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2025.02.17

持続的なビジネス成長に欠かせない真の「顧客との対話」とは? <下總良則×鬼木美和 対談>

人びとを取り巻く環境がどんどん変化しつつある現代、ただ顧客の声に応えているだけでは他との差別化が難しくなってきています。新商品を、新事業を、経営を、どんな風に展開していけばいいのかわからない。そんな悩みを抱える経営者やビジネスパーソンも少なくありません。
メソッドはいろいろありますが、さまざまな問題を解決する主軸はやはり「顧客との対話」。とはいえ、いまの時代に合った「顧客との対話」とはどんなものなのでしょうか?
著書「インサイトブースト」で話題を集める下總良則氏と、深層対話に基づく顧客体験の設計思想「Deep Dialogue デザイン」を提唱する株式会社大広の鬼木美和氏にお聞きしました。

【インタビュイー】

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下總 良則
(一社)デザイン経営研究所 代表理事/アートディレクター/デザイナー/東北工業大学 准教授
多摩美術大学を卒業後、プラス株式会社にて商品企画・プロダクトデザイナーとして従事。その後、株式会社ホットファッジにてグラフィックデザイナーの経験を経てusadesignとして独立。フリーランスデザイナーとして、広告代理店ビーコンコミュニケーションズや、介護福祉業界のネクストユニコーンであった株式会社ウェルモなどスタートアップ企業にジョイン。デザイナーとして活動しながら、親を頼れない子どもを支援する一般社団法人RACの理事として経営にも参画し「デザインと経営学」をテーマに活動を広げる。グロービス経営大学院卒MBA取得。この他、グラフィックデザイン国際コンペGraphis Design Award 2023にて金賞を受賞し、ロゴ部門単独で世界第2位、日本からのエントリーのなかでは第1位を得る。著書に「インサイトブースト 経営戦略の効果を底上げするブランドデザインの基本」

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鬼木 美和
(株)大広 取締役執行役員/ブランディング・ディレクター 
九州大学 文学部 心理学専攻を卒業後、株式会社 大広に入社。食品企業・日用品企業のAEチームで従事したのち、マーケティング局で「企業ブランディング」の専門チームを発足。以降10年間、ブランド人格の考え方をもとに、多数の企業のブランドコミュニケーションをサポート。その後も、企業意志の可視化(=企業ビジョン・ブランド開発)から、企業への期待づくり活動の推進(=企業コミュニケーション開発)、その期待に応える新たな価値づくり(=事業開発・育成)までを、統合的に手掛け続けている。著書に「ファンを集められる会社だけが知っている『ブランド人格』」(時事通信社)がある。

なぜ、今、「顧客との対話」が重要なのか?

COCAMP編集室
ビジネスを成功させるには顧客との対話が大事だといわれていますが、実は昔から顧客を無視してビジネスをしていたわけではないですよね。なのに、なぜいまあらためて顧客と向き合うことが重視されているのか、今回の対談で明らかにできたらと思っています。

まずは、下總さんには「インサイトブースト」、鬼木さんには大広の「顧客価値」について、それらが提唱された背景について、それぞれお聞きします。下總さんは『インサイトブースト』という手法で顧客との対話を大切にされていますが、この考え方に辿り着いたきっかけはあるのでしょうか。

※インサイトブースト:ブランディングを成功させるために欠かせない「無意識のインサイト」をつかみ取った上で、本質的な問題解決のためにアイデア展開する理論

 下總
ちょっと長くなりますが、私は秋田から出てきて多摩美術大学に進み、卒業後はメーカーで5年ほどプロダクトデザイナーとして働きました。その後、グラフィックに転向し、デザイン事務所を経て独立しましたが、その頃に大学や専門学校でデザインを教える仕事も始め、もう15年くらいやっているんです。

これまでに多くの教え子たちが世の中に出て行ったんですが、卒業後に私のところに悩みの相談に来るケースが結構あって。聞いてみると、デザインのことはわかるけれど、マーケティングや経営がわからない、と。実は、彼らの悩みは私がインハウスデザイナーだったときに感じていた悩みと同じで、これは、デザインの先生が経営を学んで教えないと、未来のデザイナーたちが不幸になると、そう思ったんですよね。

下總良則

 下總
たとえば、依頼元から依頼が来てデザイン提案をするのですが、依頼する側も受ける側も目指す方向がわかっていないから、デザイン案が方向性を探るだけのものになってしまうことって多々あります。デザイナーが夜通し頑張って4案、5案と制作しても、「方向性が全然違う」といわれることもあり、あんなに頑張ったのになぜ報われないんだろうとなる。この時、そもそもこの制作で何処を目指すべきかを、仕事を依頼する側も受ける側もちゃんと理解できていれば、結果は異なるんじゃないかと思ったんです。

依頼元のトップが、なぜ自分がそうしたいのかを明確にわかっていない場合もありますよね。もしもその時、デザイナー側が「依頼元は何をしたいのか」を正確に理解できたならば、あとはそれを実現するための方法論、アプローチの仕方を考えればいいんです。我々デザイナーが求められていることは何なのかをちゃんと明確にするために相手と対話をしよう。それがインサイトブーストの始まりですね。

COCAMP編集室
大広は顧客価値をもう10年くらい言い続けていますが。

鬼木
大広は広告会社なので、そもそも得意先のビジネスを成長させることで自分たちも成長する、という生業です。昔からお客様と直接つながる通販やダイレクトモデルを持つ得意先が多かったこともあり、お客様との関係を一度の〈売った・買った〉の単発で終わらせず、その先もずっと仲良くしていく必要がありました。通販やダイレクトモデルはそういう永く続くお客様をたくさん抱えていないと事業成長できないですから。

お客様と持続的に良い関係を築いていくにはどうしたらいいかというと相手のことを知る以外にないんですよ。人と人が仲良くなるのと一緒です。商品が気に入ったかどうかだけじゃなく、これを使って何したいの?どんな暮らし・どんな人生を送りたいの?というところまで、こちら側が知って理解しようという気がないと永く付き合ってもらえない。そういう考えが私たち大広の提唱する「顧客価値」の土台にあると思うんです。

プロダクトの差別化だけでは信頼も生まれない現代だからこそ、企業側も想いをさらけ出して、一緒に何かやりましょうって呼びかけないと賛同もしてもらえない。だから、結局顧客と何度も何度も対話するしかない。それが、大広が「顧客との対話」に行きついたゆえんだと思います。

COCAMP編集室
実際のビジネスで考えると、「顧客って一体誰なの?」って思うことがあります。たとえば、大広にとっての顧客は企業なのか?それとも、その企業を通した先にあるお客様が顧客なのか?みたいな。

鬼木
広告会社がマスメディアの枠を売る、企業がそれを買うという関係性だった時代は、顧客=企業でした。だけどいまは、得意先の通販やダイレクト事業の次の展開を預かる立ち位置になることも増えてきています。私たちと企業は対峙した関係じゃなくて、同じ方向に向かって伴走しているイメージなんです。ですから、「顧客とは?」と聞かれたら、私たちは得意先のお客様を発想するのが今の当たり前になってきていますね。

鬼木美和

COCAMP編集室
なるほど。とはいえ、話を聞く相手は商品を買ってくれているお客様だけじゃないんですよね。

鬼木
もちろんです。なぜ大広は「顧客」という言葉にこだわってるのか?「消費者」や「生活者」と何が違うの?ってよく聞かれるんですけれど。私たちは、企業や団体との関係性のなかで人をとらえているんです。たとえば、同じ人でも商品やサービスを買う行動から見ると消費者だし、日々の暮らしという視点で見ると生活者です。でも私たちは企業や団体との関係性のなかで人をとらえているから「顧客」と呼んでいる。企業との関係がすでにできあがった購買の関係でなくても、それを前提にして見れば、見込み客や潜在顧客も顧客になります。

COCAMP編集室
なるほど。さきほどの下總さんの話だと、インサイトブーストは企業のトップの意思を聞きにいくことのようでしたが、大広の対話の対象には経営者などは入らないのでしょうか?

鬼木
入りますよ。企業側の声も聞きます。そもそも顧客価値というのは、顧客の声だけを聞いて顧客満足を高めるのではなく、企業がやりたいことを叶えつつ顧客の満足にも応え、さらに社会も良くする、「三方良し」の価値なんですよ。企業が何をもって何を成したいかはすごく大事なことだから、それを深く知るための対話ですね。

「顧客との対話」、誰に聴くか、どう聴くか

COCAMP編集室
下總さんのインサイトブーストでは、デプスインタビューという手法をとっていらっしゃいます。従来のインタビュー調査との違いはあるのでしょうか?

下總
まず前提があるのですが、話を聞き出す手段としてはいろいろあって、私はインサイトブーストですべてを解決できるとは思ってないんです。たとえば、今までやってきたアンケート調査やマーケティングのフレームワークもそれはそれで必要ですし。この問題を解決するときにはこの方法がいいよねと選べたらいいなって思っています。

そんななかで私がインサイトブーストがいいなと思う点は、経営者自身も気付いていない、ご自身の無意識のインサイトを対話しながら一緒に見つけていけるところです。一般的なインタビューや日常会話とは違って、深層対話なんですよね。「そもそもなぜそういう風に思うのですか」という問いから、相手に「どうして自分はそんなことを考えたんだろうか」と考えさせて、深く無意識を掘っていく。そうして相手の思考の根源にたどり着けたら、「だから御社は、御社が持つリソースを使ってそれをやりたいんですね」というように、インタビューする側も理解できる。それこそ、さっき鬼木さんがおっしゃった相手と伴走する立ち位置になるために、大事なことなんだと思います。

経営者のめざす方向性が明確になれば、デザイナーやクリエイティブの担当者も、正解を当てに行くようないろいろな切り口を試す案に過剰なリソースを割く必要がなくなります。

COCAMP編集室
インサイトブーストでは、聞く相手は1人だけですか?それともその人に関連した人、たとえば社長に話を聞く場合、従業員や商品を買ってくれる人など立場が違う人たちの声も聞いて、その間のギャップを埋めていく、みたいなこともされていますか?

下總
N=1が基本ですが、どこまでの人に聞くかは、必要だと思う限りで聞けばいいと思います。企業といってもいろいろなフェーズがありますよね。たとえば社長1人に話を聞く場合でも、社長1人だけのスタートアップと、従業員が何百人もいるような大企業とではやはり違います。ステークホルダーの数が全然違うので、この人にはやっぱり聞いておきたいよねって場合は聞く、で良いのではないでしょうか。

COCAMP編集室
大広は顧客と対話する手段をいくつも持っていますが、なぜ複数の手段が必要なんですか?

鬼木
私は、「誰に聞くか?」からすでに戦略だと思っています。「誰に聞くか?」と、「どういう場でどんな聞き方をするか?」、この2つの掛け合わせで対話を進めます。 

下總
おっしゃる通りです。完全に同意ですね。

鬼木
課題によっては、追加で聞かなきゃいけないこともありますよ。たとえば、商品ABのどっちが好きですか?という質問ならアンケートで対応できるけれど、新商品を出したり新事業を始めたりするときの課題は誰もわからない未来のテーマだから、アンケートやインタビューでは答えが出ない。何らかのトラブルをリカバリーする局面とかもそう。それに、スタートアップと100年企業の違いとかもあるし。複数の手段を持っていれば、それぞれに応じた手段を変えられる。

COCAMP編集室
…ということは、もしかすると、インサイトや顧客価値はできるだけ多くの人の声を聞いた方が見えやすいんじゃないですか?深層対話を何百人にもする、そしたら共通項が見えてくるみたいなことがあるように思うんですが。

鬼木
マーケッターのなかには必ず1日に1人のお客様の声を聞く…というのを習慣化している人もいますよ。そういうやり方だったら100日あれば100人の声を累積で聞けますね。ただ、大勢の声を聞くのはいいけど、それよりも大事なのが、声を聞いたときにこちら側がどう反応するか?ということ。その声の一つひとつに振り回されるのか、それとも何か解決したいことのヒントを探るために聞いているのかで、声に対する反応が変わってくる。

COCAMP編集室
顧客価値っていうのは、顧客の声のなかから価値を見つけるというよりは、声のなかで捕まえた何かをきっかけに新たな価値を作っていくことですか?

鬼木
そうです。答えがそこにあって、それを拾うだけじゃないんです。「対話」って言うからには、聞いたらこちら側もその分、発信をしないといけない。で、それに対する答えがまた返ってくるんですね。そのループが大事かなと思っています。そういう意味では顧客価値はナマモノで、それに合わせてビジネスをどんどん進化させるつもりがこちら側にあるかどうかが重要。その覚悟があるなら、100人聞く…みたいなこともありかなと。

下總
多くの人の声を集められたらそれはそれでいいなとは思うのですけれど、企業側が持っているリソースって限られているじゃないですか。あれもこれもはできないなかで、じゃあ何を選ぶ?と判断することが大事となる。つまり、聞きに行くこちら側にも、対話するにあたって「我々は〇〇がしたい」という意思を持つ必要があるなと。そんななかで、いろいろな人の声から見つけたインサイトは、それぞれ帰属先の理由は違うけれども、共通項があったりします。それがキーインサイトの条件で、インサイトブーストのインタビューではそれを意識しながら聞きますね。

COCAMP編集室
大広では深層対話に基づいて顧客体験を設計する手法を「Deep Dialogue デザイン」と呼んでいますが、得意先も含めて対話するんですか?

鬼木
もちろん得意先も対話の輪のなかに入ります。その輪のなかで、顧客と対話し、想いを受け取った以上、企業も何かをそれに対して応える責任があると思っています。

対話のなかでの「アウトプット」の重要性

COCAMP編集室
対話とかインサイトブーストはそうやって企業側の人を巻き込んでいくので、企業側にとっても大きな気づきになるということですね。それが大事なのかもしれません。

鬼木
大広には『Fan Dialogue(ファンダイアログ)』という、ファンと対話するメソッドがあるんですが、この対話のなかに企業の方が入られると、うれしくて涙を流されたりすることも。もちろんいいことばっかりじゃなくて、改善点のヒントをもらうこともあるんですけど、会社の内側にいてモノを作っているだけでは絶対に気付けないことに気付ける。企業の方も知った方がいいと思います。

先ほど対話のなかで得たものに対して企業にはそれにこたえる責任があると言いましたが、たとえば100人に聞き終わるまでこちら側がなにもアウトプットしないのは違うかもしれません。1人に聞いて何かヒントを得たらこちら側も何か発信する。クリエイティブでもなんでもいいから表現する。そんな風にアウトプットしてみたら、また声が返ってくる。これの繰り返しの方がいいんじゃないかと思います。

下總
まさにブランディングが現在進行形である理由に通じますね。

COCAMP編集室
顧客の声を聞いたら何らかのアウトプットするべきということですが、下總さん、クリエティブにおいて、アウトプットは大事ですよね。

下總
デザイナーはじめ、クリエイティブ職の成果そのものですから、すごく大事ですね。ちなみに、経営者が考えている「なぜそれをやるのか?」「どういう方向に行きたいのか?」がわかると、こちら側は答えを探りに行くんじゃなくて、「これですよね」と、目標に近いアウトプットを確度高く出せるようになる。そして、それを提案すると相手も「あ~そうそう、これこれ!」ということが起こります。

対話してきたなかから大事なポイントをつかめると、これをどうアウトプットしたら伝わるだろうかと、デザイナーのリソースをそこに集中できるようになる。精度と確度がともに高く、質の良いクリエイティブができるようになります。

COCAMP編集室
大広の『ミラスト』もアウトプットを生み出していくための手段のような気がするんですけどどうですか?あるべき未来の姿をみんなで決めて、そこからバックキャスティングしていって今何が必要かということをやってるような気がして。

鬼木
ミラストは未来のことを一生懸命研究している人たちと未来について議論して、いろいろな選択肢の声をネットワークしていますね。私はよく企業の人たちと、ミラストのさまざまな情報を使ってワークショップで議論するんですけど、未来に起きそうなことをフラットにずらっと見せてくれる鏡のような役割だなと感じていて。自分の未来、何が変わるだろうかっていうことに想像を飛ばすための道具というか。

COCAMP編集室
ミラストだと、組織の形をこう変えようみたいなアウトプットができるのかなと思いましたが?

鬼木
そうですね。そのアウトプットが何かによると思うんです。新規事業、新商品がアウトプットの場合は、その開発システムがいる。経営のための発信だったら、経営者の言葉がいるしアウトプットの能力がいる。広告コミュニケーションだったら広告会社の力がそこで発揮されるという感じです。

COCAMP編集室
深層対話によって聞き出す、インサイトブーストで聞き出す。これは聞き出される相手にとってもアウトプットの一つになるんでしょうか?うまく発信させてあげるみたいな?

下總
そうですね。なにせ、聞かれている本人も分かっていない深層心理を探っていますから、ポツリポツリとにはなりますが、それでも良いので、自分が考えていることを自分の思考の外に出してもらう。アウトプットの形は何でも良いのですけれど、それを振り返ってみると、ああ、そんなことを自分は思っていたなと、初めて得られる気付きがあります。たとえば、いきなり手描きで正円をきれいに描こうとしても無理じゃないですか。何回も描いていくうちに「ああ、こういう形か!」と輪郭がわかる。そういう声なのだろうなと思いますね。

COCAMP編集室
デザインっていうアウトプットも、本の装丁やポスターのようなものだけじゃなくなってきましたね。

下總
「コトのデザイン」っていう話ですよね。今まではやっぱりデザインっていうと狭義的なアウトプットがイメージされることって多かったのですが、今は経営までデザインできると定義される様になってきて。目に見えない組織のあり方みたいなコトもデザインできるとわかってきました。

ふと、今までお話をしてきて感じたんですが、インサイトブーストは、無意識のインサイトをつかまえたら、次にブーストするフェーズが必要になるんですよ。ここは、デザイン思考が得意としているアイディエーションを使うと、今まで気づけなかったアイデアをたくさんブーストできるようになるので、そんなふうにうまく使うと良いかなと思います。

COCAMP編集室
鬼木さんの著書「ブランド人格」の本にもそんな感じのことを書かれていた気がするんですが?

書籍ファンを集められる会社だけが知っている 「ブランド人格 」表紙

ファンを集められる会社だけが知っている 「ブランド人格」(時事通信社)

鬼木
そうですね。ブランド人格という企業の個性を、それぞれの接点で、さまざまな体験として実感してもらうことが大事。それをどんどん生み出して、またフィードバックをもらってアップデートしていく。この〈対話〉の繰り返しによって初めて“期待”というブランドができていくのだと思います。

下總
まさにブーストですね。 

インサイトブースト・顧客との深層対話の先にあるビジネス

COCAMP編集室
インサイトブーストや顧客との対話によって、企業の何が変わっていくと思われますか?

下總
ものすごくシンプルに考えると、そこに関わる人たちが幸せになるのだと思っています。今までは、作った商品やサービスが売れることだけが正義でした。でも、売れることはうれしいけれど、これが本当にしたかったこと?たとえば、クリエイティブは夜通し複数案考えて翌朝全て没案になるということもこれまで経験してきた視座に立つと、必ずしもみんなが幸せだったとはいえない現実があった。でも、インサイトブーストで進むべき方向がひとつに定まると、関わっているすべての人が活き活きと働けるんだろうなと思うんですよね。依頼元の経営トップも、担当者も、その先のお客様も喜んでくれるし、制作チームだって「いい仕事しようね」というムードになる。なんかそういう幸せの度合いが高まる気がしますよね。

鬼木美和・下總良則対談

鬼木
同じようなことを感じています。大広の言葉で言えば、パーパスで謳っている「想像以上の未来を」ってことなんですけど。得意先企業にとってみれば、ミッションで謳っている「顧客と社会に愛され続けるブランドを共につくる」、つまり自分たちの志に賛同してくれる仲間が増えるということが一番かなと思うんです。社員もそう。顧客もそう。取引先もそう。みんなと会話を重ねて、自分たちがやりたいことをどんどん開示していくから、仲間が増える、持続するっていう。そこが成長につながる。つまり、いい関係が永く続くんです。

下總
これはまさに、インナーブランディングの成果だと思うんです。ブランディングって今までは単に外向きの話ばっかりでしたけど、そうじゃない。企業のなかで一番のファンは誰かといったら社員、スタッフの方々だと思うので、ここに作用して、組織を一枚岩に束ねることができる力があると思いますね。

鬼木
昔と違って、企業の内外の境界線はなくなってると思うんですよね。辞めた人も仲間だみたいな考えもあるし。それで言うと、企業vs顧客っていう対峙した関係じゃないから、仲間を増やせる企業は成功するんじゃないかと思います。それの根っこはやっぱり企業文化というか企業のブランド人格につきます。人と人の関係に近い関係性ですよね。だから対話が大事なんです。

COCAMP編集室
ブランディングって奥深いですね。お二人にとってブランディングってなんですか?

鬼木
いろいろな考え方があると思いますが、私はブランディングは「期待」を創る活動だと定義していて。だから、相手に対してブランド力があるっていうのは、もうすでに期待がある状態。あの会社だったらこういう商品を作るはず、私に対するサービスはこのクオリティであるべきだ、と。それが違っていたらがっかりするんですけど。期待される状態を作っておくことがブランディングだと思います。

下總
そこからさらにつなげて、ブランディングって経営戦略だなぁと。何となくやぼんやりとでは期待は作れないと思うんですよ。しっかりと考えを練って狙うから、期待を作れると言いますか。いろいろな施策を何のためにやるかといったら、期待に応えるため。だから、ブランディングという活動を一言で言うと、経営戦略の一つである気がしますね。

COCAMP編集室
企業ブランドや企業文化みたいなものをもう1回築き直すためにもインサイトブーストやDeep Dialogueデザインのような手段が有効ということですね。とはいえ広告会社はアウトプットのカタチをいろいろ変えていかなきゃいけませんね。広告だけじゃなく。

鬼木
事業をお預かりしてサポートしているので、事業の戦略を変えるという点でもそうだし、組織をもっとアップデートしていったり、一緒に商品やサービスを生み出していったり、いろいろなアウトプットを広げていけるんですよね。

COCAMP編集室
下總さん、とくに広告会社のクリエイティブはデザインやコピーなどのアウトプットばかり特化してやっていたところがありますが、そこから脱出して、アウトプットの振り幅を増やすためにはどうしたらいいですか?

下總
一つ言えるのは、対話っていうキーワードが出ているように、人に興味を持つことが大事だろうなと思っていて。たとえば、ある企業のことを理解したいと考えたとき、その企業のなかにいるのはやっぱり人なんですよね。経営者も人、ステークホルダーも人、大事にしたいと思う方々も人なので、 人に興味を持つと良いのではと。従来のデザインやクリエイティブの枠を越えてやらなきゃいけないことが出てくるなかで、外に答えを求めるのではなくて、自分たちが大事にしたいその中心にいる人は何を思い、何の理由でそう考えているんだろう?と、興味を持つことが大事かなと思いますね。

鬼木
全然違う話なんですけど、私はデザイナーとかクリエイターではないんですけど「デザイン」っていう言葉が大好きで。なぜかというと、デザインの語源は諸説あるなかで「兆しを明らかにする」っていう意味もあると知ったからなんです。未来の兆しだったり、その人の言葉になってない想いとかをつかまえて言葉にしたり、絵にしたり、みんなが分かる形にすることがデザインなのかなぁと思って。組織のデザイン、経営のデザインみたいな意味になると興味がわくというか、私たちの役割がそこにあるなあと感じます。

下總
今のお話を聞いて、私がデザイン業界に憧れたきっかけを思い出しました。カラフルなiMacが出始めた時期だったので、パソコンを使わないデザイン制作もまだあった時代です。完成図を誰もイメージできないなかで、唯一アートディレクターだけが、こういうものができるって言えている。それがすごくかっこいいなと思ったんですよ。

鬼木
今見えてないものを示してあげる。

下總
そうなんです。もしかすると根本的なデザインの役割は変わっていないのかもしれませんね。時代の変化によっていろいろとやらなきゃいけないことが増えたけれども、究極は見えていないものを示すってところなのかなと、ちょっと思いました。

鬼木
大広のDeep Dialogueも、うしろに「デザイン」という言葉をつけてるんです。対話を生かしてデザインするっていうところにはこだわりたい。やっぱり私たちの生業はそこにあるので。

COCAMP編集室
話は変わりますが、いろいろな対話をしようと思ったら、やっぱり知識も大事ですよね?

鬼木
昔は雑学って言ってたものでも、なにが活きるかわからないですね。大学でも学部を越えて横断的にやるのがむしろいいっていう感じになって。多彩な知識を持つ仲間が集まれば力を借りれるから、自分だけでまかわなくてもよくなる。

下總
今の話は、まさにイノベーションですね。既知のもの同士が、今までにない組み合わせで出会うからこそ新しい価値が生まれるっていう。深層対話で、初対面の方と話さなきゃいけないときに、その方の思想の根本は何なんだろう?ということを理解しようと思うと、やっぱり知識も必要です。クリエイティブの垣根を越境して経営者と対話するためには?がまさにですよね。わからないことを学ぶと、そうか、だからこの人はこう考えたのかとわかるというか。だから知識を入れなきゃいけないでしょうね。

鬼木
私もそう思います。将来もしディープダイアログとか対話とかいらないよっていう世の中になっても、じゃあ代わりに何が大事だと思いますか?みたいなキャッチボールができると逆に私も何か学べるかもしれない。

COCAMP編集室
対話というか、話を聞いて話をするっていうのは、僕たちが人間である限りなくならない。

鬼木
今はとても難しいですね、自分のことでもわかってないことたくさんありますし。でも対話する努力をしてみるのが歩み寄りの第一歩な気がする。

COCAMP編集室
AIとかテクノロジーが劇的に進化している、その裏返しで人間中心主義になって、改めて人の気持ちをきちんと組み取ることが大事っていう流れになっているのでしょうか?

下總
書籍「インサイトブースト」にも書いたんですけれども、私の恩師がおっしゃっていた鬼に金棒の話。鬼に金棒とは言わずもがな、強い鬼が金棒を持つとさらにパワフルになるよという意味ですが、テクノロジーがはちゃめちゃに進化していくなかで、金棒を振り回す鬼はどんどんひ弱になっていないだろうか、という。いろいろなテクノロジーの発達は、人がもっと幸せになるために存在しているのに。テクノロジーに振り回されるのではなくて、ちゃんとそれらを扱えるようになりたいですね。

書籍「インサイトブースト」表紙

インサイトブースト -経営戦略の効果を底上げするブランドデザインの基本-株式会社ハガツサ

COCAMP編集室
インサイトブーストやDeep Dialogueデザイン…と聞いても理解しづらかったのですが、お二人の話を伺って、なぜ顧客との対話を重ねることが大事なのかがよくわかりました。

ありがとうございました。


まとめ

  • 対話を通じて企業・経営者の意図を理解することで、デザインやクリエイティブを高精度に提示できる。
  • 顧客との対話は、企業の成長と顧客満足の向上、社会を良くすることを目指す「三方良し」の価値を生む。
  • 対話と「アウトプット」の繰り返しが、顧客価値の創造と企業の成長を促進する。
  • ブランディングは企業の経営戦略の一部であり、顧客からの期待を創り出す活動。対話を活用することで、顧客と企業の関係を深化させられる。

 

最後まで、お読みいただきありがとうございました。大広COCAMPでは、これからも顧客価値・顧客体験開発に関するコラムを掲載してまいります。まだメルマガ未登録の方は、これを機会にぜひ、下記よりご登録ください。

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この記事の著者

COCAMP編集室

「ビジネスは、顧客価値でおもしろくなる」をコンセプトに、ビジネスにおける旬のキーワードや課題をテーマに情報発信しています。企業の大切な資産である「顧客」にとっての価値を起点に、社会への視点もとり入れた、事業やブランド活動の研究とコンテンツの開発に努めています。