若年層を中心に着実にニーズを広げている「ネット証券」。新旧様々な企業が参入し、顧客獲得のパワーゲームが繰り広げられています。そこでは、どのようなコミュニケーションが有効なのでしょうか。今回は、大和コネクト証券のCM制作事例をご紹介します。調査・分析を通してどのような気づきが生まれたのか。ダイレクトマーケティングの知見がどのように活かされたのか――。提案した大広チーム・佐々木氏にプロジェクトについてお話しいただき、三上氏に総括いただきました。
<インタビュイー>
佐々木 稔
株式会社 大広 東京ビジネスデザイン本部 第5ビジネスデザイン局 シニアビジネスデザイナー
1997年大広入社。商品開発、ブランドコミュニケ―ション、事業コミュニケーションを数多く手掛ける。クライアント企業のダイレクト型新規事業立上げへのプロデューサーとしての参画やクライアント企業マーケセクションへの出向も歴任。
三上 智也
株式会社 大広 東京ビジネスデザイン本部 副本部長
1991年大広入社。商品開発、B2Bブランド戦略立案などの経験を経て1998年からはダイレクトマーケティング事業会社の事業およびマーケティングパートナーとして複数の事業会社の成長支援を数多く手掛ける。また、大広のシンクタンクである大広ダイレクトマーケティング総合研究所を創立しプリンシパルを歴任。
広がりを見せる「ネット証券」分野。ダイレクト発想を活かす!
――いま、ネット証券の分野は様々な動きが活発ですね。
佐々木
新NISAやiDeCoなどの誕生で、若年層を含めて新たに投資を始める人が増えました。ネット証券分野では、今のところ楽天証券とSBI証券が大きなシェアを持っていますが、手数料無料化やポイント付与などのインセンティブ合戦が繰り広げられています。
――そんな中で競合プレゼンに臨んだのですね。
佐々木
はい。大和コネクト証券様からのオリエンでは、企業認知を高め、検索数をアップさせるCM制作が我々のミッションでした。ただ、既に楽天証券とSBI証券という圧倒的な存在があり、その他プレイヤーも積極的に獲得活動を展開している、いわゆるレッドオーシャン化している市場において、同じ土俵で戦うことにあまりメリットはないのではないか、それより、「大和コネクト証券様にとって有望な潜在顧客」にフォーカスしてアプローチする方が有効だと考えました。また、フォーカス戦略のためには、大広が磨いてきた「顧客価値」洞察からバックキャストで組み立てていく、ダイレクト発想のアプローチが活きるのではないか、と考えました。
――プレゼンに先立って調査をされたのですよね。
佐々木
はい。「有望な潜在顧客」にアプローチするためには、大和コネクト証券様がどのような顧客に支持されているのか、顧客は、他社とどのように差別化して大和コネクト証券様を選んでいるのか、といった、「顧客像」「既存顧客が認めている価値」をきちんと知る必要があります。そこで、大和コネクト証券様の顧客と、他のネット証券の顧客、投資をしていない人、合わせて約800人を対象にしたインターネット調査を実施しました。
既存ユーザーからの逆算で見出した、LTVにつながるペルソナ
――どのような分析結果が得られたのですか。
佐々木
特徴的だったのは、大和コネクト証券様の顧客には、投資のプロセスそのものを楽しんでいる人が多い、ということでした。大きな投資をして一時的な利益を得たいというより、長期にわたってコツコツ投資をしつつ、そのプロセスや、そこから知識を得られることに喜びを感じている。楽しいから投資を続けている、という顧客像が読み解けたのです。
――それが、プロテインとヨーグルト、というたとえにつながったのですね。
佐々木
はい。筋肉をつけること――つまり「利益という結果」を目的に摂るプロテインが競合他社だとすると、大和コネクト証券様は、毎日おいしく楽しんで摂りながら健康できれいになれるヨーグルト、ということです。「投資が楽しく続く習慣になること」が大和コネクト証券様の価値だ、と、顧客の方たちは考えている。長いおつきあいが期待できる方たちが多いと分析しました。
(資料)既存ユーザーが見出している価値の洞察
――そのような顧客像に対して、どのような訴求が有効だと考えたのですか。
佐々木
大和コネクト証券なら、初めてでも始めやすく、安心して楽しみながら投資を続けられる、ということを訴求すべきだと考えました。お客様と長くお付き合いをし、投資を通してお客様の暮らしをより豊かで楽しいものにする、それが大和コネクト証券だ――そうした考えをご提案のベースとしました。
ダイレクトマーケティングの知見が裏付ける企画力
――CMでは、フレーズやダンスが印象的でした。
佐々木
はい。本件課題を踏まえ、クリエイティブチームも、ブランドコミュニケーションとダイレクトコミュニケーション、両方の知見を掛け合わせてアプローチできる、新しいチームをアサインしました。CM表現では、大和コネクト証券様で投資をするメリットを、潜在顧客の背中を押すワード「コツコツと、ラクラクと。(コツコツ、ラクラク。)」とともに展開しました。表現にはいくつかの方向がありましたが、TikTokクリエイターでモデルの女性に出演いただき、このフレーズを組み合わせたダンスで訴求しました。
――CMとは別に、提案時につくったコンセプトムービーが大変好評だったいうことですが…
佐々木
大和コネクト証券様が顧客にとってどういう企業であるべきか、その目指すところを短いムービーで表現したのですが、大和コネクト証券の皆様に、企業としての立ち位置や事業の意義を再確認できた、と言っていただきました。ご提案が終わってから、この「コツコツ、ラクラク。」というワードを軸に事業を検証してみよう、と、社長がおっしゃったとのことで、私たちのご提案がCM表現の枠を超えたところで評価いただけたのだと思っています。
コンセプトムービーのイメージ
――CM制作だけではない、スケールの大きな話になってきました。
佐々木
はい。正直言うと、クリエイティブのアイディアだけでご提案を進めた場合、我々は選ばれなかったかもしれません。けれど、我々が考えていたのは、顧客のインサイトを理解し、顧客にとっての価値とは何かを考え、とことん顧客に向き合うことでよい関係を築いて長期的な事業成長につなげることでした。これは、ダイレクトマーケティングの基本姿勢といってもいいと思います。ダイレクトマーケティングの分野で長い経験と多くの蓄積がある大広らしいご提案だったし、顧客洞察を、しっかりとクリエイティブに落とし込めたからこそ、より深い部分でご評価いただけたと思っています。
ダイレクトマーケティング手法に適する金融
――今後について、どのように展望しておられますか。
佐々木
現在、出稿したCMの分析などを行っていて、その中にはもちろん反省点も見えてきますので、それを修正しながら次の戦略を練っているところです。顧客獲得が重要なミッションであることに変わりはありませんが、その先の、つながったお客様とどうコミュニケートしていくのか、大和コネクト証券様のファンになって長いお付き合いをしていただくにはどうすればよいか、ということを並行して考えておく必要があります。クライアント様と一緒に、その土台づくりをしていきたいですね。
――大広のダイレクトマーケティング的なアプローチは、ネット証券の分野でも有効だったということですね。
佐々木
金融というのは、お客様と直接つながり、お客様のお金を預かって運用するという点で、実はダイレクト型の本質を持ったビジネスだと思います。その意味で、これまで大広が培ってきたダイレクトマーケティングのノウハウが活かせる余地が十分にある。今後も大和コネクト証券様のビジネスに伴走し、事業成長のお手伝いができればと考えています。
――ありがとうございました。
【コラム】多様な業界に広がるダイレクトマーケティングの新潮流
三上 智也
ダイレクトマーケティングは、これまで、健康食品や化粧品など一部の分野で有効な手法とされてきました。しかし、今や、すべてのマーケティングは「ダイレクト的」になってきていると考えています。
ダイレクトマーケティングでは、文字通り、お客様に直接モノやサービスを売るわけですから、お客様一人ひとりとどうやって向き合うか、ということが重要になります。「売って終わり」ではなく、お客様のことを真摯に考えてものづくりをし、満足いただくことで長いお付き合いをし、LTVを向上させることを重視する。我々大広が提言しているフルファネル(認知からロイヤル顧客の育成までの全体の設計)を見据えた事業展開ですが、その重要性はどの分野の企業にもあてはまるのではないでしょうか。実際、自動車産業でもECサイトで直販する動きが出てきていますが、幅広い業界で、既存のビジネスモデル自体が「ダイレクト的」な方向に変わりつつあると考えたほうがいいと思います。
金融も、証券にせよ保険にせよ、お客様と1 to 1で向き合う営業マンによって事業を展開してきたという意味では、ダイレクトマーケティング的な業界だと思います。これまでは、どうしてもアクイジション(新規顧客獲得)を最重要の事業課題としがちでしたが、これからは、お客様をいかに長くサポートできるか、というところに視点を変えていく必要があると思います。今回の大和コネクト証券様はネット証券ですから、従来のように営業マンが販売するわけではありませんが、お客様との接点をできるだけエンゲージの高いものにすることが重要な課題であることに変わりはありません。ダイレクトマーケティング的な発想で顧客価値体験を全設計するというところが今回のご提案であり、その部分を評価いただいたのだと考えています。
まとめ
「CM制作」のオファーに対して、事業全体の理想像を描いた提案を実施した今回の事例。その背景には、大広が蓄積してきたダイレクトマーケティングの知見がありました。既存の顧客像からのバックキャスティングで、あるべき企業像、事業の方向性を導き出すダイレクトマーケティングの発想が、これからの金融分野のコミュニケーションを変えていきそうです。
最後まで、お読みいただきありがとうございました。大広COCAMPでは、これからもダイレクトマーケティング・D2C事業に関するコラムを掲載してまいります。まだメルマガ未登録の方は、これを機会にぜひ、下記よりご登録ください。
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