まずはZ世代が行っているリクルーティング活動と、彼らの就職先の決め方や求める職場環境を探ってみます。
出典:SHIBUYA109 lab. 「Z世代のキャリア観に関する意識調査」
「就職活動は売り手市場」という昨今の報道を受けて、就活生にとって就職活動は楽な環境にあると思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、当然志望する企業というのは全体的に人気があるので、広き門になった実感はないようです。そのため、数十社にエントリーシートを出した人が複数名いました。また一方で、最初から、志望業界を絞り込んで就職活動に取り組み、数社を検討した中で納得する会社に出会えたので、早めにリクルーティングを終了した人もいました。いつまでもリクルート活動をしていてはせっかくの大学生活がすべて就職のためになってしまい、本末転倒ではないかという意見も出ました。昨今ますます早期化する「就活」の問題点が出ていると感じました。活動の方法としては、上記グラフのような傾向とよく似ており、インターンを重視してきた点では同じでした。ただし、今回の参加者たち(新人二年生)はコロナの影響を最も受けた世代であるため、リアルな説明会というのが経験できておらず、その分を志望会社のYouTube配信(LIVE含む)や、OB・OGからの情報提供で補ったようです。できるだけ、リアルな会社をリアルな言葉で確認したいという思いが強く、信用がおける人からの就業実感、SNSの中での情報交換などで社風や評判を確かめていったようです。
また、最終的に就職先として決めたものは何か?という問いかけには「社風」と異口同音に言ったのが興味深いところでした。一般的に、事業内容や規模、賃金が気になるのは当然でしょうが、同業他社と比べたときに、そこが決め手になったというのです。これは、上部のグラフ要素では、「社員の1日の流れ、働き方」に相当するのでしょうか。「企業理念」と言えなくもありませんが、理念というよりも、漠然と伝わってきた会社の雰囲気に好感を持ったようです。
出典:SHIBUYA109 lab. 「Z世代のキャリア観に関する意識調査」
職場環境、つまり社内の雰囲気に対する重要度は、「穏やか・ゆったりしている」という項目が高いのが一般的な傾向ですが、今回の座談会に集まった面々の話をよく聞いてみると、「チームとして取り組んでいるようだ」とか「お互いが高めあっている仕事しているように感じた」というところに魅力を感じているようです。これは、よく言われるようにZ世代が仲間内を大切にする傾向が強いということが影響しているのかもしれません。「なんかギラギラしているのは好きじゃない」という声もあったので、「社員同士がフラット・対等である」が好まれ、「ライバルと切磋琢磨できそう」が低くなっていることを象徴しているのかも知れません。それは男女ともに同じ傾向の発言がみられ、調査グラフほどの男女差はあまり感じられませんでした。
さらに、就職活動中オンライン面接に対しては、リアルよりもオンラインが便利だったという感想がありました。物理的な移動に取られる時間を減らして、面接を受ける会社数を稼げる事にメリットがあったようです。コロナによってリアル面接自体が無理だった世代でもあり、交通費がかからなかったことは幸運だったとの声もありました。面接は、最終面接ぐらいしかリアルに行われることはなかったようです。
結局、座談会に集まった人間は現在も働いているので、「0年転職」はもちろん起きていません。ただ辞めることを考えた人もおり、その理由は配属先。いわゆる配属ガチャといわれるものでした。ただし、メンターとなる先輩との対話や、実際の業務領域がかなり広範囲に及ぶことが分かってくると、自分の動き方次第で持っているスキルが活きることに気が付いたようで、今の仕事に前向きに取り組んでいます。そういう意味では、困ったことや悩みがあったときに、相手の意見に耳を傾けてくれる人がいるかどうかが非常に重要になっています。一般論や友人たちからの伝え聞きでは、0年転職した人は、とくに新社員用のカリキュラムがないのか、放置されたままになっていた人や、やることがなかったり、周りが誰も教えてくれなかったりする職場であるようです。働き方やコミュニケーションの多様化が進む中で、従来の「背中を見て学べ」というような師弟主義的な考え方は、現代の職場環境においては成立しにくくなっているのかもしれません。これにより、より多様な学びの機会やコミュニケーション手段が求められるようになっています。現代の職場では、個々のニーズに応じた指導方法や、より効果的なコミュニケーションのあり方を模索することが重要となっています。いま求められている新人教育のあり方をしっかりと考慮せずに、せっかくの人手不足環境の中、入ってきてくれた新人を失ってしまうのはとても勿体ないことですね。一方で、なんでもかんでも優しく接することは、お客様のように扱われているような気がするので止めてほしいという声もありました。つまり、若者に対して丁寧に接することはいいことなのですが、「若者」という理由だけで機械的に特別扱いしたり、腫れ物扱いするような対応は、不信感を抱いたり、関係構築する上でマイナスに働いたりすることがあるのでしょう。
しかしながら、ずっとこの会社にいるかどうかということになると話は違ってきます。
出典:SHIBUYA109 lab. 「Z世代の仕事観に関する意識調査」
簡単に言えば、未来のことは分からないというのが、実態です。上記のグラフからは、「転職は考えていない・今の会社でずっと働きたい」が約25%で一番多いように見えますが、裏を返せば他の75%は転職する可能性があるということです。座談会に集まってくれた人からも、「ほとんどの人が、いまは転職ありきで考えているのでは?」との発言がありました。また一方で「転職は特に考えていない」という人も確かにいました。
彼らは自分のやりがいを重視しているようです。それとお金です。いまは、やりがいのある仕事が出来ており、自由な環境に置かれていて自分の成長が感じられているので、転職しようとは思っていないようですが、当然ながら誰もこれからのことは分かりません。それと、特に気にしておかなければならないのは、ワークライフバランスとお金です。
次のグラフを見てください。先のデータでも、給与のことが2番目の理由として挙がっていましたが、もう一歩踏み込んでみましょう。よくタイパ、コスパと言われていますが、要は、ワークライフバランスをとる上で、給与が見合っているかどうかをシビアに見ているようです。もはやワークライフバランスという概念なしに、仕事は語れないと言っても過言ではありません。
もちろん、どれぐらいでバランスをとるのかは、個人によって変わります。
「仕事上でやりたいことがいっぱいあって、今は楽しくて仕方がない」という人もいれば、「やりたいことと違っていることが分かったら、結構パッと辞めちゃうかも」という人もいます。「プライベートの時間が少ないように感じるが、この業界はもともとタフだと分かっていて希望したので多少は仕方がない」と割り切っている人、「テレワークになって自分の好きな環境を選べるので働いている割には自由で心地いい」という人と個性が出てきます。しかし、概していえるのは、プライベートや生活のために労働があるのであって、かつてのような「会社人間」といわれるタイプは極めて少数派であることです。
これらを総括する、次のような発言がありました。「残業は多いときもあったが、それに対するお金は見合っている。リモートも出社も選べるような、この自由さを手放すなんてことは考えられない。現時点では転職はありえない。会社の上司からは、固定席でなくてかわいそうといわれるけど、全然そう考えたことはない。この業界は仕事とプライベートの境界線がないようなところがあるが、そのマネジメントは、結局、個人の裁量だと思う」とのことでした。
では、そんな彼らは自身のキャリアパスをどのように考えているのでしょうか。
最近話題になっている「ゆるブラ(ゆるブラック)」な企業。これは、残業が少なくノルマなどのプレッシャーもないなど一見ホワイトな労働環境の一方で、仕事にやりがいが見いだせない、スキルアップや昇級が見込めないといった企業を指します。つまり、「自分の望む成長ができないこと」は、彼らにとっての「新たなブラック要素」だというわけです。
一方、「ゆるい職場」に魅力を感じる人が6割超という調査もあります。一見、「ゆるブラ」とは矛盾するようですが、「ゆるさ」に対しては肯定的な認識があるのです。
Z世代にとっての「ゆるい職場」とは、ノルマや責任が厳しく求められないと同時に、「髪色や服装などの身だしなみの規定が少ない・ない」「規則が少ない」など、時代に見合わない理不尽な規則には縛られない、働く側の”裁量”の高い職場が求められていることがわかります。「ゆるい職場」には肯定的だが、「ゆるブラ」は回避したい。自由は求めているが成長できないのはイヤ――「ゆるさ」の中身をどう認識しているか、ここは世代間でのすり合わせが必要だといえるでしょう。
次のふたつの調査結果を見ると、仕事において同僚や上司から認められ、頼りにされることを望んでいる側面と、そうなるために自身が成長したいが、それは強制されたり競争するのではなく、あくまでも自分のペースで、という意向が見て取れます。
また、次の調査では、自分の好きなことを仕事にしたいという傾向と、それを実現する手段として今の会社での成長を望んでいる人が多いこともわかります。
座談会でも、「自分のやりたいことはあって、今はそのスキルを身につける期間だと考えている。今後もやりたいことができるなら今の会社で働き続けるし、他に移ったほうが給料や成長の環境、学べる環境があるなら辞めることも選択肢のひとつ」と、実に具体的な発言がありました。同世代の感覚としても仕事でやりたいことを重視する人は多いと感じていて「だから、違うと思えばすぱっと辞めてしまうんじゃないかな」。また、「子どもの頃にYouTuberが登場して、こういうことが仕事になるんだ、自分にスキルさえあればやりたいことを仕事にできるんだ、と感じた。やりたいことを仕事にできると思っている人は多いと思う」という意見もありました。
個々の具体的な展望を尋ねると、「会社での業務以外に、社外で個人的な活動をしてみたい」「地方創生に興味があって関わってみたい。会社員としてでも、個人としてでも、どちらでもかまわない」「学生時代はちょうどコロナの時期で留学できなかったので、ワーキングホリデーが使えるうちに留学してスキルアップしたい」といった声があがりました。「会社員としての自分」と「やりたいこと」を冷静に見極めながら、接点を探っている様子がうかがえます。
ここまで、Z世代の様々な調査結果と、個別の具体的な意見を見てきました。転職を当然のように視野に入れつつも、それぞれがいま置かれた場所で努力し、成長することを望んでいる姿も見えてきたように思います。
では、そんな彼らに、これからも自社で働き続けてもらうためには、企業として「どのようにZ世代を理解し」「どのような体制を整えるべきか」について聞いてみました。すると、全員が全員、口をそろえて「Z世代を理解する必要もないし、会社にその体制も求めていない」とのことでした。その真意をたずねると、「世代ではなく、私個人を理解してほしいから」という、大変ストレートな、そして至極まっとうな答えが返ってきました。
第2章でも触れたように、入社以来彼らは「Z世代だから」とひとくくりにされ、必要以上に丁寧に対応されることに違和感を持ってきました。もちろん、どの世代にも世代的な特徴はあり、それゆえ上司や先輩社員がとまどう現実もあるわけですが、本人たちには「特別扱いはカンベンしてほしい」というホンネがあるようです。
つまりZ世代と接する際に一番重要なのは、何か特別なプログラムではなく、語りかけたり相談にのったりするときの「姿勢」にあるようです。新人の期間は社内に教育係の先輩がいて、仕事の細かなスキルを学んだり相談したりできること。また、1on1など上司との個別面談を頻繁に行うことにもニーズがありました。「個別面談が頻繁にあると、上司も自分の仕事や性格を理解してくれるし、こちらも自分の声を届けやすくなる。そういう機会を増やしてほしい」。一方で、「教育係にしても上司にしても、人間的に合う人も合わない人もいる。人間関係がよくないのはいちばんのストレスなので、そういう場合に解決できる方法があればといい」という意見もありました。
最後に、どんな企業・体制であれば長く働きたいと感じるのでしょうか。
座談会では、「働きやすいこと」「ワークライフバランスがいいこと」「福利厚生がしっかりしていること」などがあがりました。また、「人間関係、尊敬できる人がいるかどうかも大きな要素」だということです。「今は、残業なども含めて20代だからできる働き方をしているが、将来も同じように働けるとは限らない。親の世代くらいの上司が夜中まで働いているのを見ると、自分には無理だと思う」「一緒に働く人との相性が大事。それがうまくいかなければ、どれだけお給料をたくさんもらってもキツい」という意見も聞かれました。
上司や先輩としてZ世代を理解しようとし、考え方の違いに苦慮した上の世代の人は多いと思います。採用時の情報発信や入社後の教育で、正解を探しあぐねている状態かもしれません。しかし、一人ひとりの話に耳を傾けると、仕事でやりがいを感じたい、成長したいと望む姿も見えてきます。求められているのは、彼ら一人ひとりとの真正面からのコミュニケーションだという気がします。「世代ではなく、『私』を見てほしい」――そんな彼らのホンネを求めて、大広若者研究所D’Zlab.の調査・研究は続きます。
SPECIAL THANKS 山本健嗣 黒田歩未 橋本このみ 上村善太
Z世代の若者たちは、キャリアに対して多様な価値観を持ち、早期退職を検討する者が増えている一方で、職場選びにおいては社風や職場環境を重視しています。彼らは自由度が高く、成長が見込める環境を求めており、企業側もこれに応えるべく新しい採用戦略や働き方を模索しています。また、Z世代はプライベートの時間を大切にし、ワークライフバランスを重視する傾向にあります。企業は、個々のニーズに合わせた柔軟な対応が求められる時代になっており、彼らのキャリアパスは以前の世代とは異なる多様性を持つことが明らかになっています。このような背景から、企業とZ世代の共生には個々を理解し、尊重する姿勢が不可欠になっていると言えます。
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