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2024.11.21

地域との共創で顧客価値を生み出す~まち歩きマップ「cocoyan!(ココやん!)」が提案する新しい観光の魅力~

cocoyanサイトトップ画面

何か新しい企画を考えるときに、過去の成功事例を参考にし、その企画フレームを活用すれば同様の成果が期待できるであろう、と考えるときがあります。成功事例の成果が大きければ大きいほど、そこへの信頼度が高まります。
しかし、そんなときにこそ落とし穴が潜んでいます。原点に立ち返り、これで本当に目的を達成できるのか、顧客が求めている本質は何なのか、それは本当に実現可能なのか、今一度問いを立て、考えて見ることはとても大切なことと言えるでしょう。
今回ご紹介する、近畿日本鉄道株式会社様の地域共創型プロジェクト「cocoyan!」の事例を通して、真の顧客価値を見出したクリエイティブの力を探ります。あなたのビジネスにも、新しい視点を与えるヒントが隠れているかもしれません。

tanigawaphoto

谷川華織(たにがわ かおり)
株式会社 大広 CXデザイン本部ブランデッドダイレクト局第3チーム
テレビ番組やミュージックビデオ、動画配信の制作会社を経て、2020年大広ONES入社。映像プロデューサーとして、前職の経験や人脈を⽣かした動画制作を主に担当。現在では、動画以外にもWEBのディレクション等も行う。

 

一見正解っぽい時にこそ、本当に正解なのかを問う

―この企画は、どんなところから始まったのでしょうか?
 近畿日本鉄道様(以降は近鉄)が取り組む地域共創型コンテンツ「cocoyan!」は、コロナ禍で観光客が激減した状況を背景に生まれました。近鉄は、観光業の復活を目指し、沿線の魅力を再発信するための新しいアプローチを模索されていました。既存の「てくてくマップ」は、ハイキング向けとしては好評でしたが、より親しみやすい「お散歩観光案内」的なマップへと進化させる必要があると考えられていました。
 ターゲットは40代から50代の方々。近鉄沿線以外からの訪問者を増やすことが求められました。そこで例に挙げられたのが、近鉄グループが運営する志摩スペイン村で大成功をおさめた、VTuber・周央サンゴとのコラボの事例。同じようにYouTuberなどを起用した話題性の高い動画制作とマップ作成のアイデアを提案してほしいとの依頼でした。

―企画を考えるにあたり、チーム内でどんな議論になりましたか?
 話題性の高い動画制作とマップ作成という施策が本当に効果的なのか、チーム内での議論を始めました。一時的にバズっても観光客の増加には結びつかないのではないか。バズればターゲットである40代から50代の方々に届くのか。また、限られた予算の中で中途半端な施策になることも懸念されました。観光客が本当に求める体験を提供できない限り、集客にはつながらないのではないかなど、様々な意見を交わしました。
 さらに、YouTuberにこだわるがあまり、沿線と関係の薄いYouTuberを起用することになれば、近鉄沿線の魅力を伝えるには不十分ではないかという疑問も浮かび上がりました。話題のYouTuberを起用しても、毎回必ずバズるわけではなく、ターゲット層に響かなければ意味がありません。それに近鉄沿線には、日常使いの地域密着型の街が多く、派手さはないものの、ユニークで隠れた魅力が詰まっている場所が多くあります。そんな場所に何を求めて訪れてもらえるのか、真剣に考える必要性を感じました。
 このように、表面的には正解に見えるアイデアでも、実際に観光客の増加につながるのかを常に問い続けることが大切だと私たちは考えています。「cocoyan!」は、地域の魅力の本質を見極め、真の顧客価値を創造するために、慎重に議論を重ねながら企画提案を進めていきました。

「話題化」より「顧客が求めている価値」にフォーカス

―今回の企画のポイントはどんなところですか?
 近鉄沿線の「知る人ぞ、知る地域の魅力」を求める観光客に向けて、地域の魅力を最大限に引き出すためには、地元の人々の情熱とその声を大切にすることが重要だと考えていました。そこで、地元の方々が制作したYouTube動画やマップみたいなものが、その魅力を存分に伝えられるのではないか。さらには、観光だけでなく、日常的に利用される地域の顔を再発見することにつながるのではないかと考えました。
 大広としては、近鉄の企業理念『「いつも」を支え、「いつも以上」を創ります。』に基づき、地元の人々と密接に連携し、彼らの「いつも」の視点を尊重した企画を提案。それが、地域の方々が愛するスポットやお店を紹介する「cocoyan!(ココやん!)」です。地元の声を反映したコンテンツを展開するこのような地元密着型のアプローチは、近鉄が地域社会に根ざしていることを再確認させ、利用者との信頼関係を深める結果をもたらすことにつながっています。

―地元密着型のアプローチでどんな価値が提供されているのでしょう?
 3デジタルマップ_モバイル1地域の皆さんを巻き込むことで、動画やマップ制作は一層充実したものとなりました。学生や商店街の方々、市役所の担当者、さらにはお寺の住職さんまで、多様な視点を取り入れることで、普通のガイドブックとは一味違う街の歩き方を提案しています。また、この取り組みにより、地域住民の方々ご自身も新たな魅力を発見し、自らの街への愛着を再燃させることに貢献できたと思います。 動画ではマップ制作の過程を紹介し、プロセスエコノミーといわれるような手法を取り入れて、差別化を図っています。視聴者はマップ制作のプロジェクトに共感し、参加しているかのような感覚を持つことができますし、地元の方々には「一緒に作り上げた」という思いを再認識してもらって、近鉄への愛着が育まれるきっかけを提供できたと思います。
 顧客にとっての価値を真剣に考えた取り組みは、そこに住む人たちにも地域の魅力を再発見し、活動に参加して地域の活性化に寄与するという価値を提供できたのではないでしょうか。

狙いを精度高く実施できる力も、クリエイティブ力

―地域ならではの魅力はどんな手法で作り上げていくのですか?
 地域の真の魅力を引き出すためには、一般的な観光案内にはないアプローチが求められます。「cocoyan!」では、ただの名所紹介にとどまらず、地元の人々に愛されるスポットを重視することで、独自の価値を創出しています。この挑戦は簡単ではありませんが、地域の魅力の本質を伝えるために譲れないポイントです。
 プロジェクトは、各地域の観光課や観光案内所を訪れることから始まりました。ここから大変な日々の始まりです。地元の方々に直接聞き込みを行い、地元のことに詳しい人物を見つけ出し、隠れた魅力的な場所やお店を紹介してもらいながらマップを作っていきます。参加者の中には自分でお店を営まれている方もいらっしゃいますが、自分のお店を紹介することはNGにさせてもらってます。それでもみなさんの地元愛は強く、熱意あふれる声が集まります。ガチの対話が、地域の魅力をリアルに伝えるための重要な要素となりました。

3マップを作成しているシーン(鳥羽)
3マップを作成しているシーン(赤目) このようなやり方には多くの困難が待ち受けていました。地元の人を集めてマップを制作するには、粘り強い交渉力や調整力も必要です。 私は、前職がCMプロダクションのプロデューサーだったので、企画や制作進行、交渉などを担当し、コピーライターの松田さん、デザイナーの前地さんはそれぞれの専門性を活かしながら、地元の方々の声を反映した楽しく魅力的なコンテンツを制作していきます。多くの苦労がありましたが、2022年下期には動画を5本、2023年には10本制作。2023年の10本制作はかなりなハードスケジュールだったので、2024年度以降は、5本の動画とマップを制作することになりました。また、メリハリをつけるために、5本に1本は有識者を起用した特集を組むことで話題性を高める工夫も行っています。地域共創型コンテンツはこうした実施力とチームワークから生まれています。「cocoyan!」を通じて、地域の魅力が最大限に引き出され、企業と顧客、社会をつなぐ重要な架け橋となり、近鉄は、地域社会からさらに愛される存在になったのではないでしょうか。

マップを制作した皆さんキャラクター入り(賢島)

おもてなしの心で、さらに魅力的な観光地に

―このクリエイティブを現段階で振り返っていかがですか?
 「cocoyan!」は、近鉄沿線の魅力を掘り起こし、地域の活性化につながる取り組みとして、今年で3年目を迎えました。地元の人々が推薦するお店やスポットを集めた観光マップは、多くの訪問者に信頼される情報源となりつつあり、沿線の隠れた魅力を発信し続けています。

 このプロジェクトは、本来、近鉄沿線のブランディングを目的としたものではありませんでしたが、地域住民の積極的な参加を通じて、みなさんの地域や近鉄電車への愛着が生まれているように感じます。また、自分の街の魅力を再発見し、それを他の人々に伝えることは、訪れる人々に心温まるおもてなしを提供しようというモチベーションにもつながります。「地域とつくる」というコンセプトは、近鉄の地域活性化への真摯な取り組みを示し、地域と近鉄を結ぶ役割を果たし、地域のファンを育て、沿線のロイヤル顧客化にも寄与していると思います。制作過程でも、近鉄電車が地域にどれほど愛されているかを実感する瞬間が度々ありました。住民がこのプロジェクトに参加することに喜びを感じ、地域の魅力を真剣に考えてくれたことが、地域共創型のクリエイティブを実現できた要因となっています。
 地域住民の参加がもたらすおもてなしの気持ちは、訪れた人々の満足度を高める良い循環を生み出します。住む人々が自らの街を愛し、温かく迎え入れることで、地域は観光地としての魅力を一層高めていくのではないでしょうか。観光客を増やす目的で始まった地域の魅力発信の活動が、新しい旅の魅力を生み出す重要な要素となっていると感じます。今後も「cocoyan!」が地域と人々を結ぶ架け橋として、さらなる期待に応えていきます。

 

《近畿日本鉄道のご担当者さまに伺いました》

近畿日本鉄道様にとって、この企画の魅力はどんなところでしたか。

近年、マニアやニッチな世界をテーマにしたバラエティ番組や、タクシー運転士においしいお店を聞くといったような、有名人ではない一般の方の情報に注目した番組が増えていると感じます。また、誰もが行くような観光地ではなく、知る人ぞ知る穴場スポットを来訪する需要も増えているように感じます。そんな中、ガイドブックに紹介されている有名観光スポットではなく、地元を愛し、地元のことをよく知っている地元の方に沿線の魅力を聞くというのは、おもしろい企画であると思いました。

◆この企画をやってみて、良かった点はどんなところですか。

取材を通じて、沿線のことをよく知ることができました。近鉄の沿線には、観光ガイドマップに載っているような有名なスポットだけでなく、私たちも知らない、魅力的なスポットがたくさんあります。そんな知られざるスポットを、地元を愛する地元の方に教えていただくことで、隠れた魅力に出会えることがきました。

 

この企画を通して、何か発見などありましたか。

・地元の方は、やはり自分たちの住む街の事をよく知っており、その方たちの声をくみ取ることで、新たな観光魅力の発見につながるのだと感じます。

また観光地や魅力的なお店だけでなく、動画を通じて住む人の魅力までもが動画を通じて伝わってくるので、他の観光動画にはない地域の魅力が表現できたと思います。

・沿線の魅力の中でも、地元の方が当たり前すぎて気づいてないような魅力もあると思います。地元の方の目線と、地元以外の方の目線、それらが交わるところに新たな魅力が生まれる場合もあると思いますので、“地域との共創”を心がけたいです。

 

◆この企画に、これから期待することはありますか。

まだまだ近畿日本鉄道が知らない、沿線の魅力がたくさんあると思います。地元の方の声や取材を通じて、沿線はもとより沿線外から多くの方がお越しいただける魅力的なコンテンツづくりを引き続きお願いします。

Cocoyan!の認知が低く、デジタルマップの利用や動画視聴数がまだまだ少ないと感じられます。視聴層の分析など、データを活かした検討も今後必要だと感じています。

cocoyan!のサイトはコチラ
https://www.kintetsu.co.jp/senden/cocoyan/

まとめ

観光地と言われている場所にも、そこで暮らして、地元を愛し、地元の良さを知ってほしいと思っている人たちがいます。今回の「cocoyan!」は、その地域を一番よく知っている地元の人たちと一緒に、その地域にしかない本当の魅力を見つけて発信していくことで、観光の新しい魅力を生み出した事例です。
わたしたちには、真の顧客価値を発見する力と、その顧客価値を魅力的な顧客体験につくりあげていくクリエイティブ力があります。あなたのビジネスにもこの力を活かしてみませんか。

この記事の著者

COCAMP編集室

「ビジネスは、顧客価値でおもしろくなる」をコンセプトに、ビジネスにおける旬のキーワードや課題をテーマに情報発信しています。企業の大切な資産である「顧客」にとっての価値を起点に、社会への視点もとり入れた、事業やブランド活動の研究とコンテンツの開発に努めています。