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2024.08.28

ダイレクトビジネスで陥りがちな新規獲得効率の罠

多くのダイレクトビジネスが踊り場を迎えています。
市場に多くの競合が参入し、人口減少によるレッドオーシャン化がすすむ中で、新規獲得だけを目指していればビジネスが成長していた時代は過ぎ去ったとも言えます。にもかかわらず、多くの企業は新規の獲得効率(単価)をKPIにして施策を実施しています。安く初回購入させたとしてもほとんどが離脱し、2回目、3回目につながらないと、結局は損益分岐点を超えず利益を生まない施策になってしまう恐れもあります。
今日はダイレクトビジネスで様々な企業をサポートしてこられた(株)大広の岡野忠史さんに、これからのダイレクトビジネスに必要な視点についてお聞きます。

tadashi_okano岡野 忠史 
(株)大広 第1マーケティングデザイン局 第1ダイレクトビジネスグループ 部長
大広入社時から20年間営業職に従事。営業でありながら事業戦略立案、クリエイティブディレクション、メディアプランニング、CRM戦略およびプログラム設計など事業レイヤーから現場施策まで、マルチ対応で得意先をサポートしダイレクトビジネスの知見を蓄積。現在は営業時代に培った知見を活用しながら、ダイレクトビジネス企業の事業課題解決に向けた戦略立案や施策提案などを行っている。

ダイレクトビジネスにありがちな課題とは

――ダイレクトビジネスに参入する企業がかなり増えていると同時に、ビジネスの環境が大きく変わってきた印象を受けます。企業が抱える課題としてどんなことをお感じですか?

岡野
例えば、新規参入した企業が抱えている課題で言うと、ダイレクトビジネスに慣れてない上層部の方が活動を評価されるときに、「新規で何人のお客様が獲得できたか」しか見ていないということでしょうか。広告費をいわゆる出費と捉えているので広告費で何人取れたかいうことでしか評価しない。ある意味わかりやすいんです。でも事業の成長やブランド育成という視点も含めて、それは事業にとって本当にいいことなのかな?ということを常々、思っているんです。

 

――ダイレクトビジネスやECビジネスではCRM領域も両輪の片方というイメージでしたが、新規獲得だけを向いている企業が多い印象ですか?

岡野
肌感として多いと感じています。CRMとかファンづくりという言葉もようやく最近市場に定着し始めたような感じですよね。じゃあうちも、ということでCRMだ、ファン作りだって掛け声だけ始まっている状態なんじゃないかなと思います。我々広告会社の人間ですら、なんだかんだ言って、「じゃあ新規でどれぐらいお客様が取れるのか?」っていうところでしか会話ができていないということが往々にしてあります。

 

――CRMという領域には様々な活動があると思うのですが、その辺いかがでしょう?

岡野
そうですね。ちょっと話が横に逸れるかもしれませんが、例えて言うなら「食事」という言葉に含まれる領域と同じくらい広い(笑)。朝食・昼食・夕食という違いもあれば中食・外食というシーンもあります。そして中華料理も和食も洋食などジャンルも多岐に渡りますよね。CRMって一言で捉えても、その活動は目的によって広範に広がります。CRMをやりたいという相談を受けても、CRMでどんなことをしたいのかっていうところが結構あやふやということも多く、結果的にCRMという顔をしたセールスプロモーションをしているブランドが多いんですよ。

DM-kpi01

 

――CRMが顧客育成の作業ではなくて売上を拡大するための作業に変わってしまっていると。

岡野
そうなんです。CRM活動を実施するとなってダイレクトメール、いわゆるステップメールとかフォローメールなどを送るわけですが、そこで訴求されていることは、価格が何%オフとか、定期会員になると色々メリットありますとか・・・。顧客育成ではなく、どれだけ定期顧客に引き上げられるかみたいな目論みの施策が目立つ、つまり企業側都合の「LTV向上」という名の売上を上げるだけのプロモーションばかりになっている。そうなると新規を獲得していく作業と変わらないことをCRMという名目で実施しているっていうことになっていくんですよね。

 

――そういうことが起こるわけですね。ところで新規顧客の獲得だけに注力することには、どんな問題があるのでしょう?

岡野
誤解がないようにしておきたいのですが、新規顧客の獲得に注力することがダメってことではないんですよ。事業の規模を大きくするのは単純な計算式で、(人数×客単価)でしかないんです。人数っていう方の円を大きくすれば事業は拡大していくので、新規顧客の獲得っていうのは必須の要件なんです。ただKPIの設定をする時にどうしても広告で何人取れたか?みたいな、そんな話に注力してしまうことが多いのです。そうすると効率が上がった、下がっただけで、事業規模に直結する人数に対する投資っていう意識なんですかね、効率が悪くなったから広告出稿止めましょうっていう発想になってしまったりするんですね。

 

 プレイヤーは増える。しかし日本の人口は減少していく

――新規獲得だけではビジネスが成長しないことには、どんな環境の変化が関係しているんでしょう?

岡野
ダイレクトビジネスに参入するプレイヤーが増えていっているというのは間違いなくて。商材とかカテゴリーに限らず参入企業やブランドが多いのですが、日本の人口は右肩で増えているわけではないと。限られたパイの中で生活者から見れば選択肢が増えていっている状況、そんな中で一人勝ちができる状況ではもはやないっていうことです。一人のユーザーが同じような機能の商品を何個も買うなんて、想像がつかないですよね。そういった環境の中でビジネスを成長させていくということを企業は考えなきゃいけない。

 

――岡野さんは企業にダイレクトビジネスの提案を続けていらっしゃいますが、課題を感じるケースってどんなケースですか?

岡野
これが、各社さんで結構、共通してるんですけど、一度自社の商品を購入してくれたお客さんは ずっと買い続けてくれるという錯覚をしてしまう企業が多いんです。
お客さんは選ぶ権利というか探す権利を持っているので、別にその商品を買い続ける理由がないんですよね。それでも、うちの商品はいい商品だから買い続けるだろうっていう。1回買ってもらったらほっといてもまた買うだろうっていう発想に変わっていく。でもお客様がそもそもなぜその商品を買ったかって言うと、その商品が欲しくて買ったんじゃなくて、自分で持ってるその悩みとか課題を解決したくて買ったはずなんです。続けることよりも課題が解決することが大事なんです。その悩みの解決への道筋をつけずに、ただただ商品を送り続けていたり、CRMという顔をしたプロモーションを続けているだけ、ということが起きているっていうのが、すごい課題だなと。

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――そういうことが起こってしまう背景に、企業が「気がついていない」ことがあるのでしょうか? 

岡野
やっぱり自分の商品は優れた良い商品だっていう思いをお持ちなんですね。それは悪い商品ではないと思いますけれど、他の会社も良い商品を出しているわけです。そこに目が向いてないですね。それは、ほんの些細なことかもしれないです。粒が小さくて飲みやすいとか、いろんな差があってきちんと飲み続ける。化粧品だったら化粧品使い続けるっていう。そういうふうに選ばれる企業っていうのはちょっとした違いがある。機能価値とよく言いますが、機能(成分や配合量など)だけを見て、うちの商品の方が優れているからお客さんは満足しているだろう、買い続けるだろうって心のどこかで思ってらっしゃる企業が多いのではと思います。

 

新規獲得の活動とCRM活動は分断されがち?

 ――先ほどもお話に出ましたが、新規獲得とCRM活動を別々に捉えている企業は多いのでしょうか?

岡野
おそらくですが…多いと思います。これは企業の組織上の問題もあると思うんです。広告出稿をメインとする新規獲得は広告部が担当し、CRMとなると、いわゆる販促活動という定義がされて販促担当の部署に回される。そうなると最初にお話ししたように、CRM=「モノを売る活動」になっていくんです。CRMイコール何%オフのキャンペーンという情報提供をしてしまう。もちろん、新規獲得とCRM活動を横断で見ているブランドマネージャー的な人がいるという企業もあります。

 

――どんなターゲットを獲得したいのか、買い続けていただくためにはどんな情報を提供すべきか、双方の活動が紐づいていないといけないと。

岡野
僕のところにもCRMだけの提案依頼は多いですね。 ですから、僕がCRMのプログラムの提案依頼を受けたときは「このプログラムはこういうターゲット向けです」という、獲得すべきターゲットまで一緒に提案するようにしています。買い続けてくれているお客さんはこういう人だからこのプログラムはどうですか、っていう感じで。そうじゃないと 何のための誰のためのCRMというか、CRMの目的があまり見えないというか、着地しにくいですよね。

 

――新規獲得に比重が大きくなると、事業全体に影響はないのでしょうか?

岡野
新規で獲得したお客さまが何に困っているのかとか、誰のどんな課題を解決したいのかっていうところはスルーされたまま、今なら安く買えますよという感じで商品を売りつけるっていうようなことが往々にして起きるわけです。
広告で規制ギリギリの表現でお客さんを安く多く取れれば売り上げが一瞬上がるんです。ナショナルクライアントになれば広告費の規模が大きいので、 1年後のことを考えずとも、とりあえず新規だけ取れれば売り上げが上がり続けるので、事業の中の弱点が見えていないっていうことが起こってきます。
でも、例えば膝の痛みに良いという機能の商品であれば、その商品を買ってみたけれど膝の痛みがなくならなければ、もう買い続けないですよね。どこかで獲得効率がガタッと悪くなった時、一旦広告を止めようという判断が出て、初めて利益が出ていないことに気づく。新規獲得だけに目を向けていて、2回目3回目の継続に繋がっていなかった。1年後ふと振り返った時には何も残ってなかったっていうことが、今いろんな企業で起こっている。

 いかに継続していただくか、という視点で事業を見ることが大切

――新規獲得だけでなく継続率を考えなければいけなかった、ということでしょうか?

岡野
セールスのあり方の問題もあって。新規のお客様には是が非でも定期購入してもらうことで安心してしまうということですね。ほんの10数年前ぐらいまではプレイヤーの数が限られていたっていうこともあって、それが成り立っていたこともあるんですね。その成功体験が強いほど、今のコモディティ化した市場の中でも、同じようなことを繰り返してしまうのかなと思います。レッドオーシャンな市場であるのにも関わらず、です。事業を評価する方が過去に成功体験があるなら尚更です。安く取れるならOKという評価基準は、新規獲得の活動をCPAを追いかけるデジタル領域にシフトさせてきました。レビューしてみると分かるのですが、デジタルで獲得できたお客さまがどこに興味喚起されたのかというと、会社名 、割引などのオファー、あとは機能価値である何々が改善という3つの切り口しか獲得に繋がっていないことに後で気づく。これだけですと、PDCAは回しにくいのです。


――「広告効率」だけが、KPIではないように思えますね。

岡野
指標が「広告で何人取れた」しかないっていうことが課題ですね。新規獲得の広告の効率を KPI にしている限り、やることがキッチフレーズを変えたら?とか、CTA ボタンを大きくしたら?という作業をやり続けることになりがちです。「いかにリピートしてもらえるか」に注力しないといけない。そこに気づく企業もあり、1回目購入されたお客様のCPO、2回目買ってくれたお客様のCPO、3回目買ってくれたお客様のCPOなどの基準で投資効果を評価し始めている。そうなると2回目、3回目に継続する人を増やさないといけないよねってことにも気付けるのではと思います。ダイレクトビジネスには広告効率だけではなく、継続率というKPIを持つべきでは?ということですね。お客さんとどうやって繋がり続けていくかというCRM施策にもっと知恵を絞るべきなんです。


――大広は、これまで多くの企業のダイレクトビジネスを支援しています。これからのダイレクトビジネスをどう支援されていきますか?

岡野
これまではダイレクトビジネスといえば、健康食品や化粧品など通信販売を想像するかと思います。でもどうでしょう、今は通信キャリアや旅行、金融や投資においてもDX化が進み、お客様はすべて直接企業とやりとりする世の中になっていますよね。そうなると世の中のビジネスの中心はダイレクトビジネス。そこでは企業とお客様とのつながりをどうやって作っていくかが大事になってきます。ここに、昔ながらの通販ビジネスの経験値っていうのは必ず活きてくると思っています。
大広には通販ビジネスに向き合ってきた歴史があり、「このタイミングでこれぐらいのお客さんが残っていて欲しい」「このタイミングならこれぐらいのお客さんの数とか〇%数値がないとダメだよね」という、一定のノーム値を持っていて、その基準値を持って、施策の良し悪しが判断できること、それが大広の強みだと思います。ダイレクトビジネスを考えている企業に対して、私たちのケイパビリティとサポート体制を広くアピールしていきたいと考えています。

まとめ

■新規獲得だけを目指すのではなく、継続率を高めることが、ダイレクトビジネスの成長のカギを握る

■お客様は商品そのものではなく、自分の課題を解決したいという思いで購入するので、その思いに寄り添う情報提供が必要 

■CRM活動は顧客育成のためのものであり、単なる売上拡大のためのプロモーションではない 

■新規獲得とCRM活動は別々のものではなく、一貫したストーリーでつながっているべき

この記事の著者

COCAMPダイレクトマーケティング部

(株)大広が培ってきたダイレクト・マーケティングの知見やノウハウを発信するチーム。 通販の初期から今に至るまで、変化する時代と顧客を見続けてきた第一線のプロデューサーやスタッフをメンバーに、ダイレクトビジネスの問題や課題を、顧客価値の視点から解いていきます。