エリアマーケティング と聞くと折込チラシやポスティングDMなどを思い浮かべる人も多いのでは。エリアマーケティングの様々な施策を裏側で支えるデータには、「土地」が持っているエリアデータから「人」が持っている行動データまで、実に多種多様なものがあります。これらを駆使すれば、エリアマーケティングに革新的な進化が望めます。そのためにはデータ利活用のうえでどんなクリエイティビティが必要とされるのでしょうか。
そこで、エリアマーケティングが抱える様々な課題に向き合っている澤田設計事務所の澤田氏を迎えて、「いま、そこにいる人」をリアルタイムで理解する行動データ活用の事例を含め、独自のデータマネジメントによるサービスについて2回にわたって解説してもらいます。
街並みを眺めると、需要が見えてくる?「土地」や「人」が持っているデータのポテンシャルとは。
――ひとことでエリアデータの活用といっても、どんな活用事例があるのでしょう?
エリアマーケティングに活用する主なデータには「土地」が持っているエリアデータと、「人」が持っているエリアデータの2つがあります。「土地」が持っているエリアデータはこれまでも利活用が進んできました。
需要発掘の事例で言うと、例えば、国交省のオープンデータ。かつて全国各地にニュータウンと呼ばれたエリアがあります。造成からすでに30数年を経て、すでに住宅ローンが終わっているご家庭も多いこのエリアでは、リフォームや火災保険の見直し需要が多いことがわかります。あるいは自動車検査登録情報、いわゆる車検データからは居住エリアによる自動車保険見直しや買い替えの需要が見えてきます。ニュータウンの事例もそうですが、面白いのは「街並み」それどれには個性のようなものがあって、そこから需要の傾向がわかるんです。
「人」が持っているエリアデータの事例だと、検索クエリでエリアごとの需要を把握することも可能です。検索クエリが「ニーズ」だとして一番含有率の高い郵便番号を追いかけることもできます。
国交省データの活用(例)
※住宅リフォーム、家電品販売など販促プロモーションに活用
自検協データの活用(例)
※自動車販売、自動車保険販売など販促プロモーションに活用
しかしながら「土地」や「人」が持っているデータをマーケティングに活用するには、様々な課題・障壁があって、必ずしも使い勝手が良いとは言えませんでした。
幅広いマーケティング活用が困難だったエリアデータを、より使い勝手の良いものにして提供したい。
エリアマーケティングにおけるデータ活用の障壁
――「土地」や「人」が持っているデータの利活用の課題・障壁とはどのようなことですか?
データ活用には、どれだけたくさんのデータを捕捉できるかという「量」の問題があります。データ分析はデータを「ためる〜みる〜つかう」ということを繰り返していくわけですが、その「ためる」ことそのものに時間と工数が生じます。膨大であることは一見良いことのように聞こえますが、実は使いにくさも生じます。時間と工数が増えるとコストが増加しますよね。次に「ためた」データの活用範疇をどう設定するか。データを絞ると活用できる範疇は狭くなりますし、逆に広げると範疇も広くなりますが、それだけコストも高額になっていく。そうなるとやはり使い勝手が良いとは言えません。
行動データの分析観点で言うと、行動データと掛け合わせてみるエリアデータの「粒度」がそれぞれ異なることも障壁と言えるでしょうか。冒頭でも申し上げた通りエリアデータには都道府県単位のものや市町村単位のもの、また町丁目単位や点である緯度経度データに至るまで様々な粒度のデータが存在するため、全てを合わせて使おうと思っても使いきれないケースが多いのです。
――そんな課題や障壁を乗り越えて、より使い勝手の良いエリアデータとして提供するための指針はどんなことでしょうか?
我々はデータマネジメントをもっと「シンプル」に、そして「カジュアル」なものにして提供していきたいと考えています。エリアデータの分析にはどのデータ粒度に合わせるかが大きなポイントになってきます。
データを最大限に活用できる粒度をどこに置くか、その設計が問われています。時間や工数を削減し、柔軟なコストで対応できる使いやすいデータマネジメントが、いま企業など得意先で求められていると考えています。
リアルタイムで「いまそこにいる人」を捕捉するために。行動データがエリアマーケティングを変える。
――エリアマーケティングに活用される「行動データ」にはどのようなものがあるのでしょうか?また利活用におけるポイントがあれば教えてください。
「人」が持っているデータには個人が持っているデータと行動データがありますが、今回着目してお話するのはこの行動データです。行動データの取得には所有するスマートフォンのGPS、Wi-Fi、そしてその端末を感知する物理機器としてのビーコン、大きく言うと3つの方法があります。それぞれ取得しているデータの種類が異なります。
行動データ活用において大切なことは、目的に合わせたデータを取得し活用することです。例えばビーコンの場合は、端末個体が「今どこにいるか」を近距離で精緻に判別できるのですが、広告で活用する場合には基本的に連携しているアプリが必要になります。プッシュ通知や広告に活用できるデータ量がなかなか十分にとれないという課題もあります。GPSは広告としては比較的活用しやすいのですが、連携しているネットワークによっては捕捉率が低下したり、ビルのどの階にいるのかなど高さを捕捉することは困難です。
行動データそれぞれに特徴があるため、どんな目的のためにどのデータをどのように活用するかが重要になります。
このような課題を踏まえ、行動データ利活用のパートナーとして、チョークデジタル社とアライアンスを組むことにしました。
――今回アライアンスを組むチョークデジタル社ですが、具体的にはどんなところが魅力だったのでしょうか?
私たちがチョークデジタル社に興味を持った理由が3つあります。
1つ目はデータ捕捉率が高いことです。これは、彼らの技術力の高さを物語ることですが、ピンポイントのエリアでも多くのデータを保有していることです。
2つ目としてはエリア設定する際に、地点・場所・範囲などデータの設定範囲がフレキシブルにできること。クライアントによってデータの使い方は違いますから柔軟に対応できることは重要です。最後、
3つ目は、我々が持つデータとの掛け合わせ分析が可能であること。こちら側から提供したデータを組み込んで対応いただけないサービスも多数ある中、我々の強みであるデータの活用設計、他データとの組み合わせが可能でより深い顧客理解に繋げられるか、この点は今回のパートナー選定の重要なポイントでした。
――掛け合わせ分析する上で、特に魅力に感じることはありますか?
今回のサービス連携の起点となったもう1つのテーマは「リアルタイム性」です。位置情報を必要としているアプリの中でも路線情報、地点情報の天気、エリアニュースなど通常起動しているアプリにアプローチしやすく、かつメジャーなアプリにアプローチできることです。前述した通りチョークデジタル社はデータ捕捉率が高く多くのデータを保有しているため、これが可能になります。
「折込」など既存のエリアマーケティングだけでは限界を感じる。そんな企業を行動データでサポートしていきたい。
――現在、エリアマーケティング施策として新聞折込チラシを実施されている企業も多いと思います。行動データが新聞折込を補完するとすれば、どんなことになるでしょう?
既存の新聞折込チラシにも課題と言えることがいくつかあります。それは、
- ターゲティングとメディア特性が合っていない。
- エリア指定が販売店に依存するため固定される。
- どのエリアからの反応なのか不明なことが多くPDCAを回しにくい。
行動データを活用することで、エリアごとのポテンシャルや反応を把握できます。即時性、リアルタイム性が求められる課題にも柔軟に対応できるようになります。様々な企業様からのお問い合わせをいただいていますが、私たちを活用いただきたいポイントは大きく6つあると考えています。
- エリア指定の自由度:規定の枠組みに捉われない自由な設定
- 到達単価:折込の1/3以下
- 発注単位の柔軟性:どんな小さなエリアからも実施可能
- 到達ターゲット:コアターゲットに合わせた年代へのアプローチが可能
※新聞折込だと高年齢層に偏り、ポスティングだとALLでセグメントが不可 - CRの自由度:限られて紙面展開だけではなく動画や幅広い情報提供が可能
- PDCAが可能:今までの施策ではできなかったエリア別ポテンシャルを可視化
――プロモーション施策の相談も多いと聞きました。具体的にどんな課題を抱えている企業からの問い合わせが多いですか?
現在実施されているエリアプロモーションで、狙っているターゲットへのコミュニケーションのフィット性が低い場合や、施策の投資効果に疑問を感じているなどの課題を抱えている企業様からの問い合わせをいただきます。
エリアアプローチだと規定のエリアデータ区分(都道府県・市町村・郵便番号など)とクライアントサイドで活用したいエリア区分が違ったりするケースなどがあります。クライアントサイドでは、「自社が設定している商圏区分」であったり、「学校の校区」で設定したかったり、「電車の沿線で区分」したかったりなど使用したいエリアデータの区分は様々です。例えば、幼児学習サービスを提供する企業が教室のある「校区」での設定を希望されていたり、店舗サービスをされている企業が「今、〇〇駅〜〇〇駅の間で電車に乗っている人」を希望されるケースもあります。
また、特定行動をとっているターゲットを捕捉してアプローチしたい場合、捕捉できるデータ量が少なくて困っていらっしゃる企業のお手伝いをするケースもあります。
色々なニーズが企業ごとにありますが、ご提案の際には「施策すべてを見直しませんか」ということではなく、「まずは小さくトライアルしてみましょう」とご提案するケースが多いです。現状のプランニングに私たちのサービスを組み込んでもらい、潜在顧客がどのエリアに多いのかを理解していただくことで現状のクリエイティブやメディアプランニングの精度を高めていくことにつながると考えています。
次回、エリアマーケティングの常識を覆す、データマネジメント最前線〈第2回〉顧客理解の深化へ続きます。
この記事の著者
澤田 善郎
(株)澤田設計事務所 代表取締役社長
2001年 ダイレクトマーケティングビジネスに携わる ※ダイレクトマーケティング総合研究所を兼務
2013年 DMPを中心としたプラットフォームビジネスに従事
2015年 カスタマーマネージメント局CRMグループ部長
2016年 プロデュース局にてインターナルも含めたトータル戦略設計
2018年 株式会社 澤田設計事務所設立。代表取締役社長に就任。