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2023.01.18

フェムテックの潮流に上手に乗るコツ 〈第1回〉「フェムテックを正しく捉える」

女性特有の健康課題を解決するテクノロジーや商品・サービスを指す「フェムテック」。
経済産業省が2025年時点での経済効果を約2兆円と算出し、2021年新語・流行語大賞にもノミネートされたことで、「旬の商機」として一気に注目を集めています。
その一方で、
「言葉は知っているけれど、実際のところは触ってなくてわからない」
「商品やサービスを通じ、自社がタイムリーな商機をつかむにはどうすれば良いか? 」
「マーケティングやコミュニケーションで、どうリスクをケアすればいいか? 」
とお悩みの方も多いのではないでしょうか。

せっかく取り組むなら、旬の商機やバズワードだけで取り組むのはもったいない!
私たち、大広フェムテック・フェムケアラボでは、当コラムを通じ、フェムテックから「自社が持つ、オンリーワンの顧客価値」にフォーカスするためのさまざまなノウハウやTipsを丁寧にご紹介します。
今回は第1回「フェムテックを正しく捉える」です。

フェムテック(Femtech)とは何か?

フェムテック(Femtech)とは「Female(女性)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語です。
2012年頃ドイツの月経管理アプリ「Clue」の代表IdaTin氏により生まれました。
スタートアップ企業の重要な資金調達先であるVC(ベンチャーキャピタル)も男性比率が高い状況下で、「女性のウェルネスへのテクノロジー活用」もFintechと同様、今後進化していく分野であるイメージを持ってもらうための、当時の「苦肉の策」でもあります。

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2017年に隆盛した「#MeToo運動」も、「社会における女性の生活」全体への捉えなおしを大きく後押しします。
マーケティング領域でこの大きな潮流変化を示したのは、2019年「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」です。
自動車の衝突実験データで女性を想定したデータが少ない不平等に目を向けたボルボの「THE E.V.A. INITIATIVE」や、生理用品が贅沢品と同様に軽減税率対象外である問題を提起したThe Female Companyの「The Tampon Book」が受賞しました。

このような世の中の動きを経ることで、フェムテックにも必然的に「生きやすい社会の創造」というさらに広い視点が吹き込まれたといえます。

現在では、性別も「生物学的」「社会的」と表現されつつあり、男性のウェルネス領域に対してもフェムテックと同様のテクノロジーでのアプローチが増えてきました。
将来的には「Digital Health」や「Gender-Specific-Technologies(性別固有のテクノロジー)」の一部として、ヘルスケア全体の進歩へつながると考えられます。

フェムテックの市場規模と対象領域

フェムテックのグローバルな市場規模は、女性の健康とウェルネスに特化したVC「Coyote Ventures」と、フェムテックの情報配信やスタートアップサポートを行うNPO「Femtech Focus」が発表した「FemTech Landscape 2021」によると2027年までに1兆1860億ドル(約160兆円/1ドル135円)と予測されています。
日本では、経済産業省が2025年時点のフェムテックによる経済効果を約2兆円/年と推計。商品やサービスレベルでは、株式会社矢野経済研究所が「フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場に関する調査」(2021年10月発表)で、2020年のフェムケア&フェムテック市場規模は約597億円と算出しており、国内外共にポテンシャルの大きい市場です。

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(出典:Femtech Focus「FemTech Landscape 2021」、経済産業省 「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査 報告書 (概要版)」より大広作成)

この市場規模の総額だけ見ると「乗るしかない、このビッグウェーブに」となりがちですが、データが何を意味するのか理解することで、その企業ならではの「自社の貢献できるポイントやアセット活かして、地に足の着いた取り組み」が可能になると私たちは考えています。

フェムテックの対象となる「女性の健康領域」を丁寧に分解すると「女性特有であったり、女性に多かったり、異性と異なる症状」といえます。
「女性の方が多い」例としては、偏頭痛、甲状腺ホルモン含めた免疫系や骨粗しょう症などの骨関連の領域。「異性と異なる症状」が現れる例としては、心血管系疾患やガンがあります。これらを紐解くことは、実は女性のみならず、性別を問わず医学全体の進化にもつながっていく部分です。

Femtech Focusによる分類だと、2021年時点での主なフェムテック領域(コンディション・症状・疾患別)はこちらとなります。

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出典:Femtech Focus「FemTech Landscape 2021」

分野としては、
・Reproductive(性と生殖の健康関連)
・Menstral(月経関連)
・Sexual(セクシャルウェルネス関連)
・Pelvic/Uterine/Vaginal(骨盤底/子宮関連)
・Bone Health(骨関連)
・Oncology(ガン関連)
・Autoimmune(自己免疫関連)
・Brain Health(脳関連)
と分けられていますが、
Menopause(更年期)など複合的な症状になるもの、Heart(心血管関連)など女性に異なる症状が出やすいものが加わります。
ヘルスケア関連の法制度やスタートアップエコシステムの違いもあり、「もっと楽な解決策があるのか! 」と驚く商品やサービスも登場する点がグローバル市場の面白いところです。

性別固有のヘルスケアの難しさの中に「平均値や他の人と比べてどうか? 」という知見がないままお医者さんに体調を伝えなければいけなかったり、毎日の変化を自分でモニタリングしないといけなかったり、さまざまなハードルが含まれています。
日本では、尿を使って排卵日をチェックする製品が主ですが、海外では排卵期に変化する呼気中の二酸化炭素濃度をデバイスに吹き込んでチェックするアイテムも登場。
妊娠中の胎内状況や、更年期の体温変化の調整デバイスなども、アプリと連携することで可視化しモニタリングしようとする商品・サービスも数多く生まれています。

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同じ視点で、産後の生活負荷を軽減するアイテムも豊富です。
「Lilu さく乳をサポートブラ」は、優しい電動クッションのマッサージでハリ緩和を促したり、ハンズフリーでつけたまま仕事や作業ができたりします。(こちらは日本でもfermata Storeで購入できます)5_mk004_2lilu

出典:fermata Store
https://hellofermata.com/products/lilu-bra

海外の企業の「その人らしく生きる時間を増やす」試みや姿勢は、これから商品やサービスを考える企業や担当者、自社の製品の価値を捉えなおす際にも大切になる視点です。

日本市場に注目すると現時点では、
・月経・PMS(月経前症候群)
・妊活・不妊・妊よう性
・妊娠期・産後
・セクシャルウェルネス
・デリケートゾーンケア
・ウェルネス・疾患ケア
・メンタルヘルス
・更年期
といった領域で商品やサービスが作られています。

6_mk005出典:fermata「2020年秋冬版 国内Femtechマーケットマップ」参照およびリサーチの上、大広作成。

フェムテックは既存の領域でも対応が不足した部分の発見・進化へのアプローチが求められる場であり、女性の健康寿命と社会進出に伴った「社会的要請がある」と捉えると、どの企業も「自社のアセットやお客様との向き合い方」がオンリーワンの価値として輝く可能性を秘めています。

定量/定性調査と「n=1、一人ひとりの声に理解して進む」重要性

フェムテックの対象領域を「コンディション・症状・疾患別」でご紹介しましたが、特定の「不(心、体、生活における不調・不快・不安・不満)」をラベリングしペルソナ設定したマーケティングアプローチは、あまり機能しません。
当事者にしてみれば「ねぇ、あなた、PMS(月経前症候群)でしょ、辛いんでしょ! 」と他人からレッテルを貼られたくはありません。「わかって欲しいが、1つのイメージに無理やりはめられるのは違う! 」となります。

なぜなら、同じ「PMS(月経前症候群)」であっても、気分が落ち込む人や頭痛やお通じに悩む人など体感する程度も辛さも十人十色で、さまざまな感情が伴っているからです。
置かれている状況や生活環境(年収や居住地含め)も多岐にわたります。

私たちは、よい商品やサービスを作る、正しくコミュニケーションを取るためには、

①定量的に知る
②定性的な声を聞く
③n=1、一人ひとりの声に理解して進む

の3つのプロセスが不可欠だと考えます。

私たち大広フェムテック・フェムケアラボでは、「データの先に人がいる」を大切にしてリサーチを行い、インサイトを深く読み解くことで、事業開発やコミュニケーションに並走しています。

「定量的に知る」の例として、女性の年代別の悩みの変化をあげます。7_mk005_2femteh-02

パワーカップルや子育てママ、女性管理職登用といった言葉で表現されやすい40代半ばの女性は、自身の体調の変化に「私はPMS? 更年期? どっち? 」と悩むタイミングにさしかかることがわかります。
このライフステージの変化と体の変化が同時に来る状態を念頭に置くと、自社が商品やサービスを通じてどう向き合えるか考えるポイントになります。

さらに「定性的に知る」ことでインサイトを深く捉え、商品やサービスに取り組む人達が「n=1、一人ひとりの声に理解して進む」を実践すれば、コミュニケーションや事業を通じ、お客様とより深い関係を築くことができます。

生きやすい社会の創造を目指す「大広フェムテック・フェムケアラボ」について

ここまで、フェムテックをどう捉えるかについてご紹介してきましたが、フェムテックも含めたデジタルヘルス領域は、生活者の「不(心、体、生活における不調・不快・不安・不満)」に応え、選択肢を作るべく日進月歩に進化をしています。

私たち大広フェムテック・フェムケアラボも、2020年度にそれぞれ「n=1」の実体験を持つメンバーが有志で集まって社内R&Dからスタートしたチームです。
共通の課題意識を持ちながらも専門領域・年齢・性別・拠点を超え、さまざまな視点を交換する体制で臨んでいますが、各々の目を通しても「半年でガラッと成長する領域である」と実感しています。8_mk005_3logo

動きがあり、デリケートな部分もあるものだからこそ、マーケティング領域の社会での役立ち方も変わると考えています。

私たちのビジョンは「女性がカラダとココロの変化を正しく知り、気づき、対処することを当たり前にし、​生きやすい社会を創造する」ことです。アセットを持つプレーヤーやエンドユーザーが1次情報にリーチできる機会を増やして、マーケティングを一人ひとりにピッタリな「選択肢の社会浸透」へ生かす取組を軸に続けています。

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フェムテック起点にヘルスケアに目を向けたわけではなく、私たち大広という会社自体も、大阪で売薬業の傍ら1893年に広告取次業を始めた金水堂にルーツを持つ企業です。
長い間、医療や製薬関連の企業様とのお付き合いを通じて育まれた文化、お客様・事業・社会の間の「顧客価値」を軸とした視点やノウハウが、この領域にもっと還元できることを願って取り組んでいます。

一緒にやってみたい!相談してみたい!という際は、ぜひお声がけください。

次回は、フェムテックを「知って理解したら、どう進むか」についてお話します。

次回、「フェムテックの潮流に上手に乗るコツ 〈第2回〉「デリケートな話だからこそ!正しく“知る”」」へ続きます。

 

この記事の著者

平野 陽子

「大広フェムテック・フェムケアラボ」チーフプロジェクトマネージャー。 PMI「Project Management Professional」保有。 IT企業、事業会社でのWebマスター、商品企画開発、新規事業開発やプロジェクトマネジメント等を経て2019年より大広所属。「大広フェムテック・フェムケアラボ」では、女性のウェルネスやヘルスケアに取り組む企業の事業開発・コミュニケーション支援、ワークショップでの社内浸透支援、リサーチ等に携わっている。