“偶然の発見”や“予期せぬ出会い”を意味する言葉、「セレンディピティ(Serendipity)」をご存じでしょうか。
たまたま出会ったモノやコトに魅力を感じ、どんどん好きになっていく。
そんなセレンディピティ的な感覚をビジネスに活用しようという動きが広がる中、
大広は独自の分析を行う「セレンディピティ スタジオ」を立ち上げました。
本記事では同スタジオのメンバーに、セレンディピティ的な視点に立った広告コミュニケーションの考え方について聞きました。
[インタビュイー]
セレンディピティスタジオ チーム
偶然の産物とされるセレンディピティを意図的に起こせるか?に挑んでいる大広のプロジェクトチーム。実際のセレンディピティ事例を要素分解したり、セレンディピティ度合いを評価できる指標を作ったり、ビジネスの中に潜むセレンディピティを見つけ出して仕組みを解明したりと、様々な角度から分析試みる。
研究員: 長谷川 池田 鈴木 楠
新たな顧客体験を生む、セレンディピティ的な視点
セレンディピティとは、「偶然の発見によって新しい価値や魅力を生み出していくこと」を意味する造語です。
たとえば、木から落ちるリンゴを見て万有引力の法則に気付いたニュートンや、青カビの中からペニシリンを見つけたフレミングも、思いも寄らないタイミングで世界を変える発見をしたという点においてセレンディピティを体験したといえるでしょう。
このように、セレンディピティは非常に偶然性が高く、人間の意志ではコントロールできない運命的な要素に左右されるものと定義できます。
消費者庁が2017年に発表した記事「今後想定される3つの消費タイプ」で、偶発的消費のうちの1つとしてセレンディピティが紹介され、注目が集まるようになりました。
そんななか広告業界では、より効率的に成果を上げるために、顧客の属性やニーズなどを徹底的に分析し、顧客に最適な広告でアプローチするパーソナライゼーションが主流に。確かにこの方法は、狙った顧客にしっかり情報を届けられるので売り上げにスムーズに直結させやすいのが魅力です。ただし、パーソナライゼーションの手法では、狙った顧客以外の新しいターゲットを見つけにくいという欠点も。
それぞれの顧客に最適な商品やサービスが行き渡るのはすばらしいことですが、広告によって商品との出会い方が整備されてしまった結果、運命的にステキな商品と出会う喜びのようなものが減っているのではないでしょうか。
現在のようなパーソナライゼーションの時代に、新たな広告の視点を模索したい。そんな想いで立ち上げられたのが、大広の「セレンディピティ スタジオ」です。
顧客が運命的に出会えた!と喜びを感じられるような演出をめざし、さまざまな調査や研究を重ねています。
セレンディピティをマーケティングに活用しようという動きは少なくありませんが、他社の場合、顧客をしぼるパーソナライゼーションの枠をゆるめて、より広い範囲の顧客との接点を増やし、偶然性を高めようとしているようです。
それに対して、大広の「セレンディピティ スタジオ」の考え方は、パーソナライゼーションをもっと突き詰めていくイメージです。商品を好みそうな顧客の興味・関心をどんどん深掘りして、予期せぬ角度からアプローチし、思いがけない偶然の出会いを演出することをめざしています。
少しわかりにくいかもしれないので、とある食品メーカーの例を挙げて説明しましょう。
売りたい商品は、おいしいと評判なのに認知度があまり高くないスイーツです。40代以上には人気ですが、現状のままだとブランドの成長はのぞめないので、若いターゲットの獲得が求められていました。
このスイーツのファンを増やす施策にインフルエンサーを使う場合、どんなインフルエンサーをキャスティングすればよいと思いますか。
従来のセオリーで考えれば、甘いものや食べるのが好きなインフルエンサーですよね。あるいは、スイーツとの関連性が高そうなお菓子作りが趣味の人や、カフェ巡りが好きな人などを選ぶかもしれません。
ここで大広の「セレンディピティ スタジオ」が試みたのは、協力会社であるAIQ株式会社のAIを活用したキャスティングです。
このスイーツを好みそうなターゲットをAIでプロファイリングしてみると、インテリアや韓国ファッションなどの情報をインスタで追いかけている人が多いことがわかりました。
このデータをもとに、実際にインテリア系のインフルエンサーにスイーツを紹介してもらったところ、ターゲット層である20代からよい反応が得られるという結果に。
顧客を深掘りする場所をちょっとズラすことで、新たな視点でのアプローチ方法が見つかりやすくなり、セレンディピティ的な演出が作りやすくなるというわけです。
このようなセレンディピティ的な演出や仕掛けを広告で活用すれば、偶然いいものに出会った満足感や幸せ感が商品・サービスの継続的な使用につながり、LTVの上昇も期待できそうですね。
実際に定性調査を行った際も、セレンディピティ的な出会いを経験した人は、そうでない人に比べて商品に対する愛着意向や継続意向が高い傾向がありました。
こうしたセレンディピティ視点を体系化できれば、前述の食品メーカーのように、ブランドの先細りや顧客縮小といった課題を解決する手立ての1つになりますね。また、大広にとっても新たな提案メニューの1つとなり、既存の手法ではできない魅力的な施策で新たなターゲット層にアプローチできるようになるでしょう。
セレンディピティ的な演出を活用した事例
さて、セレンディピティ的な演出、まるで運命の出会いのような心ときめく施策…とは、具体的にどんなものなのでしょうか。
大広の「セレンディピティ スタジオ」では、セレンディピティの概念をビジネスに活用する方法を可視化した以下のような「セレンディピティートリガー図解」を開発しています。この図解を使って、3つ企業のビジネスにおけるセレンディピティ的なポイントをご紹介していきます。
まずは、世界的に有名な音楽配信サービスA社。この企業のポイントは、顧客の好みに合いそうなアーティストの楽曲をレコメンドしてくれるシステムです。
他の音楽配信サービスに比べてレコメンドの精度が高いという声も多く、このシステムがセレンディピティ的な顧客価値を生むトリガーとして機能しています。
自分で曲を探して聞く場合と違って、好みの音楽と意外な出会いができるので満足度も高く、A社への信頼感につながっているといえますね。
続いての図解は、とある航空会社B社の事例です。「旅先が決められた旅行券」や「宿が指定された宿泊券」、「旅先でやるべきこと」などが書かれたくじ引きが、新たな顧客価値を生み出すトリガーになっています。
思いがけない旅先でのさまざまな出会いやできごとが、すべてセレンディピティ的な体験に。高い満足感が得られると好評で、継続利用や口コミ拡散を促進しています。
最後は、とある大型書店C社です。書籍のコンシェルジュサービスや独自性あふれる店頭イベント、工夫された陳列などが、新しい書籍とのセレンディピティ的な出会いを生み出すトリガーになっています。
「書籍を含めた未知の情報と運命的に出会える場所」として新たな顧客体験を作り出し、書店が苦戦する現代において存在感を示しています。
上記の3企業のビジネスは、どれもセレンディピティ的な“偶然の出会い”を演出したサービスやキャンペーンを実施していますよね。
セレンディピティ的な演出というのは、3企業のように“体験を提供すること”がポイントといえるでしょう。
“体験する”という行動は、顧客が自ら能動的にならないと得られないものです。A社のように次々とおすすめの音楽を聞いたり、B社のように旅先でミッションを与えられ様々な施設を訪れたりC社のように出会いやすい空間づくりによって新たな書籍と出会ったりする―、つまり、顧客が自ら「体験する」意思を持って、能動的な行動の先に、運命的な出会いを作るためのトリガーを用意することで、セレンディピティ的な演出ができるのかもしれません。
ポスターやCMと違って、見て聞いて終わりというものではなく、商品への関与度が高くなるので、商品・サービスの魅力が伝わりやすいともいえます。
ただ広告に接触するだけの場合に比べて、商品に対する良い印象、ポジティブな印象が連鎖しやすいため、LTVの向上も期待できるのではないでしょうか。今後の定量調査でこのあたりがより明らかになっていくと、さまざまな施策に活用しやすくなりますね。
セレンディピティ的な発想で広告コミュニケーションを考える
セレンディピティ的な視点で広告コミュニケーションを見直すときに役立つのが、大広独自のツール「セレンディピティスコア」です。
このスコアのもとになっているのは書店の顧客を対象にしたインターネット調査で、簡単にいうと、過去にセレンディピティ的な体験をした人が商品・サービスのどんな点に魅力を感じていたのか?を調べたものです。
顧客の体験がセレンディピティ的なものだったかを評価するスコアなので、うまく活用すれば今ある商品やサービスの課題を新たな視点で解決できるようになります。どんな要素が足りないのか、何をプラスすればセレンディピティ的な演出になるのかが分かりやすくなるということです。
もちろん、商品やキャンペーンを新しく売り出す際にも、このスコアを指標にすれば、セレンディピティが起きやすい設計を考えやすくなりそうですね。
今後はさらにセレンディピティスコアの精度を高め、幅広い分野で活用できることをめざし開発が進められています。
前述の通り、昨今の広告業界ではパーソナライゼーションによる効率的な施策が主流です。広告だけでなく世の中全体がパーソナライズされていて、私たちの日々の行動を振り返ってみても、自分の興味があるもの、自分が欲している情報だけにアクセスしようとする傾向があります。
そんな現代だからこそ、セレンディピティ的な演出による意外性のある出会い、予期せぬ発見が、強いインパクトを残すのではないでしょうか。大広の「セレンディピティ スタジオ」の場合、浅く広くではなく、ターゲットとなる顧客の属性を深掘りし、根拠のあるアプローチをしようとしている点が特徴的です。
また、総務省が問題提起しているように、欲しい情報が欲しいだけ手に入るのは情報的に健康的な状態か?という懸念も高まっています。そういう点でも、セレンディピティ的な視点に注目が集まっています。
今後ますます進化し続ける「セレンディピティ スタジオ」の研究にぜひご期待ください。
まとめ
広告コミュニケーションを立案する上で、これまでにない顧客体験をつくることがますます大事になってきています。
その課題をクリアする1つの方法として、セレンディピティ的な視点を採り入れてみてはいかがでしょうか。
情報の囲い込みで顧客に「買わせる」のではなく、顧客が「能動的に買う」体験することで、ポジティブな購買の連鎖が生まれると考えています。
そして、顧客はセレンディピティのある購買体験を通じて、今まで意識していなかった自分の内側にある興味に気づき、新たな発見や体験することで、経験や知識がどんどん増えて行きます。
この両者の好循環を生むことでソーシャルグッドな状態を生み出し、企業の価値を上げていくことに繋がると信じてセレンディピティ スタジオは活動を続けています。
セレンディピティ的な発想で広告コミュニケーションを仕掛ければ、より深く顧客の心に残るアプローチが可能になり、LTVの向上も期待できるでしょう。
最後まで、お読みいただきありがとうございました。大広COCAMPでは、これからも顧客体験に関するコラムを掲載してまいります。まだメルマガ未登録の方は、これを機会にぜひ、下記よりご登録ください。
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