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2024.10.11

グローバルで機能する顧客価値〈第3回〉「ライブコマースの実情は?」「KOLはもう古い?」、中国デジタルマーケティングの今を現地マーケターに聞く

ライブコマースを行う女性たち

「顧客が企業や製品に賛同する」理由である「顧客価値」が、マーケティングやブランディングの成否に重要な意味を持ちます。この顧客価値は、顧客を深く理解する営みから見いだされるもので、日本国内に限らず、世界中のあらゆる場所で機能します。

「国や文化、言語を超え、顧客からの賛同を得るためには?」という大きな問いに対して、解決のキーとなる「顧客価値」。その具体的な発掘、実行、効果検証について、この連載コラムでは順を追って話していきたいと思います。

第三回は、ライブコマースやSNSマーケティングなど、変化のスピードの速い中国市場におけるデジタルを中心とした施策について、現地マーケターにその実情を語ってもらいました。

[インタビュイー]

naokihasegawa長谷川 直紀 
大広上海数字科技分公司 副社長
神戸大学大学院経営学研究科現代経営学専攻(MBA)修了。 大広ではストラテジックプランニング職として、製薬会社、食品企業などの製品ブランディング、インフラ企業や大学法人のコーポレートコミュニケーションを支援。直近では、顧客価値を起点とした事業育成支援、データドリブンマーケティングサポートを行う。 経営学視点での広く深い分析とフットワークの軽さが強み。

 

Si Jing Wen​斯 婧雯(Si Jing Wen)
大広(中国)広告有限公司上海分公司 高級企画経理(IMC Planner)
10以上広告経験、8年以上ブランディング/メディア/イベントプランナー経験を持つ。日系ブランドだけではなく、欧米系やローカル系ブランドも多く担当しており、中国市場の異なるターゲット層に対して強い認識を持っている。また、中国消費者の一員として、中国ソーシャルメディア及びマーケティング環境に詳しく、自分自身の経験や周りの人からインサイトを掘り出し、IMC施策を作成するのが強み。

 

--第1回「現地駐在マーケターが見る中国デジタル化のリアル」で、スマートフォンが生活のツールとして浸透しているという話がありました。中国ではいわゆる「デジタル・デバイド」のような情報“格差”はないのでしょうか?

 長谷川
私は中国に来て2年以上経つのですが、体感として世代格差はなく、若者からお年寄りまで老若男女がデジタルデバイスを使いこなしています。街中を見てみると、若者はもちろん、お年寄りまで、アプリでタクシーを手配し、QRコードでシェアサイクルを借りて移動。アプリで生鮮食品を注文し、30分で自宅まで配送してもらい、エンタメに関してもSNSでショート動画を楽しんでいます。

 

--みながスマートフォンを使いこなしている中で、世代間で使い方の違いや特徴はありますか?


世代によって使っているアプリが違いますね。中国のお年寄りが使っているスマホは中国ブランドのもので、すでにいろいろなアプリがインストールされています。お年寄りはアプリを自分でインストールするよりは、プリインストールされていたアプリを使っている人が多いです。

ショートビデオなら私たち世代は抖音(TikTok)を使いますが、親世代は百度(Baidu)をよく使うなど、サービスレベルでも違いはありますね。

 

--長谷川さんは、中国での購買行動とその特徴について「徹底確認主義」という表現をしていましたね。なぜ、中国では徹底的に調べて納得したうえで買うという購買行動がとられるのでしょうか?

長谷川
日本との環境の違いでいうと、情報量の多さがあると思います。中国にはデジタル上で豊富な情報があるので、彼らはそれをうまく活用しています。例えば、ECの購買プラットフォームにはたくさんのレビューが書かれてあるし、各種ソーシャルメディアでもその商品やサービスの評判というものが出ています。そして、それらを日常生活で使用しているアプリの中で調べることができるという環境が整っているのです。


もちろん商品によっても購買へのスタンスは異なります。電化製品のような“失敗したくないもの”を買う時にはいろいろなレビューを確認して間違いのない選択をするという徹底確認主義が当てはまる一方で、商品によっては「衝動買い」をしないわけではありません。

例えば、中国では「ライブコマース」での購買が一般的ですが、ここでは衝動買いが起こりやすい環境があります。

 

なぜ中国でライブコマースが一気に普及したのか?

--中国でのマーケティングで今や「ライブコマース」は外せない重要なワードですね。ライブコマースについて、詳しく聞かせてください。


一般的にライブコマースは、SNSなどのライブ配信の中で物やサービスを売る販売スタイルを指します。中国ではSNS上で影響力を持つ人をKOLKey Opinion Leader)と呼びます。日本でいうインフルエンサーに近いイメージを持っていただければよいです。オンラインで好きなKOLの配信を楽しんでいる中で商品を勧められると自然と購入してしまう、というのがライブコマースの大きな特徴です。

中国では、コロナ禍での「おうち時間」を消費するコンテンツとしてライブコマースは一気に普及しました。ライブコマース自体は少し前からあったのですが、コロナで外出できなくなって持て余した暇をオンライン上でつぶしている中で、淘宝(Taobao)がライブコマースを強く押し出したことで広く普及しました。

私自身もそうだったのですが、番組でMCを務めるKOLが話している内容が面白いと楽しんでいる中で商品が紹介され、それを良いなと感じて、いつの間にか物を買っていた、という体験でした。

長谷川
ライブコマースはスマホで映像を見て気になった商品をカートに入れて購入するという形ですが、これ自体は、日本のテレビショッピングと構造としては同じです。有名人など信頼できる人が商品をおすすめしてくれて、さらに今だけ価格が割り引かれて安い、という状況が作られていて、衝動買いが誘発されるという構造です。

ただ、日本のテレビショッピングだと「物を売ろう」というスタンスで商品が勧められて購入に至りますが、中国のライブコマースの場合、KOLの面白いビデオコンテンツを視聴していたら、たまたま良いものを紹介してくれて気になったので買ったという、エンターテインメントの中に自然な形でショッピング体験が入っているという状態が作られているという違いはあるかもしれません。

 

定着したライブコマース、その利点は顧客への「リーチ力」にある

--コロナ禍で普及したライブコマースですが、コロナが明けて以降も定着しているのでしょうか?


MCを務めるKOLのファンになった人が多くいるので、ライブコマース自体はしっかりと定着しています。ライブコマースのMCがアイドルや芸能人のような存在になったと言えばわかりやすいでしょうか。

長谷川
人が物を売るライブコマースには、販売力のある有力なKOLがたくさんいます。代表的なのが「口紅王子」の異名を持つ李佳琦(リ・ジャーチ)さんです。その人が紹介すると商品が爆発的に売れる、というようなKOLがたくさんいるのです。


先ほど、日本に比べて中国ではアクセスできる情報量が多いという話がありましたが、実は、中国では有名企業のブランドの広告が多すぎて、なかなか生活者に届けにくいという実態があります。また、情報はエリアごとに出し分けられているので、例えば上海からは北京の商品が見えにくい、などの地域による壁もあります。

これに対してライブコマースの場合、しっかりと商品を生活者に届けられるという点で優れていますし、KOLという人が起点なので地域差も大きな問題にはならないメリットがあるのです。

 

「KOL」はもう古い?重要性を増す「KOC」とは?

--デジタルの話の続きで、SNSの利用状況についても教えてください。中国ではKOLによるSNSマーケティングが日本以上に進んでいるという印象です。インフルエンサーによるマーケティングについて、詳しく教えてください。


Pinterestのような存在の小紅書(レッドブック)というSNSが中国では有名で、KOLを使う施策もこのプラットフォームで行われています。しかし、近年は費用面でなかなかKOLを活用しづらくなっているという状況があります。限られた予算だと「KOLをたった10人しか使えない」というように、コスト効率の観点で難しくなっています。

この問題を解消するために、KOCKey Opinion Consumer)にもしっかりと活躍してもらおうというのが、中国におけるSNSマーケティングのトレンドです。

長谷川
KOLを活用することはもちろん重要なのですが、それだけでなくKOCを活用することが近年は重要性を増しています。

フォロワー数が数百万人いるようなKOLに対して、KOCを構成するのはごく普通の人たちです。KOCにインセンティブを与えて拡散してもらいSNS上でのプレゼンスを確保することが、今の中国におけるSNSマーケティングでは欠かせない施策です。

 

--いわば”普通の人たち”であるKOCに「インセンティブ」を与えて拡散を狙うということですが、ここでのインセンティブとはどのようなものなのですか?


KOCへのインセンティブは、(KOLのように)投稿の対価として謝礼を支払うというようなものではありません。対価として配信してもらうのではなく、発信したくなるような“仕掛け”を取り入れて、自然に投稿してもらうことを狙います。この仕掛けそのものがインセンティブといえるかもしれません。

発信したくなるような仕掛けとは、例えば、これまでにないサンプリング施策であったり、新規性の高いイベントなどです。「こんな新しいサンプリングがあるよ」「こんなイベントをやっているよ」とこぞってSNSに投稿します。彼ら彼女たちにとって、投稿できる旬なネタとしての体験を提供することが、KOCにとってのインセンティブというわけです。

長谷川
重要なポイントは、KOCにとって投稿することが自分のフォロワー、ファンを増やすことにつながる、という点にあると思います。KOCが多くのフォロワーを獲得できるような話題づくりをすること、体験装置を作ってあげることが、KOCの自発的な投稿と拡散につながると考えています。

 

--最後に、中国市場でマーケティングを行う上でのポイントを教えてください。

長谷川
今回はデジタル施策を中心に話をしましたが、オフラインイベントとKOCの連動施策によって、オフラインで話題を作ってオンラインへと拡散させていくというのは、中国らしいコミュニケーションだと感じます。

面白い企画を立て、それをどのように拡散させて、購買行動につなげるか、あるいは認知やイメージの獲得につなげるのかという、一連のコミュニケーションを全体的に設計し実行することが重要です。

また、中国でマーケティングに携わっていて感じることは、生活者の関心の移り変わりの速さ、つまりは市場の変化の速さです。ライブコマースのような購買スタイルが一気に普及した様子からは、中国市場のダイナミックな動きがよくわかります。

そういう意味では、顧客のインサイトを探索し、それをもとに戦略・戦術を立て実行していく、という点でコミュニケーション設計自体に日本との大きな違いはないとはいえ、市場のスピード感に対応して常に最新の情報をキャッチアップし、施策を実施していくことが、中国でのマーケティングにおいては重要だと思います。

 

--本日は、ありがとうございました。

この記事の著者

COCAMP編集室

「ビジネスは、顧客価値でおもしろくなる」をコンセプトに、ビジネスにおける旬のキーワードや課題をテーマに情報発信しています。企業の大切な資産である「顧客」にとっての価値を起点に、社会への視点もとり入れた、事業やブランド活動の研究とコンテンツの開発に努めています。