!

ある企業のライブ販売は、10分程度の番組でしたが、とても印象的でした。2人の女性のインフルエンサーが店舗を訪問し、気になった商品を手に取り、口々に感想を述べるというもので、その様子は極めて自然で、なおかつ自由です。

これまでの常識に従えば、企業は伝えたい情報を事前に決定し、台本をつくり、インフルエンサーに「企業の代弁者」として振る舞ってもらおうとしたでしょう。しかし、そのライブ販売では、そうした企業目線の「規制」はほとんど感じられませんでした。彼女たちの自然で自由な振る舞いや言葉が生活者の共感を生み、生きた情報が発信されていると感じられる10分間でした。

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商品情報も企業情報も、かつては企業側が圧倒的に多くを持っており、生活者との間には情報の非対称性がありました。だから、企業は自分たちでコントロールした「いい情報」を流すことで効果を得ることができました。しかし、デジタルデバイスが普及し、ソーシャルメディアが一般化したことで、そのバランスは変化します。

生活者は、自分で検索し、得た情報を精査し、比較対照して商品やサービスを選ぶようになりました。企業からの情報より生活者の口コミを信じる人が増え、生活者の推奨行動が大きな力を持つようになりました。生活者は情報リテラシーを高め、企業側の一方的な論理でつくられた情報を見分けられるようになっています。企業は、こうした情報力・発信力のパワーシフトと、それにともなうマーケティングの変化をしっかりと認識して事業活動に反映させていかなければならないでしょう。

AIが普及し、5Gの環境も整備されてきました。企業にとっては、新たなコミュニケーションの可能性が広がっています。重要なのは、テクノロジーの進化を、自社の顧客の体験価値を上げることに活かせるか、ということ。さきほどのライブ販売もそうだし、詳しい説明をすることが効果的な商品であれば、顧客の質問に社員がライブで答える番組配信といった選択肢もあるでしょう。昨今はメタバースが注目されていますが、自社の事業内容に最適な方法を考えていく必要があると思います。

ダイレクトマーケティングを巡る事業環境は、今後も劇的な変化が続くことが予想されます。プラットフォームもどんどん変化するでしょうし、さらに言えばC2Cの市場もどんどん成長していて、1兆5000億円規模になってきています。市場としてないがしろにできないことはもちろんですが、一方ではブランドを毀損する恐れがある点からも、企業がその市場を取り込む可能性を考えておいたほうがいいでしょう。

激しい変化の中では、過去の成功体験が通用しない場面も増えてきます。同じ手法でPDCAを回していると、あっという間にマーケットを奪われるということも起こりかねない。だからこそ、企業は、常に自分たちのブランド理念に立ち返る姿勢と、「顧客の視点」で「顧客にとっての価値」を追求する姿勢が求められます。第3回となる次回は、そうした顧客の変化について解説したいと思います。

この記事の著者

三上 智也

株式会社大広 D2Cビジネス局 局長

1991年大広入社。商品開発、B2Bブランド戦略立案などの経験を経て1998年からはダイレクトマーケティング事業会社の事業およびマーケティングパートナーとして複数の事業会社の成長支援を数多く手掛ける。また、大広のシンクタンクである大広ダイレクトマーケティング総合研究所を創立しプリンシパルを歴任。