ビジネスを拡充する手段のひとつとして、コンテンツマーケティングに取り組む企業が増えています。顧客が必要とする情報を発信することで、潜在的な顧客を獲得し、商品購入につなげる。容易に実現できるストーリーのように思えますが、広告ではないただの情報コンテンツで売上を上げるのは簡単なことではありません。本記事では、大広が携わったクラシエ株式会社が運営する漢方に関する情報サイト「カンポフルライフ」の事例を通して、コンテンツマーケティングを成功させるポイントを、大広マーケティング局ダイレクトビジネスグループの宮川和則さんにお聞きしました。
宮川和則
大広 第2マーケティングデザイン局 ダイレクトビジネスグループ
インターネットメディア、広告代理店、共通ポイント事業会社等を経て2015年大広入社。コンテンツマーケティングの他、会員活性化、WEBアナリティクス、CRM領域でクライアントを支援している。上級ウェブ解析士、JAPAN MENSA会員。
“未来の顧客”を集めるコンテンツをつくる
OTC漢方薬には課題があった
クラシエ株式会社(以下クラシエ)が漢方のポータルサイト「カンポフルライフ」を立ち上げたのは2016年12月のことです。当時、クラシエはOTC※漢方薬で業界シェアNo.1でしたが、大広で自主調査を実施したところ他社を含めたOTC漢方薬の服用経験がある人はわずか19%弱しかいませんでした。 ※Over the Counterの略。ドラッグストアなどで処方箋なしで買える医薬品のこと。
つまり、体の不調を感じたときにドラッグストアで漢方薬を選ぶ人はあまり多くない状況だったということです。クラシエが漢方薬の売上を増やすためには、漢方薬の魅力を1人でも多くの人に知ってもらう必要がありました。正しく、深く、理解してもらいたい。そして漢方薬の市場を広げて、健康づくりに役立ててもらいたい。そのための一歩として選んだのが、情報コンテンツサイトの立ち上げでした。
また、クラシエには、CMでも有名な「コッコアポ」や「漢方セラピー」など複数の漢方薬ブランドがありますが、それぞれがブランドサイトを立ち上げていたため情報や読者が分散していることも課題でした。たとえば、コッコアポのサイトを見ていても葛根湯の情報にはたどり着けないというような問題があったのです。
バラバラになっていた情報を集約できれば、漢方への理解や商品の売上にもつながりやすくなる。それも、情報コンテンツサイトを立ち上げる理由の1つでした。
読みたくなるコンテンツとは
では、どんな情報コンテンツを作るべきか。当時はSNSよりもGoogle検索で情報を収集する人が多かったため、どんなワードで検索されるかを考えるところから始まりました。漢方薬の認知度が低いことを考えると、漢方薬関連ワードで検索する人よりも、「頭が痛い」「疲れがとれない」といった症状で検索する人のほうが多いのではと予測。漢方薬はいろいろな症状に対応した商品が多いので、検索ワードに漢方薬が入っていなくても症状を解決する情報コンテンツで多くの人を集めることができるのではと考えました。要するに、人びとの体の悩みと漢方薬をつなげるハブのような役割の情報コンテンツサイトを目指すことにしたのです。
とはいえ、クラシエとしては漢方の情報を伝えるだけではなく、最終的には漢方薬を買ってもらわなければ意味がありません。そのため大広では、情報コンテンツサイトの最初のプレゼン時から、ECサイトの立ち上げまでを見据えた提案を行いました。ざっくりいうと、【情報コンテンツで人を集める】→【漢方の知識を持った人を増やす】→【症状が出たら、クラシエのサイトで漢方薬を買ってもらう】というストーリーです。
当時はすでにオンラインでの商品購入が増えつつあり、この流れが加速すると店頭でOTC漢方薬を売っている会社、つまり、クラシエにも少なからぬ影響が出るのではと懸念されていました。クラシエ社内でもオンラインで自社の漢方薬を購入できるECサイトの必要性が高まっていたこともあり、大広の提案が採用されることに。こうして2016年12月、漢方の情報コンテンツサイト「カンポフルライフ」はスタートしました。カンポフルライフの現在のビュー数と訪問者数は競合サイトと比べて桁違いに多く、コンテンツマーケティングとしては成功したといえるでしょう。
なぜコンテンツマーケティングは難しいのか
近年、このようなコンテンツマーケティングに取り組む企業は少なくありませんが、成果が出る前に挫折してしまうことも多いようです。ではなぜカンポフルライフは挫折することなく、サイトを軌道にのせることができたのか。その理由の1つは、コンテンツサイトへのアクセス数が伸びるまでに時間がかかることをクラシエのご担当者が理解してくださって、粘り強く継続できたことです。
一般的に、コンテンツサイトがGoogleに評価されるまでには半年~1年かかるといわれています。そのため、SEOの数字だけを気にしていると「全然集客できていない」「コストの無駄だ」となり、コンテンツサイトの運営を途中でやめたくなるのです。カンポフルライフも立ち上げから1年はアクセス数が少なかった。ただ、最初のプレゼン時に、サイトが軌道に乗るまで時間がかかるというお話をしていたため、アクセスが伸びるまで我慢することができました。
Googleに評価されるには定期的に更新することが大事です。そのため、カンポフルライフではアクセス数が少ない時期でも月2本は新しい記事をアップすることを続け、Googleに評価されるのを待っていました。すぐに結果が出なくても地道に、定期的に更新し続ける。その結果、立ち上げからおよそ1年後にGoogleのアルゴリズムアップデートが起き、カンポフルライフのアクセス数は2年目は1年目の10倍強に、3年目は2年目の3倍強にと急上昇しました。
コンテンツサイトが成功したかどうかを測る基準はサイトによって異なります。たとえばBtoCなら商品購入サイトへの誘導、BtoBなら問い合わせや資料請求、ホワイトペーパーのダウンロードなどが挙げられるでしょう。カンポフルライフの場合は、記事によって漢方への意識を高められたかどうかを測る指標として、ECサイトや各ブランドサイトへの「送客数」に着目しています。
何度も訪れたくなる情報と仕組みをプラス
コンテンツサイトのメリットとデメリット
漢方のことを普段何も考えていない生活者と接点を作れる。それが情報コンテンツサイトの魅力です。また、定期的に更新し続けていくことで情報コンテンツがどんどんストックされていくのも特徴です。古い記事でも、花粉症シーズンになると毎年必ず検索順位が上がってくる。そんな記事もあります。続けるほどに情報コンテンツが資産になっていくのです。
その一方で、痛みや悩みで検索してやって来た人が、該当ページだけを読んですぐ離脱してしまうという問題も。生活者側から考えれば、悩みが解決できればもうこのサイトに用はないというわけです。カンポフルライフは多くの人の漢方意識を高めて、何かあったときに漢方薬をファーストチョイスにしてもらうことを目指しています。
では、何度も訪れたくなるサイトや、ほかのページも読んでみたくなるサイトにはどんな情報コンテンツが必要なのでしょうか。日本で漢方といえば“薬”のイメージを持つ人が多いかもしれませんが、実は漢方とは“考え方”のことで、薬膳などの食事や鍼灸、太極拳なども漢方の一種とされています。たとえば、西洋薬は原因によらず痛みを消すことを期待して用いられますが、漢方薬は体質と生活環境から痛みの原因を見極めて、各々の原因に則したものを用います。
このような漢方の考え方に触れると、自分の体をいたわる気持ちが増したり、自然に対する感じ方が変わったり、手作りのモノを好むようになったり、生活にいろいろな変化が生まれやすくなります。つまり、漢方の考え方は生活者の身近にあるものであり、暮らしに変化をもたらすものでもあるのです。
漢方との接触回数を増やす工夫
そこで、カンポフルライフでは、何度もサイトに訪れてもらうために、お悩み解決系コンテンツだけでなく、食事や運動を含めた体質改善系のコンテンツを充実させていきました。一見漢方との関連性がなさそうなツボやアロマ、ストレッチ、ヨガなどのコンテンツを発信しているのもポイントです。というのも、生活者は必ずしも漢方の情報を求めているわけではないからです。具体的な記事の構成としては、生活者が知りたい情報を最初に説明し、いろいろなソリューションを提示した最後に漢方薬を紹介するという流れを採用しています。漢方薬を押し付けるのではなく、選択肢の1つとしておすすめするというニュアンスです。
また、再来訪を促進する仕組みの1つとして、サイト立ち上げから1年後の2017年に会員登録制度を導入。会員個別のマイページで、その人の体質に合わせたおすすめ記事をレコメンドしたり、会員向けの漢方ウェビナーを開催したりしています。
何度も来たくなるコンテンツと会員登録制度によって、漢方への接触回数を増やし、理解を深めることを目指したカンポフルライフ。会員の方への調査では、77%もの方が「以前より漢方意識が高まった」と回答しています。また、漢方についてもっと詳しく知りたいという人が意外と多いこともわかり、飲み合わせや副作用などについて解説したランディングページを作るなど、会員登録制度からさまざまな施策が生まれているのも特徴です。
記事数が増えた現在、Yahoo知恵袋やXなどに寄せられた悩みに対してカンポフルライフの記事をすすめるという使い方もされています。生活者に、魅力的かつ有益な情報コンテンツだと認識されているのはうれしい限りです。
サイトの訪問者を顧客に変えていく
記事から売り場へ。ECサイトの導入
漢方薬は2000年以上前のレシピをもとに処方される薬であるため、西洋薬のような新たな研究開発が必要なく、さまざまな企業やスタートアップ企業が参入し始めている分野といわれています。こうした現状を鑑みると、クラシエはOTC漢方薬No.1ではありますが、競合他社とは異なるクラシエならではの価値をしっかり伝え、安心・安全な商品を買える場を作ることが必要でした。
そのためにまず、カンポフルライフの情報コンテンツで人を集め、漢方に対する知識を深める。次に会員登録制度で漢方意識の高い生活者を増やす。そして、売上につなげていく―。そんなストーリーを実現するべく、2019年10月にECサイトの提案を行い実施が決まりました。
会員登録制度とECサイトの両方で集めた顧客データを分析できるようになったことは、サイト運営において大きなターニングポイントになりました。たとえば、カンポフルライフで漢方薬の解説記事を読んだ人のほうが、読んでいない人よりもECサイトでの購買金額が高いことがわかる。すると、どんな記事が購買につながりやすいかを分析しやすくなります。また、薬膳のコンテンツを読んでくれる人は、他の記事を読む可能性も高くなることがわかる。すると、薬膳のコンテンツを充実させようと考えられるようになります。要するに、集めた顧客データを分析することで、コンテンツやサイトの改善・充実に役立てることができるようになったのです。
集客、サイト運営、会員の活性化は「三位一体」
カンポフルライフの立ち上げ当初から、「サイトへの集客」「メディアサイトの運営」「会員の活性化」の施策については、それぞれを個別に企画するのではなく、三位一体で考えることを大切にしてきました。たとえば、AとBとCの記事があった場合、この順番で続けて読んでもらうためにコンテンツのスタンプラリーをやってみる。すると、それを読んでくれた人が会員になってくれる。会員になったその人にマッチしそうなメルマガを送ると再訪してくれる。何かあったときにECサイトで購入してくれる。その人が読んだ記事やページの移動、購入商品などのデータを分析し、新たな記事を作ったりサイト内の動線を考えたりする…。簡単に説明するとこういうイメージです。
このような「巡り」を大切にする視点ですべてを考えれば、複雑に絡み合っているそれぞれの企画がうまく作用し、目的を達成しやすくなります。また、新しい課題を見つけやすくもなります。
また“行動評価”を活用したプレゼントキャンペーンも「巡り」には効果的でした。カンポフルライフ内での行動に応じて、スコアが貯まっていくというもので、記事を読む、リンクをクリックする、記事をシェアする…といった行動に応じてスコアを付与します。貯まったスコア分だけプレゼントの抽選に参加できるようにして、たくさん行動すればするほど当選確率は上がるという仕組みです。このような行動評価をもとにしたキャンペーンも、サイトの再訪を促したりサイト内を回遊させたりするのに有効で、顧客が漢方情報に触れる機会を自然に増やすことにもつながったと思います。
CRMを見据えた地道な伴走が大きな成果や新たな展開につながる
2025年にはECサイトにCDP※が導入される予定で、顧客の属性や行動をタイムラグなく分析できるようになることが見込まれています。※Customer Data Platformの略で、さまざまな顧客データを1カ所にまとめて収集・統合・保管し、分析するためのプラットフォームのこと。
さまざまなデータを活用することで、たとえばカンポフルライフとECサイトを効率よく併用してもらう方法や、キーとなるコンテンツを見つけるのが容易になるなど、さらにお客さんにとって価値のあるサイトづくりができるようになります。カンポフルライフのこれまでの実績はクラシエ社内でも注目度が高く、新たな部署としてカンポフルライフ部ができるなど期待が高まっていることもうれしいです。
コンテンツマーケティングはお得意先に継続的に伴走する必要がある仕事です。短期間では成果が見えづらいため軽んじられることも少なくありませんが、ビジネスの基盤となりうる重要な仕事でもあります。また、お得意先と長期間に渡ってコミュニケーションをとり続けることで、忌憚のない意見やアイデアを言える信頼関係が築きやすい点も魅力です。そこからまた新しいビジネスが始まる可能性も秘めているからです。集客→メディアサイト→会員活性のスムーズな「巡り」を継続し続けて、今後もカンポフルライフを漢方のポータルサイトとして発展させていきたいと思います。
まとめ
コンテンツマーケティングを始めるには、とにかくSEOが重要だと思い込んでいませんか。もちろんSEOも大切ですが、情報コンテンツを発信して、検索者をサイトに集めて、読者を増やす。それだけではビジネスにつながりにくいのが実情です。
本記事で紹介したカンポフルライフの事例からわかることは、サイトにやって来た顧客のデータを多角的に収集・分析し、そこから次の施策を考え、顧客価値をどんどん高めていくことの重要性です。要するに、情報コンテンツを発信できても有益なデータを集めることができなければ、より良い次の一手が打てないということ。コンテンツマーケティングをスムーズに成功させるためには、コンテンツの充実だけでなく、データの収集・活用方法についての知識を学んだり専門家のサポートを受けたりする必要があるといえるでしょう。
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この記事の著者
宮川和則
大広 第2マーケティングデザイン局 ダイレクトビジネスグループ