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2024.07.12

ECサイトをシステムではなく顧客視点で見つめ直しボトルネックを解消する「ECサービス総点検」とは?

令和4年の国内EC市場規模は22.7兆円(前年比+9.9%)、市場におけるEC化率は9.1%(前年比+0.35pt)と増加傾向にあり、商取引の電子化が引き続き進展しています。※
市場規模の拡大とともに競合も増え、生活者の購買行動が多様化するなかで、集客や顧客育成など様々な事業課題を抱える事業会社も多くなっています。今日はEC事業が提供するサービスを顧客視点で見つめ直し、UXを総点検するプロジェクトに取り組んでこられた(株)大広の林さんにお話を伺いました。

※経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果 2023年8月31日」より

林-祥司2-1林 祥司 
(株)大広 第1マーケティングデザイン局 プランナー
2014年に大広入社。コピーライティングを軸にクリエイティブからコンテンツ開発、PR領域まで、「顧客視点から」コミュニケーション施策をプランニング。手段/手法を問わず、顧客づくりからファン化までのストーリーの設計を担う。 


――ECビジネスに参入する事業社が増えていますね。ビジネスを俯瞰して、いまどんな変化や課題をお感じですか?

そうですね、やっぱりコロナの影響でECを使って買い物をする方がかなり増えています。この環境の変化を背景に、EC事業社のシステム構築や運用視点で見ると、無料で使えるカートのシステムなどプラットフォームの選択肢も増えている状況になっています。

広告会社の課題として感じていることは、得意先へのサービス提案の前提としてアップデートのスピードが速いシステム環境の知見をためていく必要があるわけですが、新しいサービスもかなり増えてきたことでしょうか。
この4月から施行された物流のトラックドライバーの方の労働時間の削減、制限によって物流ビジネスそのものに大きな変化が出ています。いわゆる2024年問題です。このこともECビジネス全体に影響が出てくると思いますね。

いっぽう生活者の行動にも変化があります。「TikTok買い」みたいな言葉が流行したように、SNSで紹介された商品をそのまま EC に飛んで購入できるような動線が増えています。そういう生活者の購買行動もかなり多くなっているので、デジタル上で全部完結する顧客視点の動線戦略を考えていかなくちゃいけない世の中になった、ということも感じています。

 

――SNSから直接ECへ飛んで買い物する経験がある人って多そうですよね。

SNS上でインフルエンサーが紹介している商品に惹かれることもありますが、インフルエンサーではない方が紹介しているような商品をそのまま買ってしまうみたいなことも、僕自身も多いかなと思うので、ひとりの生活者としてもそういう購買行動が増えたなぁと感じますね。

 

――新規顧客の獲得や顧客維持など、コミュニケーションのファネルごとにも課題はありますか?

ファネルごとに課題はさまざまだと思うのですが、 どんなEC ビジネスにも一番大きな課題になっているのは「お客さまを獲得したのはよいが継続してもらえない」という課題ですね。初回購入やお試し購入のようなアプローチで、とりあえず広告を投下していろんな人を囲い込んで獲得をしても、継続いただけるお客さまじゃなかった場合はどんどん解約していってしまう。
これは集客フェーズの問題ですが、CRM(顧客管理・顧客維持)の視点でいうと本当にその商品が必要な人を集客できているのか、という問題でもあります。長く続けてもらえる人を集客するにはどういう戦略が必要か。そういう姿勢で集客案件に向き合うことが大切だと感じています。

 

――ECサービスの総点検という今回のプロジェクトですが、どんなきっかけでお客さまからご相談をいただいたのでしょう?

今回ご相談をいただいたクライアントは、美容化粧品や健康食品のECビジネスを運営している会社です。販売チャネルが拡大してかなり急成長されていますが、設立されて15年ぐらいの比較的、新しい会社です。ありがたいことに、大広のダイレクトマーケティング支援の実績を耳にされた先方からお声がけをいただいたことから、健康食品のマーケティングサポートということで取引が始まりました。新商品のターゲットってどういう人がいいんだろうかとか、インサイトはどういう部分があるんだろうかという提案がきっかけになります。そういった関係の中から、今回EC全体の総点検プロジェクトのお声掛けをいただきました。

 

――「総点検」と聞くと業務範囲が広いように思われます。今回のプロジェクトで課題となったことを教えていただけますか。

今回EC全体の総点検プロジェクトですが、相談された商材は美容化粧品でした。
化粧品はトレンドの移り変わりがすごく早いので、それによって売れ行きが急成長したり鈍化したりということが大きい商材です。
今回ご相談いただいた商材も、これまで積極的に広告を投下してとにかくブランドに興味がありそうな見込み顧客をいっぱい獲得するようなビジネスモデルで成長してきたんです。ところがある程度売れてしまうと、新規獲得が難しくなってきてしまった。と同時に、この商材で培ったビジネスモデルだけでは立ち行かなくなったという状況もあり、現状の顧客接点のどこに問題があるのかを点検したいという課題を先方は抱えていました。
その課題を解決すべくCRMまで含めたサービス全体も見直していきたい、という運びになりました。

 
――新規獲得のフェーズだけでなく、獲得されたお客様をどうやって維持していくのかという課題ですね?

そうです。新規の獲得から継続維持までの顧客接点で、どこがお客さんにとって離脱ポイントになっているのか、そこを解明したいので、ECビジネスモデル事業全体の UX 全般を総点検したいというのが最初の与件でした。

 

――かなり広範な領域の作業のような気がしますが、相談を受けて、最初はどのように感じておられましたか? 

正直、ちょっとしんどそうだなと(笑)。それはさておき、業務範囲が広すぎるので、まず何から手をつけようかと。

UX系の点検や改修となると、デジタル専業やその領域に特化したベンダーに相談することが多いとは思います。UX の点検となると、例えば サイトのボタンの位置をどうしようとか、かなりシステム的な提案になることが多いので。 

ただ今回の相談内容は、顧客のインサイトや導線の設計なども含めて、顧客の視点で点検をしてほしいという内容でしたので、大広に依頼されたのだと思っています。
なので、まずは提案すべき領域の要件定義をどうするか、提案するアウトプットはどうあるべきなのか、それとプロジェクトのチーム編成はどうあるべきなのか、そのあたりから進めることにしました。

 
――おっしゃるようにチーム編成も大切になってきますよね。どんなチームを組まれたんでしょう?

まずは新規顧客の獲得フェーズからCRMのフェーズまでフルファネルで点検していくにあたって、各フェーズごとに顧客接点のスペシャリストと呼べる知見を持っている方に参加してもらって、役割分担しながら点検していこう、そんな思想でチームを作っていきたいねと担当営業とディスカッションを重ねました。
そこで、まずはコンタクトセンター運営について豊富な知見があるコンサルタントに声をかけました。大広グループにはコンタクトセンターを受託できる機能会社(株)ディー・クリエイトがあります。そのスタッフをまずはアサインしました。また、おなじくグループ会社ですが、ECビジネスのプロフェッショナルに特化した人材紹介をおこなう(株)WUUZY(ウージー)から、事業者の立場でCRM領域に従事してきた経験が豊富なコンサルタントを紹介いただき、ECビジネス、とりわけCRM領域に強いチームをつくることができたかと思います。

そもそも、こういうEC の総点検をするにあたってはチームでシステム知見や、事業者視点での運用知見を持てることが大切です。大広の顧客価値発想にそんな知見をかけあわせることができたことは、学びの多い体験でもありました。

 

――プロジェクトの初動といいますか、業務設計のプロセスについてお伺いしてよろしいでしょうか?

与件を簡単に整理すると、「あらゆる顧客接点で」「ECサービスにおける」「顧客が感じている「不」(不都合・面倒)」を「改善して」「収益貢献度をあげたい」とのことでした。
今回のプロジェクトは、「あらゆる顧客接点」とはどこか、「ECサービス」とはどの範囲までか、「不」とはどういった事象を指すのか、依頼内容が広範に渡ると感じていましたので前提や定義をすり合わせするところから始まりました。

ECの事業サービスレベルでの総点検

すべてのブランドを横断的に点検するのか、それとも事業のコアとなるブランドに絞るのか。顧客接点にしても広告、LP、WEBサイト、コンタクトセンター、商品梱包、DMなどフォーカスすべき接点をどう設定するのか。得意先と点検する詳細のすり合わせをしました。加えて競合ブランドのUXとの比較も依頼されていたので、じゃあどこと比較するといいのか、今ECのサービスレベルとしてトップと思われるサービスを提供している会社はどこなのかなども、依頼内容ひとつひとつの解像度を上げていく作業が初動でした。

 
――初動の要件定義には時間がかかったのではないですか?

そうですね、 進め方としてはまず大広から要件や前提を提案して、それに対してディスカッションして合意形成していくような形で毎週1回の定例ミーティングを進めました。
プロジェクトのゴールメージやアウトプットのイメージについても大広の提案にフィードバックをいただきながら解像度を上げていく作業でした。点検すべき接点やその評価設定など、とにかく細かくタタキというか仮説を提案して道筋をつくっていったので、そのぶん作業はたいへんでしたがスピード感を持って進められたのかなと思っています。

プロジェクトの進め方

まとめると、今回のプロジェクトでは、

  • どのブランドを対象とするか
  • サイト往訪した見込み顧客あるいは定期顧客など、どんな顧客を対象とするか
  • どの顧客接点を対象とするか

  • フロントエンドあるいはバックエンドまで対象とするか

といった点検範囲についての前提と範囲の確認を行い、その結果、今回は、

  • 主力商品を対象とする
  • 定期初回購入者を対象とし継続購入を促すまで
  • 顧客接点は限定しない
  • 顧客が見るフロントを対象とする

という定義まで初動で合意形成をしたかたちになります。

 

 

――業務設計にあたって、大切にされた視点は?

そのうえで、「有識者視点での分析」と「顧客視点での分析」、ふたつの分析視点で点検を行うことです。CRMのスペシャリストがUI/UXの要検討ポイントを洗い出し、他社ECと比較する視点と、実際に長く継続されているお客様にお話を聞くという顧客視点で仮説立てして「不」の部分を洗い出すような視点が必要だと思います。
この仮説立てによる視点に、大広の顧客価値発想が活かされています。この二つの視点で顧客がECに辿り着き、商品を選び、受け取り、試すまでのあらゆる顧客接点における「顧客の不」の棚卸シート作成と点検ポイントを整理しました。

総点検プロジェクトの概要と考え方

 
――ECサービスを「スペシャリスト視点」と「顧客視点」による総点検を行うということですね。具体的にはどんなフローで作業を進められたのですか?

前提や定義を議論できたのち、「顧客が感じている不」を洗い出す作業に入ります。そのためには、具体的に顧客がどういった購買行動をとっているのかを把握することが必要でした。
そこでまず行ったのは、商品の購入プロセスの中で(①)、どんなマインドになり(②)、そこから想定されるアクションはどういったことか(③)、について仮説をもってリスト化しました。
例えば、①商品受け取り前に、②購入プランを確認したい、と思ったときに、③マイページを確認する、といった具合です。各プロセスでの顧客がどういった心理状態で、何を確認したいのか、を細かく見ていくことで、顧客の視点で抜け漏れのないシート作成を目指しました。

購買行動のプロセス

購買プロセスをひとつひとつ分解していく作業、それと商品を買うときに最初にどんな気持ちになって、その時にどんな行動をとるのかひとつひとつ細かく分析しマインドとアクションのところを洗い出していきます。化粧品の場合、最初に価格を見るのかとか、成分見てから口コミを見るのか、とにかく行動ベースで細かく分析していきました。

 

――「顧客が感じている不」ですが、どんなことまで想定されたのでしょう?

例えばダンボール開けるときに毎回苦労するから梱包も開けやすくしてほしいなど、細かく言うとそういったところまで離脱になりうるポイントと思えることを顧客の「不」と定義した感じです。

 

――顧客のマインドやアクションを理解するためにどんなことが必要ですか?

今回、競合サービスとの比較を行いましたが、競合のECサイトを見ているだけでは顧客のマインドとアクションは感じられませんし、把握できないと思います。そこで実際に自分たちが競合サービスの顧客になってみようと。そこでレベルが高いと感じる複数のECサービスの会員になって5、6商品ぐらい購入してみたんです。定期契約をして1回2回続けて購入してみる。解約の電話を入れてみる。実際に購入する生活者の立場になってみたときに感じる離脱になりうるポイントを収集したことは総点検の大きな材料になったと思います。

 

――ECサービスの点検に顧客マインドやアクションの分析を行うことは、一般的な作業のですか?

ECサービスの点検や改修は、サイトの 導線とか、システム面でどこにどんなボックスがあるかみたいな点検になりがちなのかなと思いますが、顧客のマインドとかアクションの方から行う UX の点検はあまり多くない気がしています。今回の総点検のアウトプットはエクセルシートになるのですが、最初の顧客接点から定期購入を継続するまで、点検項目は500行以上になりましたね。

エクセルシート

 
――その総点検シートを活用して、理想状態を得意先と共有されるんですね?

顧客行動を整理した後は、チェックすべき項目を整理し、対象となる商品のサービスレベルはどうなのかを一つひとつ確認していったわけです。このシートをもとに競合他社のサービスとも比較することで、商品のサービスレベルをはかり、得意先に改善点を示唆していきました。
今すぐ改善できるかどうかではなく、改善した方がいいですよというポイントを提案しディスカッションする感じですね。そうすると、得意先から「そこはUX/UI悪いと思っているから実は改修中なんです」とか「他社のポイントはわかる。確かに便利かもしれないけど、うちはシステム上ちょっとできないんだよ」など、検討されている点も明らかになってきます。ディスカッションを通して、どの点検項目が離脱になり得るポイントとして重要度が高いのか、優先順位を決めていった感じですね。このディスカッションをもとに、改修すべき優先度や改修の可否を検討するフェーズに移るイメージです。

 

――今回の総点検、得意先からはどういう評価をいただいていますか?

今回の点検の結果や改善ポイントの提案には一定の評価をいただけたと感じています。提案内容の一部は早速実現に向けて進んでいたり、お客様社内の経営層に報告をしていたりと、大広の提案内容に基づいてスピード感を持った意思決定をいただいております。また、本提案から別のお仕事に繋がるなど、現在も大広との関係が継続しております 。

 

――今回のプロジェクトは、顧客のマインドと行動を棚卸しされた作業のように感じました。ほかのECサービスにも活用できそうですね?

総点検シートは、大広の顧客インサイト分析と、得意先インサイトや事業構造知見が豊富なスペシャリスト、お客さまと直接繋がるコンタクトセンターを運用している経験が豊富にある機能会社の知見があってはじめて可能になった作業でした。

ECビジネスはビジネスモデルが定型化していて、カートのシステムとかもどこも同じようなものを選んでいて差がつきにくいと思うんです。
広告でECサイトまでは呼び込めているけど購買までは繋がってないとか、一連の体験設計の中でどうすればもっと継続してもらえるか。これまでにも「顧客リストはいっぱいあるけど、 不良顧客ばかりなんです」とか「そこそこ売れるのにリストは増えないんです」というご相談もいただいたことがありますが、ボトルネックがどこにあるかわからないという課題に対して、サイト動線っていう整理の仕方ではなく顧客の購買行動から改めて見直すことは有効だと思います。

個人的にはファンづくりや絆づくりだけではない、顧客との関係構築を図るコミュニケーションのすべてがCRMなのだと改めて感じました。また、今回の棚卸業務をきっかけに得意先のCRM領域への参入機会も得ることができたので、領域拡大に今後も挑戦していければと考えています。
手前味噌ですが、総点検シートのフォーマットは定期通販サービスにおける一般的な顧客のマインドと行動から棚卸して作成していますので、化粧品以外の多くのECサービスの一次点検にも活用いただけると思います。

顧客起点でのCRM課題棚卸プログラムについての資料は、こちらからダウンロードいただけます。

この記事の著者

COCAMP編集室

「ビジネスは、顧客価値でおもしろくなる」をコンセプトに、ビジネスにおける旬のキーワードや課題をテーマに情報発信しています。企業の大切な資産である「顧客」にとっての価値を起点に、社会への視点もとり入れた、事業やブランド活動の研究とコンテンツの開発に努めています。