一緒につくろう、顧客価値のビジネス。

お役立ち資料 相談する
お役立ち資料 相談する

2024.09.24

アジアのマーケティング事情 ~日本企業が進出する時に気をつけたいポイント~

アジアマーケティング

日本企業がアジアへ進出する時、現地のマーケティングはどのような戦略を取っているのか、アジアの人口特性は何か等、台湾に駐在経験のある大広グローバルビジネス本部 山室匡史氏にお話を伺いました。

アジアでの「新興富裕層」とは? 
「新興富裕層」へのアプローチをそのメディア行動から紐解く

昨今、東南アジアでマーケティングを行うにあたり意識すべきターゲットは、消費の牽引役となりつつある「新興富裕層」と定義される人達だ。中間層から一歩踏み出し、より豊かな生活を目指して努力を続ける人々のことを指し、博報堂生活総合研究所アセアンの調査(※)では、新興富裕層の月収をタイであれば日本円で約27万~62万円(平均月収約11万円)、インドネシアは約24万~38万円(平均月収約2.9万円)と定めた。

そもそも、東・東南アジアにおいては相続税がほぼゼロパーセントに等しい。つまり、お金持ちは何世代にも渡り一生お金持ちで、その逆も言えるということなのだ。そのため、日経企業が東・東南アジアへ進出するにあたって、これらの層以上にアプローチする必要がある。

 しかし、彼らのメディア行動としては、「高い情報収集能力」と、集めた情報の周囲への「お裾分け」が得意な傾向がある。それゆえ、消費財を販売するにあたって、いかに製品に対しての信頼を醸成するかが重要であり、芸能人やKOLKey Opinion Leaderによる口コミや、各種有名メディアとの連携、またFacebookECモール上でもコメントがあれば即レスすることなど、当たり前のような誠実さが重要になってくるのである。

アジアではオールドメディアがチャンス!?
エリアマーケティングの可能性とメディア戦略

上記の貧富の差の話は、エリアマーケティングにも繋がってくる。日本と違い東南アジアでは富裕層と非富裕層では住む場所はもとより生活圏も異なってくる。

私がバンコクに住んでいて驚いたのは、ある高級ホテルに少し褐色の肌の方が入られた際に、周りの方がジロジロと見ており、最終的には警備員に止められていたのを思い出す(タイでは肌が白いことがハイステータスの要素だったりする)。これは人間関係にも言えることで、富裕層と中間層以下が行動を共にすることはあまりないのだ。

一方でこれは我々広告会社にとってはチャンスでもあって、「新興富裕層」以上の方がいるエリアは限定されるため、OOHやポップアップストアの出店が日本以上に効果があったりする。

また、車が日本の2~3倍の金額となることもあり、中間層以下は所有できないため、意外にもラジオ広告の費用対効果が高かったなどという声も耳にしたりする。

 日本ではタクシー広告は、ITソリューション系のBtoB企業がサラリーマンなどをターゲットに多く出稿している印象だが、台湾ではタクシー料金が85(400)と日本より安いことで一般の方々も多く乗られるため、日用品や健康食品といったBtoC向けの広告も多くみられる。また日本のゲームアプリを中心としたラッピング広告もかなり使われている。

 また、台北市、新北市は、地下鉄やバスなどの公共交通機関網が発達しているため、交通広告も認知媒体として有効だと感じる。地下鉄は毎日200万人近い利用者数がいて月の延べ利用人数は5,800万人になり、またバスも月の延べ利用人数は4,500万人ほどになる。

そのため例えば各バス停での展示型広告は高齢層ターゲットをする場合には、待ち時間に長時間接触できることで有効と考える。

「新興富裕層」が生活するエリアが限られている事から、このような交通広告・OOH・ラジオ広告といったオールドメディアの可能性をアジアでプロモーションするにあたって可能性を感じる。

日本ブランド低迷の危機?
アジアにおけるスキンケアの考え方と和食のあり方について


ここ10年以内でバンコクや台湾に住んでいて感じたこととして、残念なことに「日本への憧れ離れ」を痛感する。コスメであれば圧倒的に韓国だし、健康食品でも自国の安い商品の購入が多いと感じる。日本で売れているからといって、東・東南アジアで売れるという考え方はもう古いと感じる。各国に応じたローカライズ化が重要で、例えば意外なことに、タイではスキンケア商品の色も重要と聞いた。

肌が白いというのがハイステータスの証である中で、スキンケア製品自体の色が肌に浸透してしまうと考える方も少なくないため、黄色や橙色などの製品は嫌厭されやすく、透明や白色の商品の方が万人受けしやすい。 スキンケアでは、肌の色に敏感なアジアエリアにおいて、日本ブランドの信頼性は薄く感じるが、和食については可能性を感じる。

画像2

バンコクで大人気のバミー(ラーメン)屋さん 160バーツ(250)から

日本特有の四季の移り変わりによる食の変化や、和食の味の繊細さ、出し汁の文化等はアジアでは高く評価されていると感じている。バンコクの日用雑貨店では、日本のいちごが日本円の約3倍以上の値段で販売されている光景を目にした。

日本からアジアへ進出するためのメディア戦略とは
先行進出社優位となるアジア市場で成功するには


ベトナムで成功したのは某日系食品企業が成功したのは、そもそもインスタント麺がベトナムにまだ無かったのが要因と言われているが、このような先行者メリットがないと現状ただ進出するだけで拡大していくのは厳しいと感じる。最小限の予算でテストマーケをしようという考え方に限界が来ていており、ある程度企業としての覚悟と予算を持ってやらないと厳しいし、絶対に成功させてやるという担当者の熱意も重要である。

日本企業のプロモーションのやり方も海外の企業とは異なっていて、海外初進出の日系企業はリスクを最小とすべくFacebookGoogleなどのWeb広告のみを実施し、全然売れなかったといって1年以内に撤退という企業がかなり多いと感じる。

それに対して韓国の化粧品企業は最初から年間数千万円ほどのタレントや著名人を立てて、TVCMPRイベントを大々的に行い、一気に認知を取っていく。こうした企業が競合としている中で、最小限のプロモーションでは限界があると感じる。

その様な中で、タイではリアルのイベントの費用対効果がよかった。簡易的なポップアップストアを立て、5~6人のレセプタントを雇い、1~2gのスキンケアのサンプリングでLINE登録を促すプロモーションを行ったが、日本人とは比較にならないぐらい簡単に登録をしてくれた。

 これまでの経験では、LINE登録や個人情報開示へのハードルが低い傾向があるため、まずはリストを集めて、そこから11のコミュニケーションでうまく回していくことが重要と思う。11のコミュニケーションも重要だし、流通で棚を取ることも重要。その為、TVCMで認知を高めることも重要だし、口コミも重要ということで、総合的なコミュニケーションが重要になる。

 
一方、台湾の方は健康食品に関して慎重なところが多い。広告に接触してからGoogleの検索結果やFacebookの口コミ投稿を調べる方が多いため、事前にブロガーやKOCに記事を投稿してもらうことが重要である。また、競合商品と含有されている成分量を比較したりするため、成分表をHPLP(ランディングページ)中に組み込んでいるケースも多く目にする。

 その様なエリア特性がある事から、健康食品については信頼性の担保が必要であると感じる。TVPRという手法があり、バラエティー番組内で芸能人が4~5分商品を紹介するようなプロモーション手法が信頼性の担保にはかなり効率的である。TVに対しての信頼性は他国に比べて高い調査結果があるが、一方で台湾の約6割の世帯が契約しているケーブルテレビは150ほどのチャンネルがあるため、視聴率は0.1%あれば良い方といったチャンネルもある。

 そのためTVで接触出来るユーザーには限界があり、リーチを最大化するためには、台湾で9割の方が使用しているFacebookへの2次利用展開を行うことで効果を最大化できる。こちらのTVPRの展開によっては、ECはもちろん、ドラッグストアなどの店舗販売やmomoshopeeといったECモール販売も大幅に伸びる傾向にある。

 また、台湾において自社ECサイトで商品を購入すると、箱に商品が入っているだけで、パンフレットや商品紹介などの紙物が入っていることはほとんどない。だからこそ、結構日本式のウェットなコミュニケーションツールが意外に効果的だったりする。化粧品や健康食品においては日本の読み物系LPが比較的受け入れやすい傾向がある。そのため、台湾で成功した場合、香港やマレーシア、シンガポールなどの可処分所得の高い華僑の方々にプロモーションを行っていくというのが比較的有効だったりする。

※ https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/110927

 

まとめ

日本からアジアへ、進出をするにあたってターゲットと設定するには、「新興富裕層」へのアプローチを考えるのが良いのではないかと考える。ある一定ボリュームはあり、そのターゲットの生活圏内を絞ることができる事からエリアマーケティングの可能性を感じる。

しかし、日本ブランドの低迷を感じる昨今、日本=信頼性のような付加価値は付けられないように思う。そうした中で、アジア進出を目論む際に考えがちなのは、予算を最小限にとどめ、Webでの集客を獲得しようとする考え方は危険だと考える。

覚悟を持って予算を投下し、棚を取ることも大切である。またそれだけではなく、1 to 1のコミュニケーションも大切で、そこで信頼性を獲得する必要もあるため、戦略的に攻める姿勢が大切になってくると感じる。

この記事の著者

山室匡史

上智大学理工学部物質生命理工学科卒業の後、 新卒で(株)アイレップ(現 Hakuhodo DY ONE)に入社。 その後(株)デジタルガレージにてタイに駐在し、化粧品輸入販売事業に従事した後、2020年(株)大広に入社。 グローバルビジネス本部にて日系企業の海外進出支援・海外ECデジタルマーケティング支援業務を担当。 2022年より駐在員として台湾に赴任し、メディア、デジタル、SNS、イベントなど事業会社の広告戦略、商品戦略立案を支援。 2024年6月に日本へ帰任し、引き続き同業務を継続中。