人びとの健康意識の高まりとともに、健康食品・サプリメント市場では新商品が次々と登場しています。競合商品が多くても“売れる商品”であるためにはどうすればいいのでしょう。そのポイントは、「顧客価値の変化」を見抜くこと。
人生100年時代のいま、顧客が何を考え、何を好み、どんな理想を持つようになったのか?これを正しく読み取れれば、新規顧客の獲得はもちろん、既存顧客を手放さないアプローチも可能です。
このコラムでは、20年以上にわたり健康食品・サプリメントのビジネスに関わってきた(株)大広の知見をもとに、顧客価値の変化を知るためのヒントを紹介します。
これまでの主流は、カラダや年齢に伴う“悩みを改善”するアプローチ
かつては、健康食品・サプリメントの広告で効果・効能を直接的にアピールすることは許されませんでした。たとえば、膝の痛みを改善するサプリメントなら、「立つ・座るが気になる方に」というような表現にとどめざるを得ませんでした。健康食品やサプリメントは薬ではないので、当然といえば当然です。
そんな中、2015年に「機能性表示食品制度」が施行され、消費者庁に届け出をすれば効果・効能を直接的に表現することができるようになりました。(もちろん安全性・機能性に関する科学的な根拠が必要です)
それ以降、カラダの悩みを具体的に改善することを謳った広告表現がどんどん増えていきました。
利用者の立場になって考えてみても、
- 膝の痛みを改善する○○サプリ
- 記憶力を維持する□□サプリ
- 血流を改善する△△サプリ
…というように、カラダの悩みにマッチした具体的な効果・効能をアピールする商品はわかりやすく、購買意欲をかきたてられます。売り上げにつながりやすい悩み改善型のアプローチはこれまでの健康食品・サプリメント広告の主流であり、これからもその重要度は変わらないでしょう。
ところが近年、時代の変化に伴い、新たな流れが生まれ始めています。
近年増加している、気持ちを前向きにさせるポジティブ・アプローチ
これまで健康食品・サプリメントにおける広告表現の基本は、悩みを改善するアプローチでした。しかし、この手法だけで市場を拡大するのには限界が来ている可能性があります。
実はここ10年ほど、健康食品・サプリメントの利用者は増加しておらず、ずっと横ばいの状態が続いているのです。
人びとの健康に対する意識が高まっているのにも関わらず、およそ10年間、健康食品やサプリメントの利用者が増えていないというのは驚きです。
その原因の1つとして、ジムでのトレーニングや健康系アプリといった健康対策の手段が増えていることが考えられます。従来なら健康食品・サプリメントを買っていた費用を、新しい健康対策に振り替えているのかもしれません。
つまり、悩み改善型アプローチで獲得できる顧客層だけで、これ以上の市場拡大をめざすのは難しく、しかもこの市場は競合も多いのでますますレッドオーシャン化していきます。そうした中、新たな顧客を獲得するためにはどんなアプローチが有効なのでしょうか?
その手法のひとつとして近年増加しつつあるのが、消費者の気持ちを前向きにさせる「ポジティブ・アプローチ」というものです。
たとえば加齢に対応する商品を売りたい場合。ポジティブ・アプローチでは、年をとることを“良いこと、楽しみなこと”ととらえて勇気づけたり、3年後、5年後の理想状態を提示したりして前向きな気持ちに導き、商品を買いたい気持ちにさせていきます。
具体的な表現例を下記に挙げてみましょう。
こうしたポジティブ・アプローチは以前から存在しましたが、人生100年時代がリアルに迫ってきたいま、新たな市場で新規顧客を獲得するためのアプローチ法として注目されつつあります。
新規顧客獲得の“カギ”はシニア世代。
いまの60代70代は「まだまだ現役」という認識を持っている
前述の通り、健康食品・サプリメント市場は約10年にわたって利用者が増えておらず頭打ちの状態。また、新しい健康対策商品やサービスが次々と登場していて、とりわけ50代以下の若い世代は目新しさからそちらへ流れがちです。では今後、健康食品・サプリメント市場で新規顧客を獲得するためにはどんな戦略が必要となってくるのでしょうか?
カギとなるのは60代以上の“シニア世代”です。
とはいえ、従来通りの悩み改善型アプローチだけでは、シニア世代の新規顧客獲得は難しい…。なぜなら人生100年時代を生きる60代70代の意識は、一昔前とは大きく変わってしまっているからです。これからは、新しいシニア世代の顧客価値をいかにとらえるかがとても大切になってくるでしょう。
まず理解しておくべきなのが、60代のうち6割の人は、自分をシニアだとは思っていないという事実です。
調査結果
「“シニア”と呼ばれて自分のことだと感じる」割合は、年々減少し50代は12.6%しかいない。
シニアと呼ばれて自分のことだと感じる ※博報堂「新しい大人文化研究所」調べ
https://hakuhodo-seniorbussiness.com/pdf/p03/shin_otona_report_no29.pdf
調査の場でも、「70代はシニアじゃない」「シニアは80代以上」と言う60代の人が多くいました。
また、70歳まで働くことが努力義務とされていますが、現在働いている60代の内、実に9割が「70代でも働きたい」と考えていることもわかっています。
何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいか(就業状況別、性・年齢順) ※内閣府調べ
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/zenbun/s1_3_1_2.html
人生100年時代を生きる60代70代は、「自分たちはシニアではない」「まだまだ現役だ」という認識でいるのです。
こうした新しいシニア世代の顧客価値を理解したうえで、どんな商品開発や広告表現をすればよいかを考えることが成功への近道となるでしょう。
シニア世代の顧客価値の変化や心理を読み、買いたくなるアプローチを!
健康食品・サプリメント市場からみた60代70代の意識や状況を簡単にまとめると、
- リタイアがない、ずっと現役でいたい
- 一社会人として働くうえで、元気で居続けたい
- プライベートも楽しみたいから元気で居続けたい
- 人生100年をどう過ごすか、何にお金を使うか考えたい
- 将来の健康の変化にも備えたい
- 医学の進歩によりシニアでも脳やカラダを鍛えられるようになってきた
人生100年時代がリアルになってきたいま、シニア世代にとっては「今痛いところを改善したい」だけでなく、「〇年後も元気でいるために先手を打ちたい」というニーズも増えてきていると考えられます。
だからこそ、従来の悩みを改善するアプローチに加え、気持ちを前向きにさせるポジティブ・アプローチの両方を使い分ける広告表現が有効だといえます。
また、人間の心理として、健康食品・サプリメントは長期的に飲み続けることで理想状態に近づけると頭ではわかっていても、いざ数千円払って購入するとなると短期的な効果も欲しくなるものです。
そこで、広告においては、長期的なメリット(将来の理想の提示)と、短期的なメリット(効果・効能)をあわせて訴求することも欠かせません。
下記は、1つの商品で複数のアプローチをする場合の例です。
こうした複数のアプローチを、たとえば
- マス媒体では……
ポジティブ・アプローチで理想を提示する - ウェブなど具体的な刈り取りの場では……
悩み改善型のアプローチで効果・効能を伝える
というように、売り方に合わせた使い分けを考えてみてください。
簡単に言えば、多方向から次々とシニア世代に働きかけ、「コレ買わなきゃ」という気持ちへと導いていくイメージです。
いずれにせよ、こうした新規顧客獲得のために何よりも重要なのは、シニア世代の顧客価値をいかに読み取り、分析し、それが時代とともにどう変化していくのかをつかむことです。
まとめ
人生100年時代に拓かれていく市場は、まだ誰も正解を知らない、まさに新しいマーケティングが必要なフィールドです。
攻略のポイントは、顧客の価値を正しく深堀りした上で、広告の表現開発を行うこと。さらに、顧客の変化や体験における価値の変化が速くなっているいま、これらの対応をよりスピード感をもって実践できれば、未知のフィールドでも速やかなビジネス拡大をめざせることは間違いないでしょう。