どれだけ企業がいい商品やサービスを持っていたとしても、実際に世の中の人に知られず、利用されていないというケースは随所に見受けられます。いわゆる「認知が低い」というマーケティング課題です。そのような場合、一般的にとられるのが認知向上のためのコミュニケーション戦略。商品やサービスのどのような良さを、どのような生活者(顧客)に向けて発信するのかを徹底的に検討していきます。
それはそれで正しい戦略なのですが、近頃では価値観も多様になっていますので、訴求点やターゲットを絞り込みすぎると、必ずしも十分に機能するとはいいきれなくなりました。ある事例をもとにお話しましょう。
お客さま第一主義から生まれたイオンモバイルのスマホ・サービス
イオンモバイルのサービスは、「お客さま第一主義」を掲げるイオンだからできたサービスです。他社が提供するスマホ・サービスに不満やデメリットを感じている部分をうまくカバーしており、利用者にはとても利便性の高いサービスとなっています。
例えば、
- 価格が安い
- 毎月1GBごとの契約データ容量を選ぶことが可能(10GBまで)
- 家族でデータ容量を分け合えるシェアプランを提供している
- 余ったGBは翌月に繰り越すことが可能
- 毎月、簡単にプラン変更ができるので、データ容量を無駄なく使える
- 全国約250店舗、イオンの中に店舗がある
他の格安スマホと比べても、かなりの優位性があるように思われます。
きっと多くの生活者に喜んでいただけるはずなのに、広がっていかない。そこで私たちは、このイオンモバイルのサービスを、実際の顧客にとっての価値という視点でとらえるとどうなるかを再度考えてみることにしました。既に契約している顧客の声やアンケート調査をもとに顧客インサイトを発掘。結果、次のことが分かってきました。
- 実はスマホ利用者の8割の人が月10GBも使っていないのに、ほとんどの会社では、3GBの契約もしくは20GBの契約の2種類からしか選ぶことができない。イオンモバイルならお客さまの生活スタイルに合わせて1GBごとに契約ができるので、無駄な料金を支払わずにすむ。
- イオンの中に店舗があるので、買い物のついでに契約や相談ができる便利さがある。
広告コミュニケーションの訴求点としては、競合社との差別化が明確で、申し分ないように思われます。確かに顧客にとっての価値は十分にあるようです。さらに、顧客の声に踏み込んでいきましょう。どのような顧客に、どのような形で受け入れられているのかまで明らかにするためです。そうすると、人によって、イオンモバイルの価値は実にさまざまであり、顧客の価値を一つの大きな塊でとらえるのは相応しくないのではないかと考えるに至ります。
イオンモバイルの価値は、顧客ごとに違いがある。
既に契約している顧客へのアンケート調査を通じて顧客の声をひろっていくと、イオンモバイルの商品はスマホという特性もあり、広い世代のクラスターが存在していることが分かりました。
例えば、Z世代の中には、動画をたくさん見る人もいれば、そうでない人もいる。このような顧客にとっては大容量プラン、小容量プランどちらもあれば、自分の都合に合わせてえらぶことがメリットになります。家族で利用する場合はどうでしょうか。例えば4人家族と夫婦だけの場合では求めるものが異なります。そこで、子どものいる家庭では、親が使い切れなかった容量を子どもが使うことができたり、60歳以上の夫婦二人の場合は60歳以上限定のプランを利用できたりすることがメリットになります。他に、ネットが苦手だからという理由で、イオンで買い物する際に対面で相談できることが安心の価値になっている老夫婦もいました。
以上のことからも分かるように、イオンモバイルの価値は生活者ごとに異なり、決して一律ではありません。自分にとってちょうど良いところが見つかるのがイオンモバイルです。だからこそ、それぞれの人にとってのイオンモバイルの顧客価値を、コミュニケーションでしっかり伝えることが大切。絞り込むではなく多様に発信する戦術も、これからはモノと場合によって考えていく必要があるということです。
伝えたい人によってコミュンケーションの仕方を変える
イオンモバイルの価値をさまざまなタイプの顧客に届けたい。顧客のインサイト別に合わせてコミュニケーションをつくっていく作業は非効率なよう見えますが、実際は必要不可欠なものでした。顧客の求める価値がそこにあるからです。
例えばWeb動画「イオンで、スマホ?篇」では、イオンモバイルをまだ知らない人をターゲットにして、年代別にどのようなメリットがあるのかをそれぞれ訴求する内容に仕上げています。Web動画「かえてよかった、イオンモバイル篇」では、イオンモバイルは知っているけど、良さを知らず乗り換えるほどではないと考えている層に向けて、契約をして良かったという人の体験を見せ、乗り換えを促がす内容に。テレビCMではイオンの中に店舗があることを伝え、買い物ついでに気軽に相談できるメリットを訴求しています。顧客を中心とした考え方を持ち、一貫してアウトプットまで丁寧にやり遂げることで、認知だけでなくその先の契約につながっていくのです。
お客さま(顧客)と事業を育てていく
現在、実店舗以外でも顧客をサポートし、満足度をアップできるようコミュニティサイト「イオンモバイルひろば」を構築しています。将来的には、サイトを通じて顧客と企業の関係によい循環を生み出し、両者が一緒にサービスを育てていくことが目標です。
サイトの中から集めたイオンモバイルの良い点や改善点などのお声をもとに顧客価値をつくり、イオンモバイルのブランド価値の向上へつなげていく。これからの企業と顧客の理想的な関係をつくることが、次のステップだと考えています。
※「イオンモバイルひろば」は2023年6月14日時点では契約者の限定公開で、2023年7月以降での一般公開を予定しています。
(株)大広 「イオンモバイル」担当チーム
森 宜久(大広WEDO、クリエイティブディレクター)
秋山 大地(大広WEDO、クリエイティブプロデューサー)
谷川 亮太(大広、プロデューサー)
まとめ
人それぞれ、多様な価値観があふれる時代、結局、顧客価値とはどのように見つければいいのでしょうか。諦めずに顧客の声に耳をかたむけ続けることだと私たちは考えています。そして、必要としている顧客に、必要としているものをちゃんと伝える。これができなければ、せっかくの顧客価値が宝の持ち腐れになってしまいます。だから、顧客の声から見つけた不満やメリットと丁寧に向き合い、顧客一人一人の悩みに応えていけるようなコミュニケーションが、より大切になってくる。そんな発想と実行力が、ブランド成長のカギになってくることでしょう。