顧客の動向や志向が劇的に変化している昨今、D2Cビジネスの存在感がますます高まっています。顧客とダイレクトに結びつく現場では一体何が起きているのでしょうか。これまでのビジネスと異なる部分は一体どこにあるのでしょうか。D2Cとは、企業が商品やサービスを直接販売することですが、その販売形態を論じているだけでは意味はありません。生活者である顧客との関係性に注目し、なぜ、顧客がそのD2C企業を選んでいるのかをしっかりと理解する必要があります。
顧客が買いたくなるための要素とは
大広では、D2Cクリエイティブチームを立ち上げ、デザイン・制作物などのクリエイティブにとどまらず、事業構想からブランド戦略・顧客体験構築までのD2Cビジネスの全フェーズに必要なクリエイティビティーの提供をめざしています。そのために、D2Cビジネスで成功されている企業の事例を研究し、「顧客が購入し、購入し続けたくなるにはどんな要素が必要であるのか」を、“PRAC”というオリジナル・フレームワークにて収集・分析しています。“PRAC”の概要は下記をご覧ください。
①“P”urpose Driven「創業者の熱量伝達」(創業ストーリー・こだわりについて)
②“R”eproposal「顧客や社会への再提案性」(言われてみれば確かにそうかも、という提案性があるか)
③“A”gility 「圧倒的速度の改善」(顧客の声を受けた商品やブランドなどの改善があるか)
④“CX”Contents 「商品周辺の顧客体験」(顧客と繋がり続ける体験づくりがあるか)
顧客満足のためにできること
今回、第一回目にご紹介するのは、滋賀県にある乳幼児用の離乳食をオンラインで販売する会社「はたけのみかた」様。代表取締役の武村様は学生時代に起業し、今年で9年目。この企業で実施されているケースは、これからビジネスを始めようとしている企業、駆け出しの企業様のビジネスモデルの参考にしていただけるのではないかと私たちは考えています。D2Cクリエイティブが考えた“PRAC”のフレームワークを使って、はたけのみかた様では何を実施しているのか、顧客の価値をどのように考えて、顧客満足のためにどう取り組んでいるかを紹介したいと思います。
PRACから読みとく企業のあり方
取材を行った「はたけのみかた」様は、アレルギーの特定原材料を使わず、また添加物不使用で「野菜の味をそのまま残す」をコンセプトに、ベビーフードをオンラインで提供している会社です。
①“P”urpose driven(創業のストーリー、こだわりがあるか)
社長の武村さんが創業した当時、流通していたベビーフードは忙しいお母さんが後ろめたさを感じながらも仕方なく使う、という種類のものだったそうです。また、地元の滋賀県では、有機野菜を作っている農家さんがたくさんいるにも関わらず、せっかく作った野菜が虫に食われたり、商品として販売できないという理由で破棄されたりしていることを知り、この問題を解決したいという思いを持ったそうです。そこで、野菜を使ったヘルシーなベビーフードを提供し、お母さんたちにもっとポジティブな気持ちでベビーフードを使ってもらいたいという思いが募り、創業へ至ったということです。
②“R”eproposal(ベビーフードの再提案)
「はたけのみかた」様が販売するベビーフードは、これまでになかったコンセプトで作られているのが特徴的です。
「野菜そのままの味を赤ちゃんにも食べてもらいたいたくて、味付けはほとんどしていません」と社長。野菜は有機農家さんと直接やりとりするため、自然災害や動物による被害、通年同じ野菜を取り扱うことが難しいなどたくさんの問題もあります。しかし、大手のように大量の野菜を保存することが難しく、採れたての野菜しか利用できないことを逆手にとって、収穫できた旬の野菜だけを商品にすることで、ベビーフードでも四季の味を提供できるようになったといいます。そこで、他の企業ではやっていなかった「野菜の味をそのまま活かす」商品が生まれました。赤ちゃんに食べてもらうものなので、農家さんとは綿密なやり取りを行い、品質、安全性を第一にしたいという思いで、今でも野菜は手作業でカットするなどしているそうです。
③“A”gility(顧客の声をうけて改善した点について)
商品の開発や改良は地道な努力の積み重ねの上に成り立っています。創業当時は、農家さんのところへ通って畑作業を手伝い、自身が生まれた産婦人科を訪れ栄養士の方を紹介してもらい勉強をしたそう。
「レトルトにする方法は専門家の方の意見を直接聞きに行って開発に役立てました」と社長。お母さんたちを集めて行った試食会では
「子どもがこんなにベビーフードを食べてくれたのは初めて」
「赤ちゃんでも食べ物の違いが分かって驚いた」
「ベビーフードが優しい気持ちであげられるようになった」
「初めて安心できるベビーフードと出会えた」
など、利用者から直接意見を聞く機会を何度も持ち、その度に課題を解決、商品の開発を行っていったということです。
④“CX”Contents (顧客と繋がり続ける体験づくりについて)
商品を販売してからも顧客の声を大切にしているといいます。オンラインでの販売が中心ですが、積極的にマルシェなどでも販売。思いを伝えながら販売することもでき、顧客から「実はここが使いにくい」「もっとこうだったらいいのに」という直接の感想を聞くことができるのが、改良につながっているといいます。他にもベビー服のお店やスーパーの一角など、自ら選んだ場所でブース販売するなど、大量に販売することが難しいからこそこだわりの場所で直接販売を行っているそうです。
まとめ
いかがでしょうか。“PRAC”というフレームワークに従って、4つの角度から「はたけのみかた」様の事業活動を紹介しましたが、どこに顧客から支持される成功のポイントがあるのかが、とても明確に浮かび上がってきます。
今回「はたけのみかた」様の取材を通して得た知見は、これからビジネスを始めようとしている企業、新しいことを始めようとしている企業様にとってヒントに富んだモデルになると考えています。
D2Cクリエイティブチームでは、この“PRAC”を活用しながら、自社で商品を展開・販売を企画している企業様の新たな顧客価値の創造にむけた提案に生かそうと、これからも多様な活動を進めていきます。さらなる知見獲得のため、第二回以降も様々な企業様にインタビューを行い、このサイトにてご紹介していく予定です。どうぞご期待ください。
この記事の著者
松田 恵美子
株式会社 大広
ブランデッドダイレクト局 コピーライター