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2025.03.13

顧客価値を生み出すための「顧客の本音」の探り方~人は調査でウソをつくかもしれない?

顧客価値を最大化するためには、顧客の真のニーズや感情を理解することが不可欠です。しかし、調査において顧客が表面的な意見を述べることはしばしば見られ、その裏に潜む「顧客の本音」を掴むことは容易ではありません。このコラムでは、「顧客の声」と「顧客の本音」の違いを明確にし、なぜ顧客が調査で真実を語らないのか、その理由を深堀りします。
さらに、企業がより信頼性の高いデータを得るための具体的な手法や成功事例を紹介し、顧客との対話を通じて本質的な価値を生み出すアプローチを提案します。顧客の本音を探る旅に出て、真の顧客価値を創造するための第一歩を踏み出しましょう。

顧客の声と顧客の本音の違いとは?

「顧客の声」は主に顧客が表面的に表現する意見やフィードバックであり、「顧客の本音」はその裏にある深い感情や真実の意見を指します。顧客の本音を理解することは、より効果的なサービス向上や商品開発、ブランドの方向性を定めることに役立ちます。以下にその違いをまとめます。

顧客の声とは?

顧客の声とは、アンケートやレビュー、フィードバックフォームなどで集められる情報で、顧客が表面的に表現する意見やフィードバックのことを指します。アンケートはがきや調査会場、調査サイトなど公的な場での発言が多く、具体的な要望や感謝、改善点などの情報が含まれます。一般的に、顧客が考えている「良い」や「悪い」という評価が中心です。

顧客の本音とは?

顧客の本音とは、顧客が心の中で思っていることや、表には出さない本質的な感情や意見を指します。これには、顧客が他人に対して言わないけれども実際には感じている不満や期待、願望などが含まれています。より深い感情や動機が反映されており、場合によっては無意識のうちに抱いている感情や意見が含まれます。顧客の本音を理解することで、より本質的なニーズや問題点を把握することができます。

人は調査で本当のことを言わないこともある

調査で多くの人は誠実に回答してくれているのです。ですが、さまざまなことに影響されて回答にバイアスがかかることが往々にしてあります。たとえば、人は無意識に期待に応えようとするということがあります。相手に良く思われたいということもあります。嫌われても良いと思える人はなかなかいないものです。

人が調査で本当のことを言わない理由はいくつかありますが、必ずしも全ての人がそうするわけではありません。しかし、以下のような要因が影響することが多いと言われています。

1. 社会的望ましさ

人は、他人にどう思われるかを気にすることがあり、社会的に望ましいとされる回答を選ぶ傾向があります。特に、良い印象を与えたい、あるいは批判を避けたいという気持ちから、実際の意見とは異なる回答をすることがあります。

2. 恥ずかしさや気まずさ

特定の質問(例えば、製品の不満点や使用経験について)に対して、恥ずかしさや気まずさを感じることがあります。このため、顧客は本音を隠したり、曖昧な回答を選んだりすることがあります。

3. 無意識のバイアス

顧客は、自分の意見や感情を無意識に誤解することがあります。特に、複雑な感情や製品に対する複雑な反応がある場合、顧客は自分の本当の意見を正確に表現できないことがあります。

4. 過去の経験

過去のアンケートでの経験や、企業との関わり方によって、顧客は自分の意見があまり重視されないと感じていることがあります。そのため、率直な意見を述べることに対して消極的になることがあります。

5. 不明瞭な質問

質問が不明瞭だったり、選択肢が十分でない場合、顧客は自分の意見を正確に表現できず、結果的に本音とは異なる回答をすることがあります。

6. 忙しさや面倒くささ

アンケートが長すぎたり、面倒だと感じたりする場合、顧客は適当な回答を選ぶことがあります。この場合、本当の意見を反映した回答が得られないことになります。

7. 期待される回答

顧客は、企業が期待する回答を考慮して、あえてその期待に沿った回答をすることがあります。特に、企業のブランドやイメージに対する好意から、ポジティブな回答を選ぶことが多いです。

これらの要因によって、顧客がアンケートで本音を言わないことがあるため、企業や調査者は、適切な質問の設計や、リラックスした環境を提供することで、より率直な意見を引き出す工夫が必要です。

繰り返されてきた調査の失敗事例

企業が調査結果に基づいて誤った判断を下したり、参加者の嘘の回答に騙された具体的な失敗例はいくつか存在します。以下に事例をあげます。

1. マクドナルドの「ヘルシーイメージ」

マクドナルドは、消費者の健康志向の高まりを受けて、サラダやフルーツなどのヘルシーメニューを導入しました。この際、消費者の健康に関する調査を行い、「健康的な選択を重視している」との回答を多く得ました。

実際には、消費者は健康志向を示す一方で、ファーストフードを利用する際には「味」を優先していたため、ヘルシーメニューの売上は期待を下回りました。消費者の回答が社会的に望ましいものであったため、実際の行動と乖離していたことが原因です。

2. 新製品の市場投入に失敗したコカ・コーラ

コカ・コーラは、1985年に「ニュー・コーク」として新しい味のコーラを投入しました。この際、消費者調査を実施し、テイスティングで新しい味を好む消費者が多いとの結果を得ました。

調査ではポジティブな反応を得たものの、実際には消費者は従来のコーラを愛しており、新しい味への移行を受け入れませんでした。最終的に、ニュー・コークは市場から撤退し、従来のレシピに戻すことになりました。この失敗は、消費者が言葉で表現することと実際の行動が異なることを示しています。

3. Netflixの「Qwikster」

Netflixは2011年にストリーミングサービスとDVDレンタルサービスを分けて「Qwikster」として新たに展開することを発表しました。この際、顧客に対して新しいブランドに対する意見を求めました。

調査では一部の顧客からはポジティブな反応があったものの、実際には多くの顧客が両方のサービスを一つのプラットフォームで利用したいと考えていました。結果、「Qwikster」はわずか数週間で撤退し、Netflixは元のモデルに戻りました。

4. Pepsiの「Pepsi Challenge」

Pepsiは「Pepsi Challenge」というテイスティングキャンペーンを実施し、消費者にコカ・コーラとPepsiを blind test(目隠しテスト)で味わってもらい、Pepsiが好まれるという結果を得ました。

しかし、実際の購買行動では多くの消費者がコカ・コーラを選んでおり、テイスティングの結果が必ずしも実際のブランド選択に結びつかないことが明らかになりました。このように、調査結果が実際の市場行動に反映されない例があります。

5. Gapのロゴ変更

2010年、Gapは新しいロゴデザインを発表しました。この変更に先立ち、消費者に対してフィードバックを求める調査を行いました。

調査結果は肯定的であったため、新ロゴを採用しましたが、実際には消費者からの反発が強く、ブランドのアイデンティティを損なったと受け取られました。消費者の声が調査でポジティブだったとしても、実際の反応はそれとは異なり、結果として新ロゴは短期間で廃止され、旧ロゴに戻されました。

6. BlackBerryの特定市場への過剰な依存

BlackBerryは、2000年代初頭にビジネス向けのスマートフォン市場で大きな成功を収めました。彼らは、ビジネスユーザーが常に安全で高性能なデバイスを求めていると考え、調査を実施しました。

調査ではビジネス向け機能が重視されているとの結果を得たものの、消費者のニーズが変化していることを見逃し、iPhoneやAndroidスマートフォンのような多機能で使いやすいデバイスの市場拡大に対抗できませんでした。結果として、BlackBerryは市場シェアを大きく失い、企業としての立場を危うくしました。

7. J.C. Penneyの価格戦略

J.C. Penneyは、2011年に「毎日低価格」を掲げ、クーポンやセールを廃止し、常に低価格を維持する戦略を採用しました。この決定に先立ち、消費者調査を行い、顧客が低価格を好むという結果を得ました。

実際には多くの顧客がセールやクーポンを期待しており、結果として売上が大幅に減少しました。調査結果が消費者の実際の購買行動を反映していなかったため、企業は方向転換を余儀なくされました。

8. Fordの「Edsel」

Fordは1950年代に新しい車「Edsel」を発売するために、消費者の意見を取り入れた調査を実施し、消費者からのフィードバックを基にデザインや機能を決定しました。

しかし、実際には消費者のニーズや市場のトレンドを十分に捉えられず、Edselは発売と同時に不人気となり、大きな赤字を抱える結果となりました。この事例は、消費者の言葉と行動が必ずしも一致しないことを示しています。

これらの企業の失敗例は、調査結果が必ずしも実際の市場行動や消費者の真のニーズを反映していないことを示しています。調査時の質問の設計、環境、消費者の社会的期待などが影響を与えるため、企業は調査結果をより深く考察し、実際の行動や市場動向と照らし合わせることが重要です。

調査結果の背景にある消費者の動機や行動を理解

消費者への調査は企業にとって重要な情報源ですが、調査結果をそのまま信じるのではなく、背景にある動機や行動を理解することが大切です。過去の失敗事例から学ぶことで、企業はより効果的な意思決定ができるようになります。調査結果を補完するために、質的な洞察や実際の行動データを取り入れることで、より信頼性の高い情報を基にした戦略を立てることができるでしょう。以下に、調査結果を活かすために考慮すべきポイントをまとめます。

  • 質的調査の実施
    定量的な調査だけでなく、インタビューやフォーカスグループなどの質的調査を行うことで、消費者の真の感情や動機を理解することができます。消費者がなぜ特定の選択をするのかを探ることで、より深い洞察が得られます。
  • 長期的なトレンドの分析
    一時的なデータに基づいて意思決定を行うのではなく、長期的なトレンドや消費者行動の変化を分析することが重要です。市場の変化に敏感に対応するためには、継続的なデータ収集と分析が必要です。
  • 実際の行動データの活用
    調査結果だけでなく、実際の購入データや利用状況を分析することで、消費者の真のニーズを把握することができます。例えば、オンラインショッピングの履歴や、実店舗での購買データを活用することが考えられます。
  • 仮説検証の実施
    新しい戦略や製品を導入する前に、小規模なテストマーケティングを行い、実際の消費者の反応を観察することが重要です。これにより、より広範な展開前にリスクを軽減できます。
  • フィードバックの積極的な収集
    商品やサービスを提供した後も、消費者からのフィードバックを定期的に収集し、改善に活かすことが重要です。顧客との対話を継続することで、信頼関係を築き、ニーズの変化に対応できます。

ダイアログ(対話)やインサイト発掘という手法に注目

本当のことを知るためには、ダイアログ(対話)やインサイト発掘の手法を活用することが効果的です。以下にその理由と方法を説明します。

ダイアログ(対話)の活用

  • 深層インタビュー
    参加者との一対一の対話を通じて、彼らの意見や感情を深く掘り下げることができます。オープンエンドの質問を使って、自由に答えてもらい、具体例や背景を引き出すことが重要です。直接的なコミュニケーションにより、参加者がより本音を語りやすくなるため、真実に近い情報を得ることができます。
  • フォーカスグループ
    複数の参加者を集めて、特定のテーマについて自由に意見を交わしてもらう場を設けます。グループ内のディスカッションは、個人が考えを共有する助けになります。他者の意見に触れることで、参加者が自分の意見をより正直に表現しやすくなります。また、参加者同士の相互作用が刺激となり、新たな気づきを得ることもあります。
  • 継続的な対話
    一回限りの調査ではなく、定期的に対話を行うことで、参加者との信頼関係を築きます。これにより、参加者がより安心して本音を語れるようになります。時間をかけて信頼関係を構築することで、参加者が率直に話すことができ、真実に近い情報を得ることができます。


N1に対するインサイト発掘

  • N1インタビュー
    特定の個人(N1)に対して深く掘り下げたインタビューを行います。この手法は、特定のターゲットに対する深い理解を得るのに適しています。個人の経験や感情に焦点を当てることで、一般的なデータや傾向では見えない深いインサイトを発掘することができます。
  • 感情的な反応の探求
    インタビュー中に参加者の感情的な反応や体験に注目し、それに基づいて質問を展開します。参加者が本音を語りやすくなり、実際の行動やニーズに基づく真実に近い情報を引き出すことができます。


観察することや対話の場づくりも有効

  • 観察調査
    参加者の行動を観察することで、言葉だけでは表現されない本音やニーズを理解します。参加者が実際にどのように行動しているかを観察することで、調査回答の背後にある本音を知る手掛かりが得られます。
  • 心理的なバイアスに配慮した設問設計
    質問を設計する際に、参加者が自分の意見を隠したり、誤解を招いたりしないような工夫をします。例えば、選択肢を多様に用意したり、逆質問を使ったりすることが考えられます。参加者がより自由に意見を表現できる環境を作ることで、誤った回答を避け、本当の意見を引き出す助けになります。
  • ストーリーテリングの活用
    参加者に自分の経験についての物語を語ってもらうことで、彼らの感情や価値観を引き出します。ストーリー形式で話すことで、参加者が自己開示しやすくなり、より本音の部分を引き出すことができます。
  • 非言語的なコミュニケーションの観察
    インタビューやフォーカスグループの際に、参加者の非言語的な反応(表情、身振り、声のトーンなど)に注目します。言葉だけでは表現されない感情や意図を理解する手がかりとなり、参加者の本音に迫ることができます。

調査で人が本当のことを言わないのは避けがたい現象ですが、ダイアログ(対話)やN1インタビューを通じて、より深い理解を得ることが可能です。これらの手法は、参加者との信頼関係を築き、率直な意見を引き出すために非常に有効です。

また、調査の設計や実施方法においても、参加者が安心して本音を語れる環境を整えることが重要です。これにより、より正確で価値のあるデータを収集し、意思決定に役立てることができるでしょう。

顧客価値を生み出す大広のDeep Dialogueデザイン

大広は、企業が持っている価値と顧客が求める価値、社会が要請する価値の3つが交わったところに顧客価値を生み出すための手法として「Deep Dialogueデザイン」を提唱しています。これは「Deep Dialogue(深層対話)」により、顧客の、企業トップや従業員の、そして社会の本音をつかんで、そこから顧客価値を生み出すために企業の活動をデザインするというものです。ダイアログが上手くできないという企業のみなさんのために、誰と対話するか、どういう場で対話するかなど、いくつかのソリューションを開発しています。興味がある方は、相談フォームよりお気軽にご相談ください。


まとめ

顧客価値を生み出すためには「顧客の本音」を探ることが大切です。そこで「顧客の声」と「顧客の本音」の違いを明確にし、調査におけるバイアスや社会的望ましさがどのように顧客の回答に影響を与えるかを考察しました。過去の失敗事例からは、調査結果が必ずしも実際の行動やニーズを反映していないことが示されています。

顧客の本音を理解するためには、質的調査やダイアログ(対話)を活用し、参加者との信頼関係を構築することが重要です。深層インタビューやフォーカスグループを通じて、顧客の真の感情や動機を引き出す手法を提案しました。また、実際の行動データの分析や長期的なトレンドの観察も欠かせません。

大広が提唱する「Deep Dialogueデザイン」は、企業が持つ価値と顧客が求める価値を融合させることで、持続可能な顧客価値の創出を目指すものです。顧客との深い対話を通じて、真の顧客価値を理解し、より効果的なビジネス戦略を構築することが、今後の成功に繋がるでしょう。


最後まで、お読みいただきありがとうございました。大広COCAMPでは、これからも顧客価値・顧客体験開発に関するコラムに関するコラムを掲載してまいります。まだメルマガ未登録の方は、これを機会にぜひ、下記よりご登録ください。

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この記事の著者

COCAMPダイレクトマーケティング部

(株)大広が培ってきたダイレクト・マーケティングの知見やノウハウを発信するチーム。 通販の初期から今に至るまで、変化する時代と顧客を見続けてきた第一線のプロデューサーやスタッフをメンバーに、ダイレクトビジネスの問題や課題を、顧客価値の視点から解いていきます。