美容市場でビジネスを考えたい、売り上げの低迷に悩んでいる…。企業のご担当者からそんな声がよく聞こえてきます。美容ビジネスの成功は、どのようにして達成されるのでしょうか。
注目されるD2Cを中心に、通販や直営店舗など、顧客情報を取得して展開する美容ビジネスと、競争の舞台裏にあるルールを探っていきます。
この記事は、オルビス(株)で役員を務められ、(株)DECENCIAの元代表でもいらっしゃる岩永利文氏をお迎えしてお届します。
(こんな方におすすめです)
■美容業界への参入を考えている
■美容ブランドの低迷に悩んでいる
■美容事業を成長させるヒントがほしい
美容業界はレッドオーシャン、参入も撤退も続々
美しさや身だしなみの必需品として、美容商品は生活に長く深く根づいています。人それぞれの美意識に結びつき、また単に肌の美しさだけではなく気持ちとも結びついていることからいわば文化ともいえるでしょう。このような背景があるため、市場として多少の浮き沈みがあっても「消えない市場」だと見られています。
では、調達や生産面、収益面からはどうでしょうか。原価率が低く、リピートの期待できる消耗品であること。さらに、品質維持の期間は長く、製造の効率が良い。美容市場がビジネスにとって魅力的な舞台だと考えられ、多くの起業家や企業が参入していることも理解できます。
今ではOEMを活用することで、個人でもオリジナル商品を比較的容易に製品化し販売できるようになりました。とくに、低コストで参入できる美容D2Cは注目の的です。
しかしこれが、市場での乱立を生んだ原因のひとつでもあります。美容は「儲けやすくて、消えない市場」という反面、競争が以前にも増して非常に激しい市場となりました。
当然のことですが、商品を提供するだけではビジネスの成功はむずかしく、安定した収益を得ることはできません。ましてやレッドオーシャンの美容市場では、発売してすぐに収益を伸ばすことは困難で、早々に撤退するブランドも少なくありません。
仮に、早々に収益を得られたとしても、一時的なブームにとどまってしまう。そんな商品やブランドの例を、皆さんも少なからず想像できるのではないでしょうか。
どんどん参入しては、どんどん消えていく。結果的に上位のブランドは残り、中小のブランドがその順位を替え、或いは消えていく構造になっています。さらに、「成長の壁」が中小ブランドには立ちはだかります。その壁を超えるには、商品価値の高さだけではなく事業基盤の構築が必要になります。
では、どうしたらよいのでしょうか。突破口のヒントを探ってみましょう。
美容事業を維持・成長させるためには、業界の「競争ルール」、押さえておくべきポイントがあります。それに則った準備と更新が重要です。実は、成功が続かなかった例の中には、この “準備や更新” に着手していない、あるいは不十分だったブランドや事業が意外と多くみられます。
かつて、美業業界が脅威と感じた、新規参入のブランドがたくさんありました。早々に売り上げを伸ばしながら、それらのブランドが市場の上位に残らなかったのはなぜか。二の矢、三の矢の準備がなかった、不十分だった、もしくはタイミングがズレていたのも要因です。
商品の競争優位性だけに注力するのではなく、美容業界の「競争ルール」を知り、準備を怠らず、競争の劣位となっている部分をひとつひとつ潰していかなければ、参入時の商品価値やインパクトだけではいずれ衰退してしまうという危険性を知っておくべきだと思います。
見落としていませんか、美容事業の競争ルール
ではここで、美容市場の「競争ルール」を確認してみましょう。まず、基本的な以下のポイントを取り上げてみました。
1) 多様な顧客、多様なニーズに応える商品ラインナップと商品開発サイクル
美容商品はリピーターであっても、スイッチングコスト(別のブランドに乗り換える際の負担)が低いため、新商品や限定商品に対する目移りも浮気も簡単です。
顧客の肌タイプや好み、時季や生活環境、年齢による肌悩み、そして価格帯も考慮し、同じブランドや機能でも幾つかの選択肢を用意することで、お客様に選ばれ続けるブランドになっていきます。
また、将来の市場(顧客や悩み)の変化に対応し、顧客の商品体感や機能を上げる製造技術や新成分の探索、開発を組み入れた商品開発のサイクルを確立しておくことも、顧客と事業が持続安定的に成長し続けるための大切なポイントです。
2) 独自の美容理論やコンセプトを持つ
顧客が共感し、信頼できるブランドイメージを構築すると、激しい競争の中でも顧客の目にとまる存在となるでしょう。ただし、企業が思う「独自性」が、顧客にとって価値があるとは限りません。単なる「差」ではなく、選ばれる魅力ある「違い」を見い出せるかどうかです。
3)「美容の世界」に立って存在を示す
これは、当たり前のようでいて、案外、忘れられている、軽視されている部分です。例えば、美容専門の媒体・場への露出。美容の顧客がやってくる場に、ここにいるよ!と自ら出ていくことは大切な活動です。顧客獲得のための直接的な販売出稿だけではなく、そのブランドに興味を抱き、共感してくれるお客様がいる、そんな「美容の場」を探し存在を示しましょう。
またこの場に属している美容家や媒体からの「情報発信」が顧客や店舗バイヤーなどが商品(ブランド)を見極め選ぶ重要な基準にもなっています。
4)買い場と連動した事業運営
D2C などダイレクトビジネスは、システム事業であり、リスト事業ともいえます。この認識を持っているとスムーズに成長できます。
かつてのように「24時間、いつでも、どこからでも購入できる」利便性だけでは事業は伸びず、商品が良いだけでも成功できません。前者は主に受注出荷、物流(配送)の充実、高度化であり、後者は分析に基づく顧客識別とCRMと連動し、顧客価値の最大化を図り、資産として考えることです。
デジタル化によって、顧客の購入までの経緯も以前よりはるかにわかり、購買行動の特徴やライフスタイル、価値観なども読み取れるようになりました。興味のあるものをそっと適切なタイミングで推すこともできますし、 1 年後のポテンシャルを推測することもできます。推測できれば事業計画もスムーズに確度を上げて立案できます。顧客からのフィードバックを収集し、製品やサービスの改善、新しい価値の提案に取り組む企業も増えてきました。
また、必需品に近いことからお届けする期間の短縮なども競争優位に成りえます。ただ、早ければいいということではなく、欲しい時に欲しい場所に確実に届けるという「顧客と何を約束するか」が重要で、そのようなターゲット顧客の要望に柔軟に応えることが「ストレスフリー」の買い物体験を生み持続的な購入の1要因となります。
支払や注文方法の多様性も同じです。実はこの「情報」は事業側にとってもターゲットのライフスタイル、価値観の理解にも役立ち、顧客の識別力を上げ、事業と顧客との距離感をはかる1つにもなります。
どんな業界も、どんな事業も、顧客をとらえることがもっとも重要な時代です。顧客が訪れる買い場と連動したビジネスシステムになっているかどうかが、事業の成功を左右します。これらを商品と同様に「資産」ととらえ、顧客価値の棚卸を常にすることが重要だと思います。
以上のようなルールにそって、何が足りないのか、どこが競争劣位になっているのか、自社のバリューチェーンを描いてチェックしてみることもおすすめです。
岩永利文
ポーラ・オルビスグループのオルビス株式会社の役員 を経て 、同グループの株式会社DECENCIA代表に就任。 退任後、他社の役員を務めたのち独立。 COCAMP大人美容部のアドバイザーとして情報発信に協力 。
新卒入社の会社で個人向け物販営業を経験後、一貫してダイレクトマーケティングに携わる。オルビス株式会社では、通販事業において「獲得 ×商品」から考えたCRMを中心に 実践し、通販、 コールセンターなど顧客対応部門 及びデータ分析部門や商品部門の管掌役員として通販事業の最高収益を実現。顧客理解の原点は、営業時代の「女心がわかっていない」という顧客のお叱りにある。ファッション衣料、ダイエット、スキンケアを中心とした化粧品など女性商材を中心に、顧客調査と購買分析を通じた「顧客識別」と、「顧客を想像する力での企画」を「デザインの力」に載せた総合的コミュニケーションで、実践的成果にこだわって取り組む。成果を出すキーの1つはライフスタイルブランドという考え方である。CRMのキー としては「自立自走と努力に応じた還元」に行きつき、その実現に向けデータは顧客の声と定め、情報系システムの刷新で情報選択肢を増やしながら意思決定のスピードとタイミングを適正化し、ポイント制など購入制度の構築で顧客コミュニケーションを変革、象徴商品の上市とデザインで商品価値の変革などを実践する。
COCAMP大人美容部では、研究の一環として、企業ご担当者様との対話会(無料)なども行っております。ご相談窓口(ページ下部「相談する」)よりお気軽にお問い合わせください。
まとめ
美容D2Cの世界は、多くのチャンスとともに厳しい競争も存在します。 競争が激しいからこそ、業界の競争ルールをまず知り、企業それぞれの正しい戦略を見つけていただきたいと思います。
自社や競合を分析し棚卸することはもちろん、それらを業界の競争ルールに沿って理解し棚卸することが重要です。美容事業はその名の通り「美容」と「事業」の2つの理解が、スムーズで持続的な成長につながります。
次回のCOCAMP大人美容部は、岩永氏とともに事業の原点である「美容市場の顧客」について紐解いていきます。
この記事の著者
COCAMP大人美容部
<写真左から>
柳 恵理 (株)大広 第3ビジネスデザイン局 部長
原田 裕美 (株)大広 ソリューションデザイン統括局 COCAMP編集長
堀米 華子 (株)大広 ブランデッドダイレクト局 クリエイティブディレクター/アートディレクター ※所属は2024年6月現在