一緒につくろう、顧客価値のビジネス。

お役立ち資料 相談する
お役立ち資料 相談する

2025.01.29

TVCMより顧客づくりを優先した ブランドコミュニケーションの成功事例とは

takeya tvcm daiko

ブランドの認知を獲得するためにTVCMを打ってみたい。でもTVCMが本当に認知を上げてくれるのか、売り上げに貢献してくれるのかわからず躊躇してしまう。事業戦略上、そんな悩みを抱えている企業も多くあると思います。2024年7月、タケヤ化学工業(以下TAKEYA)というプラスチックの加工や成型技術に優れた企業が新ブランドのTVCMを展開しました。予想を超える手応えを感じたといいます。TVCM実施までにも、さまざまな検討と施策展開があったと聞きました。ブランド開発当初から伴走する(株)大広の上垣内さん、中牟田さんにお話を伺います。

[インタビュイー]

a_uegaito上垣内 淳
株式会社大広 大阪ビジネスデザイン本部  第3ビジネスデザイン局 ビジネスグロース部 部長
2006年大広に入社。入社から10年はプロモーションプランナー・コミュニケーションデザイナーとして、企業のイベント企画・実施や統合企画を担当。その後5年間営業職にて、企業のブランディングや新規事業開発に従事し、昨年より新設のD2Cビジネス推進局にてプロジェクトマネジメントに取り組む。2022年よりWellbeingのプロジェクトを立ち上げる。社外では、「GAMBA OSAKA新規事業開発」「NewsPicks NewSchool運営」等にも関わる。2児の父で、週末はサッカーチームコーチ。

nakamuta

中牟田 佳苗
株式会社 大広 CXデザイン本部 クリエイティブ局 第3グループ 部長  
2011年 九州大学文学部卒業後、大広入社。福岡生まれ福岡育ち。コピーワーク、PR発想のクリエイティブをベースに、手段を問わず統合コミュニケーションを企画・設計。顧客視点のコンセプト開発や丁寧な顧客体験を積み重ねるブランディングが好き。ヤングライオンズコンペティションジャパンPR部門ファイナリスト・インテグレーテッド部門ファイナリスト、ヤングスパイクスジャパン ブロンズ受賞。

 

プラスチック加工技術に優れたB to B企業発のブランド

――長くブランドに伴走されてきたと伺いっていますが、TAKEYAがどんな事業を展開されている企業なのかご紹介いただけますか。

上垣内
1961年創業のプラスチック加工技術に優れた会社です。どこの、とは言えませんが、大手企業のOEMで製造されている製品の中には、皆さんが一度は手にしたことのあるものも多いのではと思います。それだけ精密、精細で信頼できる技術をお持ちの会社さんですね。そういったOEMによる加工・成型技術を提供する事業と並行して、自社ブランドとしてキッチン用品ブランドの「FRESHLOK」とウォーターボトルブランドの「TAKEYA FLASK」を展開されており、大広では主にTAKEYA FLASKの事業支援を行っています。食品を密封収納する容器や乳幼児用製品、飲料容器などを世界各地へ出荷する、グローバル企業でもあります。


――自社ブランドにもプラスチックの加工・成形など、TAKEYAの強みが生かされているのですね?

上垣内
水筒のラインナップに、根強い人気のある「Thermo Flask®︎」というラインがあります。Thermo Flask®︎を開発するに至った経緯として、現社長がスポーツするときになかなか良いプロダクトがないと感じていたそうですね。そういう顧客視点に立った「品質を担保した商品」を作りたいと。そこで自分たちの強み、プラスチックの加工・成型技術を活かしたハンドル一体型のデザインや傷にも強いパウダーコーティングなど、独自の仕様が生まれたと聞いています。ボトルキャップもこぼれにくい、細い飲み口。かつ氷が入れやすい、洗いやすい、ワイドな口径でTAKEYAの技術を感じるところですね。食品容器のFRESHLOKは、軽くて機密性が高く、サイズバリエーションが豊富なことがTAKEYAらしさかなと思います。このキャニスター、FRESHLOKは大手の生活雑貨店で定番商品となっています。

アメリカ西海岸からサステナブルな
思想をまとって逆輸入されたステンレスボトル


――ステンレスボトルというと、すでに競合ブランドがシェアを占めている市場ではなかったのかなと思うのですが、ブランドの背景にあるストーリーなどはありますか?

上垣内
TAKEYA FLASKは先に北米、西海岸で販売されており、日本には逆輸入されたブランドです。アメリカでブランドの展開が始まった2000年代初頭は、マイクロプラスチックによる海洋汚染など使用済みペットボトルの環境問題が表面化していました。そんな時代の中で、マイボトルによってペットボトルの廃棄削減に貢献できる、つまり環境保全の潮流に伴走するブランドとしてTAKEYA FLASKは認知とシェアを獲得していきます。現在、北米のステンレスボトル市場ではトップ10に入るくらいのシェアがあります。ステンレスボトル市場において日本では後発と思われがちですが、そんなカルチャーをまとって逆輸入されたブランドですね。

ブランドの世界観確立から、
顧客との対話基盤となる自社ECの構築へ

――大広はいつ頃からブランドサポートをされてきましたか?

中牟田
2019年に個別の商品のPR動画制作や小さなデジタル広告からお付き合いが始まりました。振り返ってみますと、この頃は「個別商品ブランディング期」ですね。企業としての特徴や環境配慮の姿勢が世の中にまったく知られていませんでしたし、 すでにある主力商品においてコンセプトや用途を示すものがほとんどありませんでした。そこでブランドサイトの立ち上げから着手したのです。サイトトップにはTAKEYAという企業と主力ブランドであるACTIVE LINE、TRAVELERをPRするブランドムービーを設置しました。このムービーはUSAオフィスのあるL.Aで撮影し制作したものです。このムービーを制作するプロセスによってブランドの世界観を得意先と共有しあえることになり、傘下ブランドの人格を定義していく作業もスムースに進められたと感じています。ブランドサイトのコンテンツ企画を中心に、社長と膝詰めで対話を重ね、企業の今後についての想いを言語化しながら企業ブランディングを進めていきました。また、当時SNSのアカウントをすでに開設していましたが、発展性のある運用や世界観の構築に困っていましたので、投稿コンテストなどインフルエンサー施策で効率よく認知と集客を進めていきました。ムービーで撮影した素材を活用し、初期段階からInstagramなどで少額でテストを重ねながら顧客の反応を検証し、次のクリエイティブに活きる学びを掴んでいったという感じでしょうか。

SNS写真takeya_official Instagramより引用


――世界観の構築と同時に、お客さまとの関係づくりを進めていかれたのですね。お買い物の接点となるプラットフォームはどうでしたか?

中牟田
当時はSNSからブランドサイトに誘導し、そこから購買は外部ECで、という流れでした。2022年前後のことでしたが、打ち合わせの最中に社長からふと「外部ECでの価格コントロールが大きな課題」というお話を伺いまして。そこから始まったのが、ステンレスボトル統合型の自社ECプロジェクトです。TAKEYAにとって初めてのD2Cの取り組みですね。先方から明確なオリエンがあったわけじゃなかったのですが、定例の打ち合わせで聞いたお困りごとになんとか応えてあげたい、そんな気持ちからスタートしたプロジェクトでした。はじめはひとつのブランドだけでテスト的に始めたのです。外部ECの手数料の可視化して収益も丁寧にシミュレーションし、顧客のLTV向上というゴール設計から事業価値を明確化した状態で投資判断ができる状態をつくることができた。インターフェイスもブランドの世界観を担保しつつ、私たちクリエイティブのスタッフで提案を重ねていきました。その結果、言語化できないTAKEYAらしさ・世界観の表現と、顧客視点での使いやすさ・顧客体験の向上、どちらも大事にすることで、顧客と対話する基盤となる自社ECができたと感じています。


――TAKEYAのファンとの向き合い、対話する機会はありましたか?

中牟田
これまで顧客とのやり取りは最低限で済ませてきたのですが、それぞれの商品にファンがいることを認識し、向き合いを考え始めていたところでした。大広からは顧客との対話(ファンダイアログ)の重要性を繰り返し説明させていただき、顧客価値発想を共有することができたと感じています。そこで食品容器のFRESHLOKのファンの方々との「対話会」を実施し、ファンが感じている顧客価値を深掘りする作業を行ないました。すると見た目のデザイン、サイズの豊富さ収納性の高いデザインであることなど、これまで気づいていなかった「使い手品質」がわかってきたのです。ファンとの対話を通して、顧客価値を共通言語化することができました。


――自社ECが整備される中で、顧客のLTVを上げる取り組みもチャレンジされたそうですね?

中牟田
自社ECが整備されると取得できる顧客データもリッチになります。そのデータを活かしたキャンペーンなどを継続して行なっています。新しいチャレンジとしては、新サービスとしてスポーツチーム単位での購入を促進する「Team Bottle」サービスを検討していました。これは、チームボトルをチームT、オリジナルタオルに続く、チームのお揃いアイテムの定番に!という新需要を創出することが目的でした。実施には至らなかったのですが、自社ECサイト内で注文から加工・発送までほぼノータッチで運用できる、サービス体制を構築できていたかなと思います。

IMG_6743

商機が熟せずと判断し、一度は展開を見送ったTVCM


――TVCMをオンエアする、その受け皿となる流通販路はどうでしたか?

上垣内
現在では国内大手流通グループ、家電量販店、ホームセンター、外資系倉庫店舗など取り扱い店舗が増えてきました。もともと北米ではシェアが高いブランドということもあり、北米でのノウハウを活かして販路を広げていると聞いています。実は2年前にもTVCMを打ちたいという相談を受けていましたが、当時は流通、小売という受け皿にやや不安を抱いていたことも事実でした。ですから、大広は広告会社でありながら、そのタイミングではTVCMは強く推さなかったのです。自社ECも整備できた、コロナ禍も明けて人流も戻ってきた、流通の受け皿も整ってきたという今年は、いよいよTVCMに踏み込むという流れにあった。TVCM展開にあたり、流通向け資料も大広で用意しました。

――これまでの広告活動で獲得できたこと、できなかったことはどんなことですか?

上垣内
これまでもSNSを活用した広告を行なってきました。SNSでは生活者は能動的に自分に合うものを探しているわけですから、広告はブランドに興味がある人、ありそうな人に配信されます。Thermo Flask®︎の世界感に共感する人・興味がありそうな人にリーチをするSNS広告から、Thermo Flask®︎を作っているのがTAKEYAであることまで理解促進させるのが難しく、そこに課題があると感じていました。
企業の認知が圧倒的に低いことを懸念していたのです。受け皿が整備されてきたこのタイミングで、企業認知を高めたい。しかしデジタルだけでは企業認知を獲得しにくいことができていなかったことだと思います。

TVCMで加速度的に広がった、TAKEYAの企業認知拡大


――2024年7月に実施したTVCMは、社名訴求とシーン訴求が印象的です。

中牟田
TVCMの提案が動き始める前に、TAKEYAの顧客価値を言語化する提案を続けていました。TAKEYAのボトルはキャリーハンドルが一体化されているデザインです。なので、ユーザーをいろんなところへ連れ出してくれるボトル、このボトルがあることで自分がアクティブになれるブランドであると提案し議論していたのです。TVCMのプランニングに入った時、TAKEYAという社名の中に“TAKE”(連れていく)というワードを発見したことがいちばんの仕事だったかなと思います(笑)。その発見は、顧客価値を言語化するというプロセスがあったからかなとも思いますね。シーンは、TAKEYAブランドのインクルーシブな姿勢、ボトルバリエーションの豊富さを伝えています。TVCMで犬が水を飲んでいるシーンがありますね。あれはシリコーンバンパーというパーツなのですが、TAKEYA FLASKは長く使っていただけるようパーツ群が豊富なこと感じてほしいと考えました。


――TVCMを実施されて、どんな効果が生まれてきましたか?

上垣内
これまでデジタル広告のセグメントは30〜40代女性(子供のための代理購入含め)がメインでしたが、TVCM露出と同時に、50〜60代のお客様が自社ECサイトへ往訪するケースも増えてきました。TVCMが主目的であったブランド認知の獲得や認知を起点にした指名検索に効果が出せる、ということが実証できましたし、TVerの配信セグメントの年齢層などに幅を持たせる検討に繋がりました。

――今回の取り組みの振り返りと、今後についてお話いただけますか?


上垣内
ブランドの世界観づくりから始まって、自社ECの構築、そしてTVCMの実施に至るまで約5年間伴走しておりますが、どのフェーズも顧客価値発想を共有しながら得意先と一緒になっての作業だったと思います。私たちとしては特段新しいことでも、画期的なことでも、華々しいことでもなく、地味で当たり前のことを繰り返してきているのですが。TVCMが功を奏したのも、これまでのブランドサイトや自社ECを通じての顧客づくり、ファンとの関係構築、そして得意先による販路拡大の営業努力があってこそなのかなと感じています。ただ、広告やプロモーションという領域だけでは貢献できることの限界があるため、TAKEYAというブランドが事業成長していくためには何が必要かを常にフラットに考え、新たな施策をいち早く得意先に提案し続けていきたいと考えています。

IMG_6928


――今日はありがとうございました。


まとめ

TAKEYAの成功事例は、単なるTVCMの効果にとどまらず、その準備段階にこそ成功の秘訣が隠されています。ブランド認知を獲得するためには、まず顧客基盤を築き、ファンとの関係性を深めることが重要です。特に、TVCMの前に自社ECサイトの強化、SNSでの試行錯誤、ファンとの対話を通じた顧客価値の言語化など、地道な努力が確実に成果を生みました。


 

TAKEYAの取り組みについて気になる方は、「ファンと直接つながる対話型マーケティング ~実践事例「TAKEYAフレッシュロック対話会」」のアーカイブ動画をご視聴になれます。

最後まで、お読みいただきありがとうございました。大広COCAMPでは、これからも顧客価値・顧客体験開発に関するコラムを掲載してまいります。まだメルマガ未登録の方は、これを機会にぜひ、下記よりご登録ください。

またCOCAMP編集室では、みなさんからの「このコラムのここが良かった」というご感想や「こんなコンテンツがあれば役立つ」などのご意見をお待ちしています。こちら相談フォームから、ぜひご連絡ください。

 

この記事の著者

上垣内 淳

2006年大広に入社。
入社から10年はプロモーションプランナー・コミュニケーションデザイナーとして、企業のイベント企画・実施や統合企画を担当。
その後5年間営業職にて、企業のブランディングや新規事業開発に従事し、昨年より新設のD2Cビジネス推進局にてプロジェクトマネジメントに取り組む。2022年よりWellbeingのプロジェクトを立ち上げる。
社外では、「GAMBA OSAKA新規事業開発」「NewsPicks NewSchool運営」等にも関わる。2児の父で、週末はサッカーチームコーチ。